同類encount(4)~転生者アラタの苦労譚
私と同じ転生者であるアラタさんの話を要約するとこうだ。
生まれた時から(おいおい、大変だな)前世の記憶を有していた彼は、成長の途中でここが前世で好きだったゲームの世界であることに気が付いた。
そして彼が考えたのは、"一番やばい"と思われるルートを回避しつつゲーム作中に登場する悪役令嬢、アルメラルダを助けたいというもの。推しキャラだったらしい。
そこでちょっとだけ口を挟む。
「えっと。男性でも乙女ゲー、するんですね? それとも前世は女性の方ですか」
「いや、男だよ。だって乙女ゲーの主人公ってギャルゲーとはまた違った趣でめちゃくちゃ可愛くないか? その子視点でプレイするの楽しい。あと単純に主人公が好みだと攻略対象キャラとのカプが美味しい」
「わかる」
私としたことが、つい偏見を含んだ勘繰りをしてしまった。
そうよね。前世の私だってギャルゲーやってたし、なんならエロゲもやっていたし。その逆があってもおかしくない。それぞれメインターゲットが違う分、別の魅力があっていいわよね。わかるわかる。
あと最後の聞いた感じ、この人おそらくカプ厨だな。
最初は少なからずアラタさんを警戒してたんだけど、なんだかさっきから急激に親近感湧いてくるわね……。
……少し話がずれてしまい、またもやマリーデル弟から冷ややかな視線で見られてしまったので本題に戻ってもらう。
一番ヤベぇルートを回避しつつ(そんなのあったっけ?)悪役令嬢、アルメラルダ様が不幸な末路を辿らないようにとアラタさんは早々に行動を開始したらしい。
まず行ったのは自分が原作へ介入できるポジションを手に入れる事。
一応実家の家柄は良く貴族であるものの、妾の子かつ五男という微妙な立場だったので王都へ出て騎士となり実力を磨いたとのこと。それで現在は第二王子の護衛を務めているのだからすごい。
そして次に行ったのは身を立てる過程で貯めた金銭を使い、原作主人公マリーデルに国外へ転居してもらう事。
思わず「原作主人公を先んじて追放とか斬新っすね」と言ってしまったのだが、彼としてはこれが最低限達成しなければいけなかったことなんだとか。
「もちろん、本人も納得済みだ。もともと彼女は食うに困らなければ魔法学園に通う事は無かったし、支援する理由をでっちあげていい仕事先を紹介してあげればそちらへ行くさ。星啓の魔女という栄誉と攻略対象との玉の輿は無くなってしまったが、マリーデルの気質的にも自分の力で働いて生計を立てていく方が合ってると思うしね。きっと成功するよ」
つまり本物マリーデルは「いい仕事あるアルヨ。引っ越しの費用も負担するアルヨ」とそそのかされたわけですね。
実際に現在は国外で幸せな日々を送っているとのこと。
これを聞いている時、彼女の弟だという偽物マリーデルはすごく優しい顔をしてた。
……そして何故、マリーデルちゃん本人を原作から排除しなければならなかったか。
ゲームの世界だと知って好きなキャラが居るにしても、自分の人生賭けてまで動くとか聖人かな? と思ったのだけど。ここで「最悪のルート辿っちゃうと国ごと亡ぶから動かないわけにもいかなかった」と言われて目を丸くした。
「え、悪役令嬢虐特化その他ほのぼの学園恋愛ゲームで何言ってるんですか?」
「……もしかして、全ルートクリアしてない口?」
「…………」
「にわか勢だったか……」
「せめてライト勢と言ってくださいません?」
私の前世にとってこの世界を舞台にした作品は、たまたま手を出した同人ゲームのひとつにすぎない。
好きなキャラだけざーっとクリアして、その他に関してはプレイ動画まとめとかで補完してたのよ。
アルメラルダ様の色々だって、だいたいは「アルメラルダ末路」ってまとめ動画で見ていたし。
それでもざっくり要点は掴んでいたから、今さらながら「まあ何とかなるやろ」とアルメラルダ様をそこそこ悪役令嬢に留めようと動く予定だったんだけど……。
……などと考えつつ、思ったより不穏な流れになってきたな? と続きを待つ。
私などよりよほど詳しく作品を知り、何かやべーことを回避しようと真剣に動いている大先輩のお言葉である。背筋を伸ばして拝聴せねばなるまい。
「先ほど貴女が言ったように、魔法学園プリティーサバイバルは悪役令嬢の末路の多さに特化したゲームだ。制作陣、悪役令嬢に対する熱の入れようがそれぞれ違っていたらしいからな。いかに
「何のうらみがあってそんなことを、というより捻じれ曲がった性癖を感じてブルっちゃいますわね」
「ね。俺はやめてよかわいそうでしょ派のプレイヤー」
「それを聞いて安心しました」
もしこれで殺す派だったら私がこのどタイプの男に対し「貴様を殺す!」しなければいけない所だった。
アルメラルダ様、蛮族だし結局悪役令嬢になってしまったけど、殺されなきゃいけないほどの子ではないよ。
「俺が回避したかったのは全ルートクリア後に現れる裏ルート。【冥府降誕】」
「おっと作品のジャンル間違えたかな? って単語出てきましたね」
「ね。……お察しの通りこれだけ明らかに毛色が違うルートなんだが、作品の根幹に関わる設定なんだよこれが」
「ふむふむ」
「マリーデルとアルメラルダが目指す星啓の魔女。この役割の始まりは国の地下に眠る冥界門の封印をすることなんだ」
「冥界門」
「冥界門。名前の通り死者の国へつながる門で、これが開くと国民全員が生贄になって現世に冥王が降臨します。でもってゲームの趣旨が主人公と攻略対象達で組むパーティによる冥王討伐へと変わります」
「待て待て待て」
そんなツッコミどころ満載な設定、なんでまとめ動画にないんだよ。
「初見反応新鮮だな。……とまあ、まず万が一にも現実では起きてほしくない話の流れがあるわけだ。毛色が違いすぎるからか、プレイ動画でもよく別枠でまとめられていた。ここまではいいか?」
「突っ込みたくはありますが、まあ、はい」
「……気持ちは分かるが、クオリティ高くても同人ゲームだからな。開発者たちの好きなものがぶち込まれてる。利益度外視だから、まあこういうこともあるんだよ」
「なるほど……なるほど?」
納得していいのかこれ? と考えつつも渋々頷くと、アラタさんは「だけど安心してほしい」と前置く。
「このルートの絶対条件は星啓の魔女候補である「主人公」と「悪役令嬢」がそろっている事。魔女となれる本物の主人公がこの場に居ない以上、そのルートが解放されることはなくなった」
「お、お疲れ様です」
「あ、ありがとう。……理解してもらった上で労われるの、ちょっとクルものがあるな……」
どうしよう。この人、ちょっと涙目なんだが。
彼が話す事が本当ならば、ここまで眠れない夜もあっただろう。
同じ転生者の私は漫画やアニメ見てだらだらしつつアルメラルダ様に虐められていただけなのに。
非常に申し訳ない気持ちになる。
「……ごほん。えー……、でだ」
「僕がこんな格好でここに居る理由、説明した方がいいんじゃない?」
「そう、それ」
魔法学園制服のスカートをぴらぴらさせているマリーデル弟の言葉にアラタさんが頷く。
……なんだろうか。同じ転生者同士だからか、段々と彼の態度が砕けているため最早「アラタくん」という感じでもある。
めちゃくちゃ好みの外見に、同じ境遇、似通った価値観、親しみ易い性格。
……"良い"な。
ひそかに頷いている私をよそに、説明は続く。
ともかく最悪のルートは回避したけど、それでも何がきっかけでルート解放がされるかわからない。
そのためマリーデルちゃん本人が居ない状態でも「原作」という流れを見失わないため。かつ、出来た余裕で前世の推しであったアルメラルダ様が不幸にならないために原作でのイベント管理を行い、最も平和で誰も不幸にならない「大団円」エンディングを迎えるために動いているのがアラタさんの現状のようだ。
ちなみに大団円エンドは十二人もいる攻略対象の好感度を平等に上げないといけないため、結構難しいし面倒くさい。私はプレイしなかった。
そしてこの策で不可欠なのが「原作主人公の身代わり」。
「最初こんな話をされた時は馬鹿にしてるのかと思った」
「マリーデルに隠したまま信じてもらうのには苦労した。彼女にはフォートこそがその才能を見込まれて魔法学園に入学したと伝えてある」
「アラタには支援をしてもらえたし……その対価とすれば、まあ安かったさ。僕は姉さんが危険な目に合わず幸せになってくれるなら、なんでもする。たった二人の姉弟だ」
……そういえばゲームでも星啓の魔女の資質を見込まれたとはいえ、いきなり見知らぬ環境にぶち込まれることをマリーデルちゃんが了承したのは弟がいたからだったか。名前しか出てこなかったけど……彼の容姿をみるに、弟は弟でも双子かな?
自分だけでなく彼を養うお金が出るから、彼女は魔法学園へ通う事を決意した。
そんな麗しい姉弟愛。何も知らない姉に代わって、弟が困難と危険を引き受けるのも納得できる。
荒唐無稽な転生者だとか、原作だとかいう与太話を信じてまで。
彼は姉のためにスカートをはくことを決意したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます