第028話
「……そうか、遠征に来てたんだな」
僕が冒険者になったことを知っているルークは、察するのも早かった。
「その人は?」
「こちらはラフィーリアさん。
「どうも」
「なっ!? そんなスゲぇ人と、なんでアウセルが一緒にいるんだよ?」
「実は、僕を冒険者に推薦してくれたのが、ラフィーリアさんなんだ」
「は、はぁああああああああ!?」
顎が外れそうになるくらい口を開けて驚くルークは、僕とラフィーリアを交互に見返す。
ビックリだよね。当の本人が、いまだに信じられないくらいだもん。
「英雄に推薦されるって……お前、どこまで先に行くつもりだよ! ちょっとは待っといてくれよ!」
「ははは。ルークならすぐに追い抜かしちゃうでしょ」
止まっていると列からはぐれちゃうから、歩きながら話す。
「ありがとな、アウセル」
「ん……?」
「お前、孤児院に仕送りしてくれてるだろ。お前が送ってくれたお金で、お古だった教材とか服とか、全部買い替えたんだぜ? みんな喜んでたけど、特にリタは女だから、ヨレヨレの制服が新品になってかなり喜んでたぞ。もちろん、俺もな」
「ははは。それは良かった」
中等部は13歳から16歳まで通う。
小さい頃は気にならなかったお古も、さすがに恥ずかしくなってくる年頃だ。
新しい制服で気持ちよく学園に通うみんなの姿が目に浮かぶ。
「お前、なんか変わったな」
「え……僕は何も変わらないよ」
「いいや、変わった。前よりも自信のある顔つきになってるぜ」
「そ、そうかなぁ」
「だってお前、この状況をなんとも思ってないだろ?」
「……?」
この状況とはなんのことなのか、辺りを見渡してみてもわからなかった。
「ここは教科書の中の挿絵でもなきゃ、夢の中でもない。凶暴な魔物が出てくる、本物のダンジョンだ。それなのにお前、全然緊張とかしてないだろ」
言われてみると、僕は初心を忘れていることに気づく。
そういえば僕も、初めて来たときは凄く緊張してたなぁ。
デスラッドの牙すら避けられないくらい、体がガチガチだった。
……まぁ、武器も防具も何の準備もなく、いきなり連れて来られたら誰だって緊張するに決まってるけど。
「……?」
後ろをチラって見たけど、ラフィーリアは「なにか……?」という感じで小さく首を傾けていた。
急にダンジョンに連れて行かれたり、わざとデスラッドに腕を噛ませたり、ラフィーリアの行動はなにかと突拍子がない。
結果として僕はその奇想天外な行動のおかげで冒険者になれたんだから、何も文句は言えないんだけど。
是非とも次があるなら、事前に説明して頂きたいんだよね。
心臓に悪いからさ。
「何回か通ってると、さすがに慣れてくるよ」
「……あのさ。ムカつくこと言うかも知れないんだけどさ」
「ん?」
「お前のスキルって【泡】のままだよな? どうやって戦ってんだ? 泡は戦闘で役に立つのか?」
「ああ。スキルの熟練度が上がったら、硬い泡を作れるようになったんだ。
「デギャッ!?」
目の前の通路を泡の膜で塞ぎ、硬化させる。
薄暗い中では透明な泡は見えにくいから、ルークは顔面から激突した。
「っつ〜。なんだぁ? こりゃ」
「泡の膜。強化すると盾にも使えるし、魔物を圧死させることも出来るんだ」
ルークは泡を叩いたりして感触を確かめながら言う。
「へぇ〜。こりゃすげぇな。めちゃめちゃ硬い」
集中力をあえてなくすと、泡は本来の柔らかさになってパチンと割れた。
「ルークの方はどう? 学校の授業、ちゃんとついていけてる? 進学が決まったからって、怠けてたりしてない?」
「ふん! こう見えても学年一位だ。剣術も体術もスキル熟練度も、学園トップなんだぜ?」
「えぇ!? そっちの方が凄いじゃん!?」
「卒業したら、早くお前に追いつきたいからな。サボってる暇なんてねぇよ」
ルークなら追いつくどころか、卒業する頃にはとてつもないところまで行ってそうだけどな。
才能のある人が努力したら、どこまで行っちゃうんだか。
――その時、洞窟の奥から悲壮な声が鳴り響いた。
生徒たちの列が止まる。
和やかな雰囲気は一変し、湧き上がってくる緊張感が全身の肌をヒリつかせる。
「な、なんだ……?」
ここはダンジョン、決して安全な場所ではない。
魔物と出くわせば負傷者も出るだろうし、死者も出る。
生徒の誰かが負傷して、悲鳴を上げたのかも知れないと、最初はそう思ったけど、気配の様子がどうもおかしい。
察知する気配の全てが、異常なほど混乱してる。
一方向に流れていたはずの川が、何かのせいで逆流し始めてる。
「ラフィーリアさん」
「少し……おかしいね……」
「なんだよ……? 2人には何か見えてんのか?」
「奥にいるみんなの気配が少しおかしいんだ」
「気配……?」
「なんというか……感覚的にわかるんだ」
「おいおい……俺には全くわからないぞ」
「うん。最初はわからないと思う。でもルークなら時期にわかるようになるよ」
「来るよ」
洞窟の奥から、天井を這うように黒い煙が迫ってくる。
慌てた様子の生徒たちが、煙に飲み込まれまいと周りの人を押しのけながら、こちらに向かって戻ろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。