魔女王と勇者様はツインソウルッ! ~私は婚約破棄された16歳の女の子。悪役令嬢に殺されかけた私を救おうとして死んだのは、知らない男の子。1ヶ月後に死んだ私は、魔女王フリーダになっていた。【短編】

武志

第1話 魔女王フリーダの前世、サラは婚約破棄されました

「もう、君とは別れる! 婚約は破棄はきさせてもらおう!」


 デリック王子は私──サラ・レイアットに向かって声を上げた。

 リアーディアン魔法学校の進級パーティーの最中だった。


「な、なぜですか?」


 私は驚いて聞いた。デリック王子は私の婚約者だ。きらびやかなパーティーに、不穏ふおんな空気が立ち込める。


「サラ! お前の学校での悪い行いは、耳に入ってきている! 他の女生徒を後ろから蹴り飛ばす! 背中をなぐる! 水をぶっかける! 生徒の財布から金を盗む……。そんな女だとは思わなかった。私の将来の妻として、ふさわしくない」

「ご、誤解です! デリック!」

「残念ながら、サラ。もう君は婚約者ではないんだよ。親しげな『デリック』という呼び方はよしてもらおうか。デリック様と呼べ」


 デリックは16歳。このエクセン王国の王子で、リアーディアン魔法学校の1年生だ。私も16歳で、デリックのクラスメート。今度、2年生に進級する。私、サラ・レイアットは、そのデリック王子と婚約をしていた。お互いの両親が決めたことだった。


「待って、待ってください」


 私は、デリックの手を両手で握った。何としても、誤解を解かなければ。私は人に意地悪をするのが嫌いなのだ。いや、怖くてできない。人を蹴飛ばしたり、殴ったり、水をかけたりするなんて、できるわけがない。


「私は、人に意地悪をしたりすることはありません。それは誤解ですから……。どうか、婚約破棄こんやくはきを取り消してください」


 私の両親は貧しかった。しかし私の両親は、デリック王子の両親、エクセン王とエクセン王妃が交通事故にあう瞬間を救ったのだ。まるで環境、立場の違う両家だが、親交ができた。

 そこから娘の私と、エクセン王、王妃の息子デリックは、クラスメートから恋人関係に発展し、婚約するまでになった。


 おととし、私の父は病死。去年、母も事故で死んでしまった。私はデリックとの恋愛のおかげで、気持ちを保つことができた……。


(しかし──ああ、なんてこと!)


 デリックは今日、この進級パーティー会場で、婚約破棄こんやくはきを言い出したのだ。


 きっと私の死んだ父母は、天国でがっかりするでしょう。私とエリックの婚約を我がことのように喜んでくれていたのに。


「君とはもう終わりだ。バカバカしい。さあ、サラ、向こうへ行け!」


 デリックは私の肩を押した。私は尻持ちをついた。


「うっ……」

 

 デリックは「やり過ぎたか」という表情をして、周囲の人々を見まわした。そして舌打ちをした。


「あーら、何をさわいでいらっしゃるの? デリック」


 美しい女生徒が歩いてきた。輝くような美しいドレスを着ている。ブロンドの長い髪の毛をなびかせている。長い足でスタイル抜群ばつぐん──。私と大違い。


 貴族のラシェル家の娘……!


(ジェシカ・ラシェル!)


 ジェシカは、私とデリックのクラスメートでもある。そして前年度の「エクセン王国学生魔法トーナメント準優勝者」でもある。今や魔法専門誌や新聞などでも特集させる、有名美少女魔法使いなのだ。


「ジェシカ!」


 デリックはジェシカを抱き寄せた。


 まあ!

 

 私はショックで、尻もちをついたまま、二人の熱い光景を見ていた。


「こ、これはどういうことでございましょう。デリック──王子」


 私はたどたどしく言った。


「ジェシカを抱き寄せるとは……」

「見てわらかんのか、にぶい女だな!」


 デリックは舌打ちした。


「僕とジェシカは付き合っているんだよ。もう二ヶ月前からね」

「私と付き合っていながら? 婚約者という私がありながら? デリック王子、あなたは、う、浮気を……」

「……浮気? まあ世間では、そう言うかな?」


 デリックは周囲をうかがいながら言った。周囲のクラスメートは、ハハ……と引きつった笑いを浮かべている。


「あーら、何よ、サラ! デリックは私が好きだから、自分の気持ちに、素直にしたがっただけじゃないの」


 ジェシカは、私をゴミでも見るような目でにらみつけた。私は知っている。私の悪い噂を流していたのは、このジェシカという女生徒だということを!


「それとも──私と魔法で勝負する?」


 ジェシカは手を前に突き出した。

 

「ほう、ジェシカの魔法を見るのは久しぶりだな」


 デリックはジェシカをはやし立てた。


「私の魔法を見たいって? いいでしょう、私の魔法を見てちょうだい、デリック!」


 ジェシカは天を指差した。すると、宙に光のやいばが現れた。


(あっ、真空攻撃魔法!)


 やいばを魔法で作り出し、敵の体をつらぬく魔法だわ! 危険な魔法よ!


「そーれ! サラ! 私の魔法を受けてごらんなさいな!」


 ジェシカは笑いながら、私に向かってそれを放つ! き、危険すぎる!


 グサアッ


(え……?)


 私の前に立ちはだかっていたのは……隣のクラスの、話したこともない少年だった。


 レッド・ラディアス。


 私の前に立って、私を守ってくれた。彼の心臓には、ジェシカの真空魔法のやいばが深々と刺さっている。


「え、ええ? な、なんてこと?」

 

 ジェシカはあわてたように、声を上げた。


「わ、私は手前で止めるつもりだったのよ! だ、誰か、治癒ちゆ魔法使いを呼んできて! わ、私のせいじゃないわよ! ひいいっ」

「な、何だこれは。どうなっているんだ?」


 デリックも顔が真っ青だ。


「大丈夫かい……君……危なかった……ね」


 レッドは青白い顔で、それでいて笑って、私に聞いた。


 私はフルフルと首を横に振る。あなたが大丈夫なの……? 


 数時間後、レッドは……死んだ。今まで何のかかわりもなかった少年が。




 で……その1ヶ月後、私、サラ・レイアットは、森の道で、魔物に殺されて死んだの。


 はーあ、あっけない。


 お祭りの帰り、夜の森の道で魔物──狼男に出会って、ガブリとみ殺された。


 ◇ ◇ ◇


 ……ん?


 私は目を覚ました。私は手を見た。


 何だか不思議な夢を見ていたな。夢には、人間の学校のような場所が出てきた。


 私はサラという女学生だった。私の婚約者を奪った女生徒に、真空魔法を突きつけられた。

 私に向かい、真空魔法が放たれる。しかし、今までかかわりのなかった生徒に助けられた。


 その生徒は死に……その1ヶ月後、私は魔物に殺されて死んだ……。


 そんな夢だ。


(そうだったな。サラは私の前世だったな。前世の夢を見ていたらしい)


 フフッ。魔族の魔法婆に占ってもらったのだ。私の前世はサラ・レイアットという人間の女学生だったと。


 だが、今、私はそんなことを気にしている暇はないのだ。


 私は、勇者を待っている。勇者・レッド・ラディアスを殺す。


 私の名は、魔女王まじょおうフリーダ・ディノラ! 魔王様の配下四天王の一人だ。

 そしてここは私の城! 勇者は私の部下を倒し、今まさに、私のいる玉座ぎょくざに攻めて来る!


 レッド・ラディアス……さっき夢に出てきた名前のような気もするが。


 いや、そんなことはどうでも良い!

 ──ここにもうすぐ、宿敵、勇者レッドがやってくるのだ!

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