8 最低住環境

 


 この家は俺だけで住むならそこまで気にしなくてもいいんだが、ここの住環境は最悪だ。


 水もなければ火もない。多少離れていたとは言えあの男たちが入り込んでいた森の中だ。完全に安全な場所というわけでもない。家だってイノシシに突撃されるくらいで崩れてしまうくらいには脆い。そんなところに高校生くらいの女の子が住むとなればいろいろと足りなさすぎる。


「駄目、でしょうか」


「うーん。ここは見ての通り家以外何もない。家の中もほとんど何もない状態だ。長く住むには厳しい環境だと思う」


 一応少し離れた場所に水が湧いている大き目の泉があるが、そこから水を運んでくるのは結構な重労働になる。


「ずっとこのままのつもりはないけど、当分はこの環境で生活することになる。だから結構つらいと思うよ」


 そう言うとレナは何かを決意したように表情を引き締めた。


「助けてもらったのに何もしないのはよくないです。それに私には他に行く当てもないんです。何でもしますので、どうかここにいさせてください」


 そう言うとレナは勢いよく土下座をしてきた。

 その光景を見て、この世界にも土下座の文化があるんだな、と的外れなことを考えたがすぐにレナを止める。


「そんなことしなくてもいいから。あと年頃の女の子が何でもするなんて言うのは駄目だよ」


「ですけど……」


 土下座しているレナをゆっくり立たせ、近くの丸太椅子に座らせる。立たせる際に緩い首元から見えてはいけないものが見えてしまったが、そっと視線を逸らした。


 ここに来るまで結構精神的に追い込まれていたようだし、ちょっとやけになっているのかもしれない。ある程度時間をおいて気持ちが落ち着くまでは何もしないように言った方がいいだろう。


「さっきも言ったけど、当分はゆっくりしていていいよ。君もいろいろあって疲れているだろうからね」


「……はい」


 レナは一応うなずいてくれたが、どこか落ち込んだ様子で下を見たままうなだれている。


「まあ、それに見ての通り家がこんな感じだからやれることってあまりないんだよね。火があればそれを見てほしいところだけど、残念ながらないし」


 現状獲物を探してきたり、近くの泉から水を汲んできたりするくらいしかやってもらえることはないが、どちらも重労働で、今のレナに出来るようなことではない。他は家の強化は急務ではあるがさすがにそれは俺じゃなければできないので、手伝ってもらうわけにもいかない。


「火、ですか?」


「ああ。できれば欲しいんだけど、この森の中じゃ手に入れることもできないから」


 そういえばここにレナが住むことになるなら、生肉とかは大丈夫なのだろうか。ダメだったら別の食べ物を探さないといけないんだけど、これは本格的に木の実とかを探さないと駄目かな。


「あの、火なら私、魔法で出せます。それくらいしかできないですけど」


「え、それ本当?」


 俺の問いにレナはすぐに手元から火を出してくれた。ライターよりも少し大きいくらいの火だったが、種火になるのなら問題はない。

 想定外のことではあったが、これで火を手に入れたと言えるだろう。それに、火をつけてそれを見守るのはそこまで体に負担ではないだろうから、何かをしたがっていたレナに仕事を振ることもできる。


「それなら、君はこれからこの場所の火を担当してもらうことにしよう」


「わかりました」


 先ほどとは違ってうれしそうな表情になっているレナがそう返事をした。






 ―――――

 次話から新章です。


 短かったので。夜にもう1話更新します。

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