6 家に帰ります。女の子を連れて
とりあえず面倒なことは終わった。いや、まだ終わっていないか。
男たちは樹の根元に横たわっている。すでに息はなく、少々見るに堪えない状態になっている。
女の子はまだ目を覚ましていないし、男たちをこのまま放置するのもどうかと思う。
正直、男たちはこのまま放置してもいい気もしたのだが、他の人間が男たちの死体を見つけた場合どうなるのかがわからない。最悪、熊駆除の時みたいに猟友会的な存在がここにきてしまうかもしれない。
そうなればさらに面倒なことになることは確実だ。
やはり処理くらいはしておいた方がいいよな。燃やすのは火がないから無理だし、適当に穴を掘ってそこに埋めるくらいでいいか。穴掘りは家を建てる時にやったから、どれくらいできるかはわかるし、そこまで手間もかからない。
そんな感じで男たちを横たえさせて入れられる大きさの穴を1メートルほどの深さで掘り、その中に男たちを入れて埋め戻した。男たちが持っていた装飾品も剣などの使えそうなものを除いて同じように穴の中に埋めている。
あとは女の子だが、このままここに放置していくわけにもいかないので、家がある場所まで連れていくことにする。
男たちから拝借した帯剣用のベルトに同じように拝借した剣を2本差し、使うあてもなさそうだがとりあえずもらっておいた少量の硬貨が入った袋を同じようにベルトに括り付ける。
そして、倒れている女の子をできるだけ優しく持ち上げる。よくある横抱き、お姫様抱っこのような状態になっているが、女の子が起きる様子は一切ない。
「ん、あ…あーおぅ」
今まで女の子の見た目は一切気にしていなかったわけなんだが、抱きかかえたことで、その容姿がはっきりと目に入った。
顔立ちなどを見た感じ10代の半ばくらいの見た目だ。そしてそれに見合った感じに出るところは出ているし、かなり女性らしい体つきになっている、まあ……そのなんだ。要するに目のやり場に困る状況だ。
そのうえ、今まで気にしていなかったというのもあるだろうが、女の子はかなり薄手の服を着ていた。
完全に透けている、というほどではないものの薄っすらと肌の色が見えているし、体の凹凸もある程度わかるくらいには薄い服だ。
本当に目のやり場に困る。
とはいえ、ほかの服があるわけでもないし、女の子を置いていけるわけでもない。
若干、すでに埋めてしまった男たちが着ていた服を拝借しなかったことを後悔したが、体格的に俺ではサイズが合わないし、この女の子に血の付いた服を着せるのも忍びない。
そんなわけで、できるだけ視界に入れないよう意識しながら、女の子の負担にならないようなるべく振動が起きないようにゆっくり、ただし、大股で家の場所に戻ることにした。
家があった場所についた後、先に女の子を一時的にいつも使っている表面を削って少し平らにした椅子の上に寝かせる。
そして、丸太が山積みになっているところから、俺がベッドとして使っていた丸太を半分に割ったものを引っ張り出し、その上に女の子を移動させた。
女の子が今後どうするかはわからないが、起きるまでには家を元通りにしておいた方がいいだろう。ずっと外にいるのもどうかと思うし、あの怪我ですぐにどこかに行けるとも思えない。
せっせと山になっていた丸太をどかし、再度元と同じように丸太を積み上げていく。
「やっぱりちゃんと削ってしっかり組むように作らないとまた崩されるよなぁ」
あのイノシシの様子だとまた壊しに来るのは間違いないし、このままなら同じように壊されるのは明確だ。
しかし、ここでは構造を強化するような鉄製品は存在しないし、土台を補強するためのコンクリートも存在しない。
「いっそ、丸太が交差する場所に支柱を何本か立てて、簡単に動かないようにするべきか」
どうすれば家の強度を上げられるのか、専門知識がない俺にはぱっと良い案が出てくることはない。
そうこう考えているうちに家は元通りに組み直った。
そのあとはなかなか起きない女の子を気にしながら周囲からクッション用の木葉などを集め、それでもまだ起きることはなかったので、もう1つベッドを作って家の中に入れた。
女の子が起きたのは翌日になってからだった。
俺が朝の日課、と言ってもここに来てから始めたものだが、ストレッチをしていると、そこに女の子が家の中から出てきた。
やはり動くと怪我をしているところが痛むのか、動きが少しぎこちない。
「あの」
どんな言葉をかけるべきか、そんなことを考えていると、女の子がかなり警戒した様子で俺に声をかけてきた。
まあ、気づいたら知らない家の中で寝ていて、外には知らない人がいる状況なら女の子が警戒するのは当然のことだろう。
「ここは?」
「一応俺の家だね。この場所の地名とかを聞いていたのなら申し訳ないけど俺にはわからないけど」
「そうですか」
俺の返答を聞くと女の子は周囲を確認するようにあたりを見渡した。それに連動するように頭にあるケモノ耳もせわしなく動いている。
「あの」
「何かな?」
「えっと、あの……その」
まだ何か聞きたいことがあるようだが、どうしてかそれ以上女の子は言葉を続けることできないようだった。それどころか次第に息が浅く早くなっていく。
「一回深呼吸、ゆっくり呼吸しようか。それじゃあ、うまく質問もできないだろうからね」
「は…はひ」
明らかに過呼吸の症状が出ている女の子に一度落ち着くようにと言葉をかける。ただ、自力で呼吸の間隔を整えるのがつらそうだったので、少し助力することにした。
「吸ってー、吐いてー」
「ひゅひゅー、ふひゅー」
「そうそう、そんな感じで。無理しない範囲でゆっくり呼吸しよう」
「ひゃふ」
なるべく負担にならないよう、女の子の呼吸に合わせて声をかけていく。そんな感じで、女の子が完全に落ち着くまで、俺は声をかけ続けた。
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