第5話 噓つき
――あの日のように、まるで月の光がそのまま擬人化したかのような肌の白さ。......美しい。
「――って、聞いてます......?」とこちらへ顔を向ける猫。俺は慌てて反対へと顔をそむけた。
「え!?なんで!?」と困惑する猫にたいして俺は弁明をする。
「いや、あの雲が月にかかっててさ、よく見えなかったから......ってか、いや!見えてない!大丈夫!だから気にするな」
「?、なんの話をしてるんで、......えっ」
おそらくは、猫も気がついたのだろう。自身が猫の姿ではなく人になっている事に。
「は、はうぅ......」
か細い声の小さな悲鳴。猫には悪いがちょっと可愛いと思ってしまった。いや、ちょっとじゃないわ、かなり可愛い。
「あの、あれだ。俺のTシャツある場所知ってるよな?だからとりあえずはそれ着てくれ。すまんけど」
「い、いえ、助かります」
下は、下はどうしたらいいんだ?くそ、想定して色々こいつ用に用意しとけばよかった。土壇場に焦りだすのは俺らしいけど、ほんとズボラというか......自分の性格が恨めしい。
彼女の立ち去る気配を感じ、猫の座っていた場所に目をやる。先程の美少女が脳裏に焼き付いている。スラリと伸びるしなやかな腕、柔らかそうな肉づきの脚。
ふっくらとしたふたつのそれは童顔な顔に似合わず主張が激しく自然に目を奪う。
すまんな猫。バッチリみてたんだわ.......罪悪感ヤバい。ホントにごめん。こんどたこ焼き沢山作るから。赦して、お猫様。
「えっと......?頭抱えてどーしたんですか」
自責の念に苛まれている所に彼女の声が聞こえた。戻ってきたようで、ふと見ればそこには少しぶかぶかのTシャツを着た少女が。
「あ、可愛い」
ぽろっと、つい。出てしまった一言。
「......ぅ......あ、ありがとうございます」
シャツ越しにもわかる胸の膨らみが妄想をかきたてる。伸びる白い脚は月光が落ち広がる。
(......まるで、異世界のエルフの少女だなこの美しさは)
「あ、あまり見ないで。恥ずかしいです......」
「そ、そっか......ごめん」
隣に座り直した彼女。
「人になれましたね」
「だな......」
「あれ、今回は気絶しない」
「んなほいほい気を失うか。もう慣れた」
「ええっ、まだ二回目なのに?」
「......え、なにお前、気絶してほしいのか」
「やですよ。あなたが寝たら寂しいじゃないですか」
寂しいか。あの日、俺がこいつの人の姿に驚き気絶した後、やっぱり寂しくさせていたのか。
「すまん」
「え、ええ、素直......こわ」
「俺は元々素直な性格だぞ」
「脳内で?」
「おい」
「あははっ、冗談です」
「......からかいやがって」
「いつもからかわれているお返しです」
「え、からかってた?」
「嘘です」
「嘘かよ」
ふふっ、と彼女は笑う。彼女の唇に触れながらはにかむ仕草と、切れ長の目が柔らかくおちる様は、月が綺麗に見えるような思いにさせる。
「てか、それ......体はホンモノなのか?幻とかじゃなくて」
両手を見て、ぐーぱーと握りしめたりする猫。
「ホンモノ、だと思いますけど......ほら、シャツにも触れれてるし、あの日だって毛布を寝室から取ってこれてる。窓だって閉めれた」
「確かに。幻ではモノに触れる事なんて出来ないよな」
――と、その時。ふわりと包み込むように俺の手の上に彼女の手が重なった。ジッとこちらを見つめる眼差し。猫は一度視線を逸し、再び目を合わせる。
「......どう?」
と、短く。俺に聞いた。
「あ、え......ほ、ホンモノ、です」
かろうじて、上ずる声とともに答えることができた。けれどこちとら三十年恋人も無く、ともすれば手をつなぐこともしたことが無いドーテー。恥ずかしさで心臓が破裂する危険性が。
「ぷっ、あはは」
笑い出す猫をジト目で睨む。
「からかうなよ......」
「すみません。ちょっと可愛くて」
「よしお前の飯は今度からササミのみだ」
「いぃい......やめてえ、ごめんなさい」
泣きそうな顔になる猫。ほんと美人てのはどんな表情でも美しいな。てか、そろそろ手を......この子ずっと手重ねたままなんだけど。刺激が強すぎる。
とふと気がつく。重ねた手が淡く青色に光っている事に。俺の視線に気がついたのか、猫も重なる手を見る。
「!?、な、なんで光ってるんですか」
「あ、お前にも見えるのか。これ、なんなんだろうな......」
「......そういえば、言ってましたよね」
「?」
「あの、あれ......えっと、なんでしたっけ?三十になると、なんだーかんだーって......」
「なんだーかんだー?肩こりとか腰痛が酷いとか?あ、目がかすむ?」
これは目のかすみのせい?ってことか?
「違いますよ!いまそんなの関係ないし!あれですあれ、私が始めて猫から人の姿になったときに、あなたがぼやいてたじゃないですか!」
「え、え?......んー?」
そんなに怒らなくても良いだろ。えっと、あの日は確か誕生日で、日付がかわって寂しく三十を迎えたんだよな。
「.....え、もしかして」
「思い出しましたか」
白い頬が高揚する猫の横顔。
「いや?あんまり、すまん酒飲んでたから......」
「ドーテー!!!ドーテーが三十で魔法使いいい!!」
うおっ、びっくりした!いやまあ思い出してたけどね!
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