『アイリの異変と、ディアの苦悩』(6)
中庭に辿り着くと、アイリは魔獣の姿のディアの元へと駆け寄る。
だが、ディアは意識がないようだ。所々出血していて、重傷を負っている。
「そんな、ディア、なんで……」
アイリが愕然としていると、捜索隊の悪魔の男がアイリに報告する。
「応急処置はしました。ですが魔力が尽きていて、人の姿になれなかったようです」
本来なら巨体の魔獣よりも『人の姿』のディアの方が運びやすいし、治療もしやすい。
しかしディアの姿を変える魔法を使えるのは、不在の魔王オランと、アイリだけだ。
兄のコランは魔力の覚醒が遅かったので、高度な魔法はまだ習得していない。
アイリはディアの毛並みに両手を添えると、深呼吸をして目を閉じた。
(ディア……人の姿になって……)
アイリが念じると、その両手から光が溢れ出し、ディアの全身を包み込む。
その光は収縮していき、それが収まると、そこには人の姿のディアが倒れていた。
アイリの魔法によって、ディアは人の姿に変身したのだ。
しかしディアの体は無数の弾丸の跡により出血し、かえって痛々しく見える。
「ディア……」
「アイリ様、後はお任せ下さい!」
そこへ救急隊が到着し、気を失ったディアを担架に乗せて医療室へと運ぶ。
アイリが目を潤ませながら見送っていると、捜索隊の男がさらに報告をする。
「森で倒れていたディア様の近くには、3人の密猟者も倒れていました。彼らも重傷です」
「密猟者……それでディアが襲われたんだ……」
ディアの事だから、ギリギリまで魔獣に戻らずに戦って耐えたのだろう。
ディアを信じきっているアイリは、それがディアの罪だとは一切思わなかった。
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