第8話 邪神、悪徳商人を成敗する
我が領地は着実に復興に向かっている。人間どもが汗水垂らしてがむしゃらに働いているからだ。
立ち並ぶ人間どもの住居は見違えるほどマシなものとなり、物売りが活発に行われるようになった。
畑の作物に関してはトレントの実がいい仕事をしており、あれのおかげでいい土となっているようだ。
私も試しに一口かじってみればなるほど、実に美味である。
町を歩き回ってみれば人間どもが私に軽快に挨拶をして、いい忠誠心を見せた。
「テオ様! おはようございます!」
「うちの採れたての野菜はどうでしょうか!」
「家畜にもいい餌を与えられて、今年は質がいいミルクが絞れそうですよ!」
活発になったのはいいことだが、歩くたびに人間どもが群がってくるではないか。
それに加えて私の傍らには二人の女がいる。ファムリアとエリシィが離れぬ。
「邪神様、今日も人間どもが元気に囀っていて何よりです」
「ファムリアさん、そんな言い方はないんじゃない? そもそも邪神ってなに?」
「邪な神のように恐れられて強く、そして優しいという意味だよ。まー、わっかんないかなぁー?」
「なにそれ、私はしっかりとテオ様って呼ぶからね。ね、テオ様っ!」
囀っているのはこいつらだ。さすがに密着されると邪魔極まりない。
これでは監視も捗らんな。歳は確か十四と言っていたな。
使えるのであればこのまま手元に置くこともやぶさかではないが、ただの腰巾着であれば用はない。
「エリシィ。貴様は強くなりたいのだろう? 私につきまとって何かが変わるのか?」
「テオ様と一緒にいることによって強さの秘密を探りたいの!」
「ならば密着する必要はないだろう」
「体温を感じるのも大切だと思って……」
直後にファムリアに引きはがされたのでは、探りも何もない。
互いに睨み合うのであれば他所でやってもらいたいものだな。ん?
見慣れない男達が寄ってくるな。今度こそ盗賊とかいう害虫か?
男達の中の一人が揉み手をしながらやってきた。
「おや、もしかしてあなたが新しい領主になったお方ですか? いやぁ! 探しましたぞ!」
「なんだ、貴様は?」
「私は商人のコギアと申します。領民の方から聞いてましたが、まさか新領主がこんな聡明そうなお坊ちゃんだとは思いませんでした!」
「要件を言え。商人ならば物売りか?」
物売りは活性化に繋がるのでぜひやってもらいたい。
私に直接、交渉を持ちかけるとはな。見るからにふざけた男だが、話くらいは聞いてやろう。
「この領地は最近になって目覚ましい発展を遂げられているようですな! そんな素晴らしい領地にて商売をしようと思いましてね。ご挨拶にうかがった次第です」
「何を売るつもりだ?」
「こちらになります。私の故郷で採れるマジックキャベシ、魔力がみなぎったいい作物ですよ」
「魔力だと?」
特段、魔力など必要としたことはないが見ただけでわかる。禍々しいものが纏わりついており、人間どもが口に入れるべきものではない。
他の作物も同様だ。腰を低くして私を欺こうとしたのだろうが下策も下策、実に下らん。
以前、畑を耕している人間がこんなことを言っていたな。いい作物が実れば害虫が寄ってきて食い荒らす。
害虫は時として毒を吐き散らすのだ。大方、この下郎も我が領地に目をつけた害虫といったところだろう。
「ではこの作物を貴様が食ってみろ」
「へ?」
「どうした? 自慢であれば食えるはずだ。食え」
「いえ、さすがに調理しなければ……」
「我が領地の作物は生でも食えると人間どもが言っていたぞ。食え」
うろたえる商人とやらに私はそいつが持ってきた作物を向ける。
食えぬだろうな。食えば人間の脆弱な体であれば、悪影響を与えるのだから。
「う、くっ……!」
「どうした? 食え」
「ちょ、調子に乗るんじゃねえぞ! 下手に出てやりゃこのガキが! いいから黙って認めりゃいいんだよ! あぁコラァ!」
「消えろ」
「ぐぶぇあぁッ!?」
クズを遥か彼方まで吹っ飛ばした。あの軌道ではおそらく森に落下するだろう。
運が悪ければ大トカゲの餌になるといったところか。
「な、ど、どうなったんだ!?」
「こうなったらヤケだ! このガキを殺して領地を乗っ取ってやる!」
護衛をやっていた男達か。そうくるのであれば構わん。相手をして――
「テオ様を殺させるわけないじゃない」
「バァカ。お前らなんかにこれ以上、邪神様の手を煩わせるわけないじゃん」
迫る男達に対してエリシィが剣で応戦、舞うようにして一掃してしまった。
男達の腕や足が的確に斬られて、奴らはたちまち戦闘不能に陥る。
まさか殺さずに生かしたというのか?
残りの男達はファムリアがダークネスアローで仕留めてしまった。
この一連の活躍に、また領民たちが騒ぎ出した。
「テオ様も強いが、あの女の子達も強いぞ!」
「あっちの子の剣術に惚れた!」
「俺はファムリアちゃんの弓が癖になる! 仕留められたい!」
やめろ。今、まさにファムリアがそちらに弓を向けたぞ。
あんな奇人でも一応、私の領民だ。弓を下ろさせてから、私はエリシィの手を取った。
「エリシィ、人間にしてはなかなかやるようだな」
「え? そ、それって、もしかして、認めてもらったってこと?」
エリシィの手を握ったまま、私は直に波動を感じた。
やはり素晴らしい。こいつの中には間違いなくテオールの血が流れておる。
あの神に比肩する波動も健在だ。今はまだ粗削りだが、腕を磨けばあのテオールに迫るかもしれん。
「私は見誤っていた。人間が弱いのであれば、あくまで人間同士で比較するべきなのだ。お前は強い、認めよう」
「そ、それ、も、もしかして、こ、婚約とか」
「改めてお前を私の配下と認めよう」
「……はい、か?」
なぜか不思議なことが起こったかのような顔だ。耳慣れない言葉のようだったな。
「配下だ。私の手下となることができるのだ」
「そ、そう。手下ね。いいわ、そのほうが燃える」
「燃えるだと?」
「あなたを認めさせてあげるんだから!」
よくわからぬが向上心があるのはいいことだ。
ファムリアと共に切磋琢磨するのであれば、私から言うことはない。
弱いのであれば弱いなりに気概というものがあれば、あのテオールのように育つのだからな。
「エリシィ、晴れて邪神様の配下になれたね! ボクは右腕だからお前はボクより格下、命令に従いなよ?」
「何を言ってるの。貴族社会じゃあるまいし、ここでは実力主義よ。いかにテオ様に尽くして認められるか、ただそれだけなの」
「バァカ。ずっと邪神様に尽くしてきた僕に勝てるわけないじゃん」
「邪神様って、あのバラルルフスみたいで嫌な呼び方ね」
やはりこのエリシィという娘、邪神の呼称については深く考えておらぬな。
どうやら本物のバカということで結論づけていいかもしれん。
しかしバカと何とかは使いようとも言う。役立つにであれば問題はない。
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