第10話 とーち・あざれあ

山躑躅が両脇に咲く坂道を男が娘を背負い歩いている痩せ細ってぜろぜろと胸の奥から罅割れた音を立てながら幼い娘はうっすらと生きて在る

看病

 献身

  慈愛

   利他

    憐憫

     

背中に負うた子を揺すりながら男は歩く細く貼りついた娘の頭髪に睫毛に瞼の裏の網膜に日の光と熱が絶え間なく降り注ぐ矢印


まだ

 あたたかいか?

  延命

   存命?

    

背中がガラゴロと壊れたオルゴールの立てる音を

これが少女の声まだ動く聞こえている



ひやひちぴややーやーぁー‥きっちちちぃーー‥

矢印を遮ぎりながら山鳥の声が遠ざかる


男は悲しまない想像力を持たない薬を飲ませ吐瀉物を拭い水を飲ませ背中を擦り少しでも眠れるように夜通し揺らし続ければこの夜は明けると思っている

目を開き

 日が昇り

  日が沈む

   林檎は地面に落ちる

それが男の世界だった


問い:1 この後背負った娘が咽び泣きます。

    なぜか?



絶対

 とか言うな呆け

  疑わんとか奪われる一方なんじゃ呆けが

一歩一歩真面目にただ歩き続けとるだけなんか虫でもやっとるわ

薬をよう調べぇむしろ毒じゃ

背中ばぁ擦って嘔吐を促すな

なに揺らしとんじゃ頭に響く頭痛ゆうんがかわいいくらいじゃ痛みの圧で眼球が飛び出してもわしゃ驚かんわ

山躑躅がぱっくりと大口を開けてわしを笑う声がお前には聞こえんのんか

ぎゃあはははああうぎゃあはははは

うるそうてかなわん

そがな坂道を歩くなあいつらに死ぬのを待たれ見つめられている見物客が多すぎる

日の光に当てるなお前はわしの皮膚が焼かれる音もにおいもわからんのんか

焦げ臭かろうが

お前らの愛がどんなに注がれようとわしは死なんけえな

滋養じゃゆうてひとさじひとさじくいしばった歯をこじ開けられて流し込まれようとも

体が朽ちても

魂だけは守り抜いちゃる


山躑躅よお

みとれよ

立てるようになったら覚えとけよ

お前らなんか

まとめて燃やしちゃるけぇのお

花のくせに

 わしより

  生きとるんじゃなぁぞ

   

ほんま

誰が

こんな思いして

生まれたいゆうたか?

わしがいつゆうたんな

ゆうてみいや

あ?








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