第8話 まりっじ・りんぐ

あなたが失くすのを心待ちにしていた

海の砂に暖められ

酸の海の底で静かに少しずつ形を失わせてあげたかった

飢えた野犬がぺろりと飲み込み、その浮き出た肋骨に引っかけるように共に埋まっていて欲しかった

ドーナツショップのトレイの上で

筆ペンで書かれた様々な感謝のの張り紙の横の洗面台で

あなたの熱い指先で外された先のもぐらの開けた穴から地中に‥いやそれはないな

とにかく

あなたがそれを失くすのを、息を殺して、全てをその一瞬に傾けて、待っている


世界が、見ている

今か?

そら、行くか?

ついにか?

やっとか?

燕も烏も紅鶴も薬指ごと持っていきたくて嘴を鳴らしているよ

かかかかかかかかかかかか

かかっかかかかかかかか


指輪を失くして打ちひしがれているあなたを

どんな風に許し慰め雨から守り虹で縛り花で釘打ってやろうか

これがきっと愛遭い哀逢い遇いなのね

きっと堪えられなくなった鳥たちがあなたに群がり集りついでに目玉や長い腸やなんかをずるずると引き摺り出してしまうでしょうから

頑張ってできるだけ掬い上げて詰め直してあげるからね


真白なヴぇーる越しにあなたがわたしの指にこれを嵌めた瞬間から

わたしはその日を熱望している




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