第38話 こうざんの物語 白の国の鉱山に入って他の国の話も聞いた

翌朝。昨日の手合わせの疲れも残らず、スッキリ起きられた俺は、

早朝から鍛錬を始めた。

今まで訪れた国では、俺の小屋を出すようなところは、

おおむね平坦なところが多かった。

しかし、白の城のあたりは、山に囲まれている。

山道の走り込みなどができるというわけだ。

俺の世界ではかなりの距離の山道の走り込みをしていた。

その感覚が鈍っていなければいいんだが。

それから、昨日得た、使っていない箇所の動かし方の鍛錬もしよう。

身体の動かし方の基礎ができれば、

そこに乗っかるスキルのレベルも上がっていくだろう。

俺は朝飯の前に自己鍛錬を始める。

身体の動かし方の明確な目標ができて、

自己鍛錬の目指す方向が見えてきた。

俺は気合を入れて、早朝の白の城まわりで鍛錬する。

白の城にいるものなどが、挨拶をしてくれた。

俺はそれにこたえつつ、ある程度日が昇るまで鍛錬を続けた。


汗だくになった衣類を洗濯機に入れて、

軽くシャワーで汗を流し、

動きやすい普段着に着替える。

疲れはそれほどないので、そのまま朝飯の支度をする。

時空の箱の中には、この異世界でもらった食材も増えてきた。

鑑定すれば大体俺の世界のこれだというのがわかる。

自炊していたから、基本的な調理法はわかる。

大雑把な朝飯を作る。

調味料や調理器具なんかはいつも同じ場所にある。

いつもの場所に置く癖は、

耳かき職人をするにあたって、

いつもの場所に道具がないと、まず道具を探すことから始めるので、

それがなんだかもったいない気がして始めた癖だ。

あるべきところに道具や衣類がある。

探さなくていいのは、それだけでストレスが違う、ような気がする。

さて、朝飯が出来上がったのでリラを起こす。

リラが寝間着から普段着に着替えたら、

寝間着と俺の朝練用の衣類を洗濯乾燥させる。

その間に朝飯を食べる。

リラは美味しいと言いながら食べるし、

従魔たちも仲良く朝飯を食べている。

個性や味の好みがあるのかはわからんが、

俺の大雑把な朝飯は好評のようだ。

朝飯の後片付けをして、洗濯乾燥した衣類をたたんでしまう。

小屋を出たら、時空の箱に小屋を仕舞う。

どういった仕組みかはわからないけれど、

時空の箱に仕舞われていても、この小屋に荷物は届く。

まぁ、神様が何か管理してくれているのかもしれない。

俺は細かいことは考えないことにした。

まぁ、耳かきバカならそれでいいということだ。


俺の小屋のあった広場から、

白の城に向かって少し歩く。

門番らしい誰かが俺たちに気が付いたようだ。

少し待つように言われて、門番が白の城の中に走っていった。

やがて、屈強なヨツミミの者が白の城からやってきた。

「はじめまして。耳かきの勇者様。俺は鉱山の監督をしているものです」

「案内をしてくれるというのは、あんたか?」

「はい。白の王から仰せつかっています」

「よろしく頼む。さすがに鉱山の中は案内がないとな」

「鉱山の中は入り組んでいるので」

「あんたが頼りだ」

「ありがとうございます。では、準備が出来ましたら向かいましょう」

「よろしく頼む」

「俺にお任せください」

やがて、準備が整ったらしく、

白の城の近くの通路に俺たちは案内された。

通路の近くには、俺の感覚で言うところの、トロッコの線路が敷かれている。

「これは精製された金属が乗せられるトロッコです」

「鉱山で精製までしているのか?」

「この通路の先に精製所、その奥が鉱山になります」

「このトロッコに乗せて精製所から出てきて、それから港町というわけか」

「大まかに言えばそんなところです」

通路の先には、厳重に守られた門があり、

屈強なヨツミミたちが守っている。

なるほど、特殊な金属がとれるとあっては、

守りが固くなるのも道理というわけかと俺は納得する。

鉱山の監督者が何やら見せると、

門を守っていたヨツミミの者が、

監督者と俺たちを見て、納得したようだ。

固く閉じられていた門は、重い音を立てて開かれた。

これほど重い門は、力任せで開かれるものではない。

やはり、抵当な手続きがないと開かれないものであるのだろう。

監督者と俺たちは、門を通って中に入る。


少し進むと、トロッコの線路のすぐ近くで、煙を上げている煙突が見えた。

その近くでは大きな建物が見える。

トロッコは山の方からそこに入っていって、

また別の方からトロッコが出て行っている。

あれが精製所というわけらしい。

俺の耳かき錬成であれば、精製所は実質通さなくてもいいとは思うが、

この世界で金属を使うためには、

鉱石から精製所を通さないといけないということだろう。


精製所をながめつつ進み、

俺たちは鉱山の入口にやってきた。

近くにトロッコの線路、そして、足元はあまりよくない。

「この鉱山には、金属の鉱脈がいくつか通っています」

「そりゃすごいな」

「鉱脈ごとに行く場所が違うので、かなり入り組んでいます」

「なるほどな」

「鉱山の中には明かりがありますが、足元はかなり悪いです。お気をつけて」

「ああ、ありがとう」

俺たちは監督者の案内で、鉱山に入っていった。

鉱山の中にいくつも分かれ道がある。

今も採掘しているらしい音がする。

時折監督者の指示で、俺たちはトロッコの線路から離れることがある。

そんな時は、鉱山の奥の方から鉱石を乗せたトロッコがやってくる。

動力についてはよくわからないが、

赤の国で火の石があったり、魔法があったりする世界だ。

何か俺のわからない動力源があるのかもしれない。

ふと、鉱山の通路を照らしているカンテラを見る。

火のようにちらちらした感じがしない。

これもまた、何か俺のわからないものなのかもしれない。

カンテラを見上げた俺に、監督者が気が付いたらしい。

「それは陰の国で取れる鉱石、光鉱石です」

「白の国では取れないのか」

「白の国は金属の鉱石ですね。陰の国では宝石や魔法の石などが取れます」

「赤の国の火の石みたいなものか」

「あれは赤の国の特産品ですが、陰の国はさらにいろいろな種類の石が取れます」

「この光る石だけじゃないのか」

「光る石、水を閉じ込めた石、魔法の力を増幅させる石など、多岐にわたります」

「それで耳かきを作ったらすごいだろうな」

「ぜひとも、陰の国にも赴いて、耳かきを作られてください」

「ああ、そうしよう」

そのあと聞いた話では、

トロッコの動力も、陰の国で取れた石が使われているらしい。

動力に使う石はかなりの値段がつくそうだが、

白の国はそれを白の国産の金属で交換している。

その金属を用いて陰の国では石が掘られているらしい。

「ただ、陰の国は、陽の国に見下されている国です」

「こんなに便利な石を産出しているのにか?」

「陽の国は神に一番近い国として、聖職者などが集う国です」

「ふむ」

「陽の国が一番上という思想が一般的で、他の国は陽の国に尽くすべきと」

「あまり納得いかないな」

「白の国や陰の国などは、汚れた国として、陽の国から見下されています」

「今まで白の国を見てきたが、見下される要素はないと思うんだが」

「そう言っていただけると嬉しいです」

「とにかく、陽の国はそんな国なのか」

「はい、魔王から一番離れた聖なる国、で、あると」

「うーむ」

俺は唸ってしまった。

なんだか陽の国は、聞いている限り、すでに耳の呪いが来ていそうな気がする。

陽の国の皆に自覚がないだけで、

耳の呪いが相当なことになっていないだろうか。

「では、先に進みましょう」

「ああ」

監督者に導かれて、俺たちは鉱山を先に進む。

その後ろをついてきたリラが、

「陽の国…」

と、つぶやいて暗い顔をしていた。

ヒューイさんが俺の足元にやってきて、

俺をリラのもとへと連れて行った。

俺はリラの顔から何かあったのかと思ったが、

「何でもないです、勇者様。先を急ぎましょう」

と、表情を隠してしまった。

俺は何も聞けず、そのまま先に進むことになった。

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