第36話 しろのおうの物語 白の王から色々な提案がされた

俺とリラは白の城の廊下を歩き、

そして新しく仲間になった、従魔とも言うらしい、

もともと邪なものの核だった存在たちは、

何やら騒がしく鳴き声を上げてはしゃぎながら、

俺とリラの足元でちょろちょろしたり、

肩に乗っかったり追いかけっこをしていたりする。

言葉はわからないけれど、

仲間が増えて楽しいのだろうなと俺は勝手に判断する。

廊下を行き交う白の城で働く者は、

燥邪と風邪の影響から徐々に回復しつつあり、

また、耳の呪いも俺が解いたことにより、

ちゃんとした会話がなされているようだった。

少し聞こえた会話では、港町でこんなお粥が出されていたという会話だ。

作り方が少し聞こえたが、多分俺たちが港町で出した物だろう。

白の城ならば食材が揃うだろうし、

食べて早く回復してもらいたいと思った。


白の城の奥の方、王と会うための部屋に俺たちは通された。

ヨツミミの屈強な兵士がずらりと並び、

また、ヨツミミの役人とか大臣とか学者らしい者も並んでいる。

服装でそう判断しただけで、実際のところはよくわからない。

まぁ、服装は公式の場であれば、

立場を明確にするために必要なものかもしれないし、

服装で立場を判断するのも、おおむねあっていると思っていいと思う。

俺たちは、白の王の前にやってきた。

この国やこの世界の礼儀はわからないけれど、

膝をつくのはとりあえず礼儀かと思った。

白の王は、ヤギのようなひげを蓄えたヨツミミの老人だ。

俺たちのいる所より、少し高いところで玉座に座っている。

「客人に椅子を用意しなさい。私もその場で話を聞こう」

白の王は、玉座から立ち上がる。

俺たちのもとに、すぐさま椅子が準備され、

さらに、俺たちの向かいにも椅子が置かれると、

白の王はそこに座って、深々と頭を下げた。

「白の城を救ってくれてありがとう。皆を代表して礼を言おう」

「耳かきの勇者として、当然のことをしたまでです」

「その当然のことをできる存在がいなかった」

「それで耳の呪いがはびこった、と」

「そう、魔王を封印した際に、魔王が最後の力で放った呪いだ」

「なるほど」

魔王は、封印される最後の瞬間に、

この世界全ての存在に向けて耳の呪いを放った。

今までいろいろな存在が耳の呪いにかかっていたが、

それだけの耳を呪える魔王というものも、

かなりの力を持っていたに違いない。

魔法というものは俺はよくわからないけれど、

そういった力をたくさん持っていて、

それを呪いとして世界に放ったのかもしれない。

多分、魔王というものがそれだけの力を持っていた存在として、

何か世界に害をなすことがあったのかもしれない。

それで、世界が一致団結して、

魔王を封印しようとした。

世界がひとつにならなければ、

封印できないほどの力を持っていたのかもしれない。

そして、封印をしたら、今度は世界がバラバラになりかねない呪いがはびこり、

誰もその呪いを解くことができなかった。

世界を越えてきた、耳かきの勇者の俺以外は。

憶測であるけれど、大体そんな感じだろう。

この世界には、耳かきという文化が存在しなかったのだろう。

「歌姫より話を聞いたが、不思議な耳かきを使ったと」

「不思議な…ああ、歪んだ真珠の耳かきだな」

「真珠とは黄の国のものだろうか」

「はい、俺はいろいろな素材で耳かきを錬成することができます」

「なるほど、では、たくさん耳かきを作ってもらいたいのだがいいだろうか」

「素材があればいくらでも」

「白の城の者たち、そして、白の国に住まうものに、耳かきを届けたいのだ」

そして、白の王はしばらく考え、

「素材があればと言ったな」

「ああ」

「港町で輸出用の金属は見ただろうか」

「大体は見た。様々の金属があった」

「白の城の奥に、鉱山がある。金属資源の宝庫だ」

「港町では、ヒイロカネというものがあるとも聞いた」

「うむ、それらも含めて、金属の耳かきを大量に作ってもらいたい」

「耳かきを作ることに関しては問題ないが、俺たちが鉱山に入ってもいいのか?」

「信頼、という意味においてだろうか」

「そういうことだ。俺たちが金属を悪用するような存在だったらどうする」

白の王は目を細めた。

孫を見るような優しい目だ。

「心から救おうと思わなければ、この白の城は救えなかった。なにより」

「なにより?」

「邪なものを邪でないものにする力を持っている」

「ああ、こいつらは…」

「この城を荒らした邪なもの、だった。今は違う」

「ああ」

「そうできるのは、貴殿たちがまっすぐな心根だからだ。だから信じよう」

白の王は言葉を区切り、

「鉱山の入山を許可する」

「ありがとう」

白の王はさらに、鉱山は入り組んだ道になっており危険なので、

鉱山の監督をしているものを付けさせると言った。

なるほど、迷子になって帰れなくては大変だからな。

「また、貴殿と手合わせをしたいものがいるのだが、いいだろうか」

白の王が提案する。

「俺は耳かきしかできないが…」

「相手は、劇場で剣舞をしているものになる」

「戦いってわけじゃないのか」

「耳かきの勇者の体格はいいのだが、身体の使い方がちぐはぐだという」

「プロから見るとそう見えるのか」

「手合わせをすることによって、身体の使い方を学んでもらいたいそうだ」

「なるほど、俺は耳かきづくりに特化していて、動かし方はさっぱりだ」

「これからたくさんの耳をかくと思う。我流でないことも必要かと思う」

「そういうことならば、手合わせをしてみよう」

「相手も武器として木の剣を使う」

「俺は耳かきで手合わせをしよう」

「わかった、剣舞師を呼びなさい」

白の王から声がかかって、剣舞師というものが呼び出された。

待つこと少し。

舞台映えをしそうな衣装に身を包んだ、

ヨツミミの男性が姿を現した。

手に持っているのは木刀のようだ。

いや、刀のようなそりはないから、

木剣というのが近いのかもしれない。

「皆のもの、少し下がりなさい。今からここで手合わせを行う」

白の王から声がかかり、

謁見する広間に集まっていたものが、

俺と剣舞師を遠巻きにするように下がる。

広間は簡易の手合わせの場となる。

「これは戦いではありません、勇者様」

剣舞師が言う。

剣舞師が言うには、歌姫と対峙している俺を見ていて、

俺の体格であれば、もっと違った身体の使い方が可能であるらしい。

ただ、誰にも身体の使い方を教わっていないようだから、

今から覚えれば、飛躍的に伸びるだろうとのことだ。

耳かきにだけ特化してきたが、

身体が使えるということは、それだけ耳もかけるということになる。

耳かきを用いての戦いがないとも限らない。

誰も傷つけない戦いをしたいと思うし、

そのためには身体の使い方がちゃんとできていることが必須だ。

覚えていて損はない。

「よろしく頼む」

俺は剣舞師に頼む。

剣舞師はうなずいた。

剣舞師は木剣を構える。

俺は耳かきを構えた。

互いの呼吸のリズムがゆっくりと合わさっていって、

俺は耳かきを構えて踏み込んだ。

スキルも何もない耳かき捌きだ。

木剣を落とすことを狙い、耳かきで指の点を狙う。

剣舞師は少ない動きで耳かきの点の攻撃を止めると、

同じく点の攻撃で俺の隙をつく。

かわせない攻撃ではなかったが、

流れるように線の攻撃に転じていく。

それはさながら舞のようでもあり、

剣舞師とはよくいったものだと思う。

これが身体を使って舞台で見せることに特化している者、

身体の使い方をよく知っている者。

勉強することはたくさんありそうだ。

俺は再び耳かきを構える。

学ぶ機会があるということは、いつになってもいいものだ。

俺はまだまだ色々なことを覚えられる。

その機会を作ってくれる白の城にいる皆に感謝したい。

俺はまた、剣舞師に向かって踏み込む。

無様にあしらわれるかもしれないけれど、

俺の弱点を見極めるべく、がむしゃらに踏み込んだ。

何事も挑戦だ。

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