第27話 きみゃくの物語 気脈解析班が気脈の異常を見つけた

黄の国の会議室の、暑邪の暑さがおさまって、

暑邪の核はショージィさんとなり、リラの肩の上に鎮座している。

おそらくではあるが、闇の貴公子はこのような邪の核みたいなものを、

もっと持っているに違いない。

リラが読んでくれた俺の蔵書によると、

このような邪は少なくとも6つ。

他にも繰り出してくるかもしれない。

俺の小屋に遭った蔵書はあくまでも俺の世界のものであって、

こちらの世界はまた別な原理で動いているかもしれない。

ただ、リラは邪の核を無害な存在に変える力があるようだ。

そして、もともと邪であったものとも言葉を理解し合うことができる。

神の耳の巫女の力なのかもしれない。

さて、暑さで倒れていた黄の国の会議室にいた権力者たちは、

介抱されるために別室に連れていかれている。

俺たちは、彼らが会議室を出る前に聞いた、

気脈解析班という、その班の話を聞きたいのと、

あとは、黄の国の素材を分けてもらいたいと思った。

中央都市の耳の呪いは解いたけれど、

黄の国にはほかにも国の民がいると思う。

それらの民にも耳かきが届くよう、

耳かき錬成で大量に作るつもりでいる。

そのためにはまず素材だ。

俺は手近にいた誰かに声をかけた。

身なりが整っているから、権力者の傍仕えのような人物かもしれない。

俺は耳かきの勇者であることを明かし、

黄の国の民の耳の呪いを解く耳かきを作るため、

いろいろな素材があったら分けてほしい旨を伝える。

俺が声をかけたのは、記録官という職業の人物だったらしく、

会議の記録をとったり、黄の国のいろいろな記録という記録を、

頭に入れている人物だった。

記録官はちょっと考えて、

耳の呪いを解くためには、耳かきが必要、

その耳かきは、どのような素材から作ることができるでしょうかと尋ねる。

俺は、耳かき錬成のスキルでどんな素材でもできると答える。

記録官は頭の中の記録を探しているらしい。

少しばかり考える間があり、

中央都市にある多くの店に声を掛けましょう。

中央都市には各国からやってきた者たちが店を出しています。

多くの種類の素材がそろうでしょう。

それらを黄の国の方で買い上げ、勇者様の手で耳かきに仕上げていただき、

耳かきの代金は勇者様にお支払いいたしましょう。

耳かきは黄の国全ての民に配布いたします。

それでいかがでしょうか、と、記録官は提案する。

俺としては願ったり叶ったりだが、

記録官という人物はそれほどの権限があるものだろうか。

俺が、記録官の権限について、越権ではないのかと尋ねたところ、

記録官は自分のことについて話してくれた。

記録官とは、アーシーズに特殊な薬を投与して、

長く生きられて様々のことを覚えていられるように仕上げた、

特殊な存在であるらしい。

アーシーズは基本特性が薄いので、

投薬などで特性を与えることが可能であるらしい。

その薬は黒の国で作られているという。

確か医療大国であると聞いた。

俺の感性で言うところの、不老長寿の物知り仙人というところだろうか。

見た目は若いけれど、とても長生きをしているのかもしれない。

記録官はその記録と知識から、

いろいろな権限を代行できるようになっているらしい。

多分、こうして黄の国の会議室が立ちいかなくなったときなどは、

記録を頭に入れていた、記録官が代行もするのだろう。

素材のことに一通り話が付いた後、

俺は気脈解析班について尋ねる。

記録官は気脈解析班の部屋の位置を教えてくれた。

そして、気脈解析班が先ほど何かを見つけたと小耳にはさんだらしい。

俺は記録官に礼を言って、

気脈解析班の部屋へと向かった。


気脈解析班の部屋は、

扉の向こうから騒ぎが伝わってくる。

何か大きなことが見つかったのかもしれない。

俺とリラは、静かに扉を開けて、気脈解析班の部屋に入る。

気脈解析班の部屋の中は、

俺の感覚では機械とも何ともつかないもので埋まっている。

魔法的なものの道具もあるのだろうし、

気の流れを解析する道具もあるのかもしれない。

俺では何がなんだかさっぱりだが、

とにかく様々の機械らしいものが点滅したり何かを映し出したりしている。

青の国、赤の国、気脈正常値。

黄の国の気脈も落ち着きつつありますなどと聞こえる。

そんな中、白の国の気脈が乱れていますという言葉が聞こえる。

耳の呪いの他に、呪いを増幅させる関与があったと思われます、

などという解析の言葉が入ってくる。

解析班の誰かが機械をいじって解析を進める。

白の国に強い風が吹いて、

白の国が乾燥しつつあるらしい。

俺は、手近な解析班の誰かに声をかけた。

白の国はどんなところなのか、

白の国の気脈が乱れるとどうなってしまうのか、

呪いを増幅させる存在はどのようなものなのか。

解析班は怪訝そうな顔をしたが、

俺が耳かきの勇者と名乗ると、

なるほど、と、うなずいた。

耳かきの勇者の現れた国の気脈は落ち着く傾向があると、

解析班は解析しているらしい。

おそらく、耳の呪いを国から取り去ることにより、

国自体が落ち着くのだろうと言った。

その上で、彼らから白の国のことを聞きだすことができた。


白の国は、実りの国だという。

穀類であったり、果実であったり、野菜であったり、

様々の作物を作っている穀倉地帯の国であるらしい。

白の国の民は、ヨツミミと呼ばれる種族が大多数を占めていて、

頭に獣の耳、頭の横にいわゆるアーシーズのような耳があるらしい。

ヨツミミは耳が4つあることも特徴だが、

獣のように毛深いことも特徴であるらしい。

ヨツミミの中には、尻尾を生やしている者もいるそうだ。

ヨツミミが畑などを耕して、作物を作り、

いろいろな国に作物を輸出しているらしい。

白の国が大変なことになると、

世界中が飢えることになりかねないらしい。

白の国の気脈は、現在異常値を叩き出している。

これまでの耳の呪いだけでなく、

耳の呪いを増幅されるような関与があったものと思われる。

その中で考えられるのが、白の国に吹き始めた強い風と、

白の国が乾燥し始めていることらしい。

黄の国に関与したような、邪なものが暴れている可能性もあるという。

会議室に暑さをもたらしたものと同じようなものが、

白の国で猛威を振るっているかもしれないらしい。

白の国はもともと乾きやすい国で、

雨がほどよく少ない故、作物を作るのに適しているらしい。

ただ、このまま乾き続ければ作物は枯れ、

国を乾かす強い風が、病気を広めるかもしれないとのことだ。

俺の感覚で言う、乾燥するとウイルスが広まる感じだろう。

解析班の一人が、俺に言う。

黄の国の耳の呪いを解いたように、

白の国の耳の呪いを解いて、気脈を落ち着けてくれないか、と。

このままでは世界の食にもかかわってくる、と。

おそらくヨツミミたちが耳の呪いで苦しんでいるはずだ、と。

俺はうなずく。

この世界の耳の呪いを解くのが、耳かきの勇者としての役目だ。

耳の呪いで困っているのならば、そこに赴いて耳の呪いを解こう。

それで気脈が、国自体が落ち着くのならば、

俺のしたことは無駄ではなかったということだ。

気脈解析班の皆に、俺は宣言する。

俺はこの世界全ての耳の呪いを耳かきで解く、と。


俺の脳裏に闇の貴公子。

多分あいつがまた、黄の国と同じようなことをしている。

そうまでして何が目的なのだろうか。

耳の呪いを広めるためだろうか。

あるいは何か別の目的があるのだろうか。

とにかく、次に向かうのは白の国と決めた。

闇の貴公子が何を企んでいるかは、いまだよくわからないが、

誰かが苦しんでいるならば、耳かきをするまでだ。

耳かきが世界を救えるならば、

俺は耳かきをし続けるだけだ。

それが耳かきの勇者の生き様だと俺は思う。

誰かを傷つけるわけでなく、耳を癒す。

俺はそうありたいと思う。

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