第46話:お祭りの前日の勇気と希望
「月の出は深夜1時20分ごろで、月の入りはお昼。つまり、お祭りの夜に月は見えないね」
昼休み、理科年表を片手にソラが言う。5月13日、お祭りがある土曜日に月が見られたらいいなと思って聞いてみたのだ。
「ちょうど先週なら満月だったのに」
「ここの祭り、昔は満月に合わせてやってたみたいなんだよな。それをカレンダーの土日に合わせるようになったから、月齢と合わなくなったらしい」
ハルキが補足をする。古来、日本の祭りは旧暦、つまり月の満ち欠けを基準にした太陰暦の節目に行われているところが多かったという。現在は5月の第2日曜に行われている祭りは、本来は旧暦4月の十五夜で、満月の下で行われる祭りだったというわけだ。
*
「なあタケル、"月がきれいですね"って、聞いたことあるか?」
「ん、どういうこと?」
ハルキの唐突な質問に戸惑う。
「明治の頃、ある文学者が" I love you. "の翻訳の例としてこれを提案したという話だ。日本には直接的に愛を伝える習慣が無かったから、直接訳さずにそう表現するのが適切だって」
「月がきれいですね、かぁ……」
娯楽や、人の移動が少ない時代においては、年に何回かの祭りが貴重な出会いの場であったという話を聞いたことがある。人も景色も昼間とは別の輝きを見せる満月の下で、いくつもの恋が生まれ、そのうちのいくつかは実り、やがて今の僕たちが生まれたのだろう。
**
「ねえ、明日なんだけどさ」
放課後、いつものようにトレ部で日々木さんと二人になったとき、僕は切り出した。
「久しぶりに、あの古本屋さん行く?」
「それもいいんだけど、夜に近くの神社でお祭りがあるんだ」
なにも、前日になってから言わなくてもいいじゃないかと思ったのだが、昨日のうちに誘ってみる勇気が湧かなかったのだ。ともかく、僕は神社の場所や時間を説明した。
「うん、いいよ。私も行きたいと思ってたところだから」
「ほんと?!」
「前に住んでいたところには、こういうお祭りってなかったし……」
**
それから、僕たちは昼前に古本屋に行く約束と、夕方に神社で会う約束をした。日々木さんは用事があるということで先に帰り、僕は一人で学校を後にした。
「久しぶりだなぁ、この神社」
明日の下見として、帰る前にちょっと寄り道をすることにした。すでに、一部の屋台や看板などの準備が始まっている参道を抜け、石段の前に来た。
「昔は、途中で休みながらじゃないと登れなかったけど……」
僕は階段を登る。決して走ったりはせず、一歩ずつ。気がつけば一番上まで、一気にたどり着けていた。久しぶりにここから見下ろす町の景色は、日暮れと呼ぶにはまだ少し早い日差しに照らされて、美しく輝いていた。
「明日はうまくいきますように、っと」
ポケットの奥にあった十円玉を賽銭箱に投げ込んで、大きく手を叩いた。
***
「こっちも今日中に片付けたいんだけどな」
家に帰り、ファミコンのスイッチを入れる。装備は、鳳凰の剣と水無月の胴。竹取の村で変える最強のものだ。余ったお金でくじ引きをして、体と技を全回復する「
レベルが35段になったところで、黄泉の塔へと向かう。とはいえ、ザコ敵とまともに戦うと消耗が激しいのでひたすら逃げるのだが。特に「黄泉の鬼」の吹雪、「いんねび(因縁火?)」の呪いの炎を食らうと動きを封じられて、そのまま死んでしまうこともある。おにぎりを差し入れてくれる「ユキだるま」だけが癒やしだ。
折れ曲がった長い回廊を抜けた先の大広間で、ボスの風神・雷神と連戦。途中で回復を挟む必要はあったものの、いつもどおりに鹿角の術で片付いた。勇気の胴を入手。さらに先に進んで羅生門の鬼。こいつも問題ない。はっきり言ってボスよりザコのほうがよっぽど怖い。
倒すと外に吹き飛ばされた。
かぐや姫からの言付けで勇気の剣を手に入れて、いよいよ鬼ヶ島へ! ダンジョンをちょっと探索してから引き返そうと思ったが、いきなりボス戦が始まりそうな雰囲気だったので、一度引き換えして天の声を聞くことに。そんなことをしている間に、夕飯の時間になったので本日の第一部は終了である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます