モブにもなれない黒うさぎ(カクヨム版)

大竹あやめ@電子書籍化進行中

第1話 プロローグ

 どうして、あの人がここにいるのか。


 玄関に呆然と立ち尽くした綾原あやはら黒兎くろとは、目の前にいる背の高い男性を見上げる。


 その男性は少し茶色がかった髪を七三に撫でつけ、前髪を少し垂らしている。それが、大人の色気を強烈に放っていた。


 綺麗なシンメトリーの顔はくっきり二重で、瞳は髪と同じ色。高めの鼻梁は真っ直ぐ通って、唇は口角が緩く上がっている。スラリとした体躯は黒兎よりも十センチほど高く、スリーピースのスーツがよく似合っていた。


 どうして、この人がここにいるのか。


 黒兎はもう一度、心の底からそう思う。


 ずっと──一生関わることも無いと思っていたのに。


 黒兎の意識は、否が応でも過去に戻された。

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