【完結】陰陽師の跡取り息子は、年上女性に恋をする〜オレの『蒼の札』をあの人は断る

来海ありさ

第1話 17才の夏のはじまり

「たくみ、お前はいずれ私の後を継ぐ自覚をもう少し持ちなさい。遊びたい年頃だろう。別にお前がゲームなどで遊ぶのを禁止しているわけではない。ただ、やるべき事をやりなさい、と言ってるだけだ。分かるな。」




白髪混じりの髪を7:3に分け、サラリーマンのスーツを着たまま、家業を継げなんて、んなこと言われてもあんまり説得力ねえよな。


オレは鹿乃江たくみ、東京、八王子市の外れに住む平凡な男子高校生17才だ。オレの家は、平安時代より、陰陽師を輩出して来た鹿乃江家の本家。目の前でオレにいつものように説教たれてるのが、鹿乃江家当主の親父。普段は、IT系のプログラミングの小さな会社に勤めていて、結構偉い役職に就いてるらしい。親父がそこの会社に決めたのは、わりと休みが自由に取れるからだと言っていた。



陰陽師なんて、今やゲームや漫画に出てくる程度。妖怪退治したり、カッケー式神、従えたりしてさ、みんなそんなイメージしか持ってないんじゃねぇか? 現実はさ、そんな華々しい活躍はしてないのよ。少なくとも家では、代々当主が、風水みたいなこと占って、密かに土地の陰の気を祓ったり、結界を結び直してきた。一応、式神も使う。オレたちは『鬼』と呼ぶけど、つまりは、”陰に傾いた霊的存在”のようなものを祓う。誰にも褒められない、裏方だ。



オレは耳にタコができるくらい聞かされてきた親父の説教に、「んだよ、それ・・・。そのやるべき事が多すぎなんだよッ!! オレはもっと自由な時間が欲しいだけだッ!!」と、これまたいつもみてぇに反発しちまう。




ーーー自由な時間。幼い時から憧れてた。毎日訳の分かンねぇことを学ばされ、やらされて、飽き飽きなんだよ。



親父はオレがこう言うと、決まって寂しそうな顔をする。オレだってずっと親父のことを見てきた。毎日会社に行きながら、帰ったら帰ったで寝る間も惜しんで陰陽師の仕事をする。いや、やる事が多すぎて、寝る時間も満足に取れてなかったよな? それなのに、親父は幸せそうだった。オレや母さんの顔を見て、本当に嬉しそうにいつも笑っていた。


ーーーいつからだ? 親父がこんな寂しそうな顔を見せるようになったのは・・・。



「こちらもお前の希望は、出来るだけ聞いてきたつもりだ。お前が欲しいというゲーム機も買い与えたし、陰陽道で重要な天文学などの学びも、本当に必要最低限のことしかお前には教えていない。」


「・・・。オレ、今日は高校の授業終わったら、直で友達と映画見に行く約束してるから。帰りは遅くなるからな。」


今日は楽しみにしていたアニメ映画の公開日なんだ。ずっと前から友達と約束してたし、もう前売券だって買ってあるんだ。


「悪いが、今日は諦めろ。明日から夏休みだろう? 今日からお前には、武術をしばらく集中的に学んでもらう。」



「はっ??? そんなの学ばなくても陰陽師の仕事はできるだろ? ケンカ技なら負けねぇぞ!! そもそも、そんなのまでやる余裕はオレにはねーよ。」



ーーー武術って突然なんだよ?? そう言えば親父の親友が、確か何かの武術の師範だとか言ってたな。去年亡くなったらしく、親父が葬式に出てたはず。その子どもがこっちにしばらく来るとか言ってたが、そいつに頼んだのか?



「ニ週間だけだ。”気の集中”、そして”気の動かし方”を学ぶのに最適なんだ。何度も言うが、私は何も、鹿乃江家のためだけにお前に強いてるわけではない。東京の”気”をバランスさせるために、何より必要なんだ。」


親父はそう言いながら、コーヒーカップを手に取ると、最後の一口を飲み干した。


「んなわけねーだろッ! オレたちが何かしようがしまいが、別に東京は何も変わらねーよ。」

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