魔法少女ってなんですか? 〜Girls Be Ambitious!!〜
米太郎
第1話 子どもの夢
「皆さんは、大きくなったら何になりたいですかー? 自由に考えてみてください。考えてみたことを、手元の画用紙に描いてみてください」
小学校の授業。
みんな自分の席について、画用紙に思い思いの絵を描いていく。
私も、白い画用紙を前にしてクレヨンを構える。
私のなりたいものか。
それは、もちろん決まってるもんね。
好きなものを描くって楽しい。
私は一心不乱に用意された画用紙に絵を描いていた。
輪郭を描いて、中を塗って。
色とりどりのクレヨンで描いていく
「皆さん、そろそろ描けましたか?」
「それじゃあそろそろ発表してもらおうかな。それじゃあ、明日香ちゃん! 前に来てみんなに絵を見せて発表してみて下さい」
先生に指名されて、明日香ちゃんは緊張しながら前の方へ歩いて行った。
黒板の前に着くと、裏を向けて持っていた画用紙をひっくり返してみんなに見せる。
「私は、大きくなったら、お花屋さんになりたいです! たくさんの綺麗なお花を、いっぱいの人に買ってもらいたいです」
明日香ちゃんの絵には、花束がいっぱい描いてあった。
とても綺麗で、世界が色に包まれていた。
「可愛いですね。とても良い夢です。皆さんで拍手を送りましょー」
「良いですね」
「可愛いです」
明日香ちゃんは、ぱちぱちと拍手に包まれた。
「次は、葵ちゃん! 前に出てきて発表して下さい」
私の番が来た。
私もみんなに拍手してもらえるかな。
少し緊張しながらも、ワクワクした気持ちで黒板の前に向かった。
黒板の前で一息ついて描いた絵をみんなに見せて発表を始める。
「私は魔法少女になりたいです! 悪いやつをやっつけて、困っている人を助けたいです!」
私の描いた絵は、キラキラしている女の子が悪いモンスターを倒している絵。
色もいっぱい使って綺麗に仕上げて。
私にしては上出来だと思っていた。
だけど、私が発表すると教室は笑いに包まれた。
「なんだそれー!」
「それ本気?」
……あれ?何だろう。
さっきと違うな……。
「葵ちゃん、そういう子供っぽいことはやめて、ちゃんと何になりたいか考えてください。大きくなったらって大人になったらってことですよ? 魔法少女って大人でもなれるんですか? 大人になったら少女じゃなくなっちゃっていますよ。魔法なんていうのものも、ねえ……」
先生が困った様子で私を諭してきた。
私の夢。
綺麗に描けたし、みんなに褒めてもらえると思っていた。
魔法少女ってカッコいいし、人の役に立つことで、とても良い夢だって。
そんなことは無かった。
教室中の笑いの的となり、恥ずかしさからすぐに画用紙をひっくり返して、席に戻った。
将来の夢の発表会。
今思うと、とんだ黒歴史だ。
将来の夢を語る会で、私の夢だけ子供のままだった。
私は大きくなったら本気で魔法少女になりたかった。
現実と物語の世界の区別くらいはついているつもりだったけど、純粋にかっこいいと思っていたのだ。
そういう夢を見たっていいじゃんって思う。夢見ることは自由じゃん。
そんな夢だって、叶うこともあるかもしれないって。
一巡してから、また私の番になった。
先程の絵は、描きなおした。
私は無難に、お花屋さんになりたいですと言っていた。
「良いですね」
「葵ちゃんの絵、可愛いー」
赤と黄色という、他の子と同じような色で書かれた花の絵。
その時から私は、本音と建て前を使い分けるようになった。
本当に思っていることは言わずに、上辺だけの話。
――ああ、夢か。
大人になった私は、お花屋さんになんてなっていなかった。
大多数の大人と同じ。
珍しくもないオフィスワーカーとして働いている。
自分の本当にやりたいこととは違い、社会の役に立つことと、もっともらしい理由を付けてこの職に就いた。
子供の時に夢を語っていた子達。
あの子たちは本当になりたい夢を語ったんだろうか。
あれから花屋になった子は何人いただろうか。
私は本気で魔法少女になりたかった。
あの時否定されても、心の中では曲がらずに隠れて夢は育っている。
いつか宇宙から敵が攻撃を受けるかもしれない。
異世界からモンスターが出てくるかもしれない。
そんな時に備えて、大学では生物学を勉強していた。
獣医になりたいなんてもっともらしいことを掲げていたが、本当の気持ちを悟られないためのカモフラージュ。
否定されるのはもう嫌だと、心に厚い壁を作って。
何をやっているんだろうと思うこともあるけど、大人になっても私の夢は変わらない。
とは言っても
モンスターが来ないのが一番。
魔法少女になりたいけど、ならなくて良い平和な世界であれば私は満足だ。
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