293 芽が出て〜♬

( リーフ )



フラン学院長はそう言いながら、パチンと指を鳴らす。



するとその後ろから女性教員が進み出てその手にある物をスッと前に出し俺達受験生に見せつけた。




どうやら何か植物を植える鉢のような物のようだが、あれは一体なんなのだろう・・?



「 これから、この土が入った鉢植えを一人に付き一つ配る。



この中には魔力を流すことで様々な花が咲く特殊な種が植えられているが、ただ魔力を流すだけでは花は咲かん。



精密な魔力操作を行いその花の構造を自身で作り出さねばならぬ故、相当な魔力操作技術が必要となるだろう。



それを駆使し、自分だけのオリジナルの花を見事咲かせてみよ。 



名前を呼ばれた受験生から順にこの台座の上で試験を行う。 」




フラン学院長の説明が終わると、後ろに控えていた教員達が次々とその鉢植えを机の前に立つ受験生達に配り始めた。



なるほど、ようは魔力操作能力を駆使し自分なりの花を咲かせ、それを評価してもらう・・・ということか。




そう理解しながら前にある台座を改めてよく見ると、下には何やら複雑そうな魔法陣が描かれていることから、そこに魔力を流し込むことでそれが可能になるという仕組みらしいなと俺は予想した。




面白い!・・しかしコレは同時にとても難しいぞ!



ーー俺はゴクリと唾を飲み込む。




最初から決まっている物質構造を描き出す魔法とは違い、自分でそれを一から合わせて組み立てる、そしてそれを精密に並べていく・・というのがかなり難しい事であるのは、想像するに容易い。




つまりは・・


まずこんな形の花〜


そして色はこの色〜


そしてそれを構成する物質は〜窒素〜リン〜カリウム〜


量はコレくらいで〜・・・



・・という作り出す花の設計図を頭に描き、その後魔力操作というーーー


土を耕し、肥料を撒き、環境を整えながら花に水をあげるなどの咲くまでの過程を行い、その思い描いた花を咲かせるということ。



その過程に最新鋭の菜園道具や花が咲きやすい最高級品の肥料、などなどに相当する良質な魔力操作を使えば凄く良いお花が咲くよ!


カンカン照りの野ざらし状態に水を洪水の如くにドバドバあげても花は咲かないよ!



そんなイメージか。




さて、どうしたものか・・と考えていると、俺の目の前にその鉢植えが置かれたので、それをシゲシゲと覗き込む。



ここに不思議種さんが入っているのか〜などと思いながらフッと隣のレオンを見ると鉢植えがレオンだけ配られていない事に気づく。




あれ??と思い、キョロキョロと辺りを見回せば、テーブルの端の方でブルブル震えた教員が、そこらへんに落ちていたであろう小枝で鉢植えをグイ〜とレオンの方まで押し出して渡そうとしている姿が見えた。



残念ながら小枝の長さが足りなく、レオンのところまで届いていなかったので、俺はサッとその限界まで伸ばされた先までそれを取りに行き、ウルウルと可哀想なくらい目を潤ませている教員にお礼を告げて、レオンの前にその鉢植えを置いてあげた。




・・・レオンの扱いが完全に珍獣扱いだ、これ・・



やはり呪いに対する恐怖は根強い。



その恐怖を消し去るのは直ぐには難しそうだと、この先の事を考え深〜い息を吐くと、早速受験生の名前が呼ばれ、前にある台座へ鉢植えを持ったその生徒が立った。



そしてフラン学院長の「 始めっ! 」という合図が上がると、その受験生の子はグッと魔力をその鉢植えに込めて流し始める。



すると、鉢植えの土の中で何かがモゾモゾ〜と動く気配がしたがその後はシーン・・・と何も起こらない。



どうやら花を咲かせるのには至らなかった様だ。



審査員達はそれを見て、「 5点! 」という点数をつけ、試験は終了。




その受験生の子の魔力量は中々のものだったので、やはり単純な魔力量だけでは高得点は狙えないということが分かった。



操作性重視か・・と、う〜ん・・と考え込んでいるとリリアちゃんがそんな俺に向かって話しかけてきた。




「 あの種は、漠然としたイメージより固定したイメージを持った方が上手く咲きます。


ですので、今までで一番馴染みのある花の記憶からそれを描けば、かなり楽にできるとおもいますよ。


更にその花に何かしらの効能などがある場合は咲かせるのが難しいですが、その分得点は高くなります。


魔力操作に自信がある方は、そういった花を狙うのがお勧めですね。 」




そう言ってニコッと微笑むリリアちゃん。



なるほど。


馴染みの高い花ほど作りやすい、更にはその花に薬草などの様な・・


” 痛みを緩和させる ”


” 軽い怪我を治す ” 


等などの何かしらの効果を持つ場合は咲かせるのが難しい分評価は高いということか。




「 ありがとう!リリアちゃんのお陰で何となくイメージが湧いてきたよ。 」



「 お役に立てたなら良かったです。 」



そうしてほんわかした雰囲気が漂うも、それをぶち破ったのはサイモンで、突如リリアちゃんの背後に回った彼は、背後からそのポインポインのおっぱいを鷲掴みにした。


「 な〜に、ちゃっかり点数稼いでんの〜?


こんな狂気的な凶器をリーフ様にちらつかせないでよね! 」



そう言いながら、鷲掴んだモノをユッサユッサと揺らすその動きに、遠ざかっていた男子受験生たちが一斉に顔をこちらに向けソロ〜と近づこうとしてくる。


そして反対側にいるレイドは、真っ赤になりながらビシッ!とそのポヨヨンを指差す。



「 それは反則だろっ!! 」



ギャーギャー騒ぎながら怒るレイドの横でメルちゃんはガン見だし、モルトとニールは鉢植えで顔を隠し、それをチラチラと覗き見していた。


そしてそんな皆の様子を冷静に見まわしたアゼリアちゃんは無表情で、ソフィアちゃんはゴクリと唾を飲みながらそれに魅入っている。



さっき寝ちゃった俺が言うことではないが……もっと皆、緊張感持ったほうがいいんじゃない?



勿論その騒ぎに気づいたフラン学院長、静かに怒りを込めて「 黙れ。 」と言葉を発し、それに慌てた様子で全員が視線を前に戻す。



レオンの恐怖よりおっぱいか……。


思ったよりレオンの未来は明るいかもしれない。



相変わらずボンヤリ全感覚カットモードの無表情レオンに対し、キラキラした希望を抱いていると、サイモンの名前が呼ばれた。


「 は〜い。 」


サイモンはご機嫌で返事をして前の台座へと移動する。


そして「 始め! 」の合図とともに魔力を込めると、なんとポポンッと音を立ててピンク色のたんぽぽが咲いたのだ!


この度初めての花が咲いたことで、周りからは拍手が起きる。



「 フム、ピンク色というのは珍しいな。サイモン、40点! 」



魔力操作の平均点は15点の中、サイモンの40点はかなりの高得点だったため、拍手はより一層強くなった。



花を咲かせるのも一苦労、その中で自分の個性を出す……結構奥深いぞ!



戻ってきたサイモンに「 ピンク綺麗だったね。 」と声を掛けると、彼は頬に手を当てながらニコッと笑う。


「 リーフ様はぁ〜何色が好きですか? 」


「 俺、全部好き〜。 」


一個より沢山が何でも大好きな俺が迷わずそう答えると答えておいた。



そして何の花にしようかな〜と再度悶々と考えていると────



「 次、ジェニファー殿! 」



……と覚えがある名前が呼ばれたため思考は中断された。




彼女はやはり先ほど同様、真っ赤なドレスに輝く装飾品をつけた神々しいまでのゴージャスな出で立ちで前に進み出る。




そんなキラキラしたアクセサリーをジッと見て俺は────……





レオンがいつかあれを狙って毟り取りにいくんじゃないかと、実は内心気が気じゃない。



レオンはキラキラした物なら何でも拾ってくるからな……。



手当たり次第に拾っては渡してくる思い出を振り返りながら、今の時点ではシラ〜と興味なさげにそれを見ているレオンを見上げ、ゴクリと唾を飲み込んだ。



まぁ、その心配は一旦置いといてジェニファーちゃんは先の試験を辞退した様子からも魔法特化型のはず。


どんなお花が?とワクワクしていると、彼女はソフィアちゃんの方をチラッと見てからフッと笑い、魔力を流した。




────すると…………




ポポポポ〜ン!!




連続的に花が咲く音がして、鉢植えからはモサッ!!と10本ほどの美しい真紅の薔薇が飛び出した。



今まで咲いたとしても1本だった花が、なんと10本も咲いたため周りからドヨッと声を上げる。



花は1本じゃないパターンもあるのか!



俺が、おぉ〜!と感心して拍手をしていると、フラン学院長も、ほぅ?と興味津々にその花に視線を送った。



「 10本とは大したものだ。


よほどの魔力操作能力がなければ複数同時に咲かせるのは不可能。


ジェニファー殿、75点! 」



平均点を大きく上回る高得点に、ワッ!!!とそこら中から歓声が上がる。



確かにこれは凄い!



再度、凄い!凄い!!と素直に驚きと関心をよせて拍手をしていると、ムッとした表情のレオンが俺を見下ろしたが……俺の意識はその花に釘付けだったため気づかなかった。



ジェニファーちゃんは満足気にフフッと控えめに笑った後、扇子でその口元を隠す。


そしてチラッとソフィアちゃんへ挑戦的な視線を一瞬向けると、そのまま自身の席へと戻っていった。



そんな視線を受けたソフィアちゃんは、臆する事なく笑顔を見せると「 次!ソフィア殿! 」という声が前から上がる。







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