十八話 大喧嘩 Ⅲ
ナカツが不運な目にあった同刻……
ホセは何処かで、誰かの拳を頬にぶち込まれ、地に付していた。
彼は現在逃げていた様だが、その誰かに捕まってしまったようだ。
「お久」
その声は微かに覚えがある。彼は倒れた姿勢から、声の主を見上げた。
その先にいたのはエルフの男、ショーンである。彼は複数の警察官と共にいた。
ホセは悪あがきと言わんばかりに、直ぐ様マシンガンを彼等に向けた。
「辞めとけよ、今じゃこっちが上なんだ」
ショーンの隣にいたベティスが、彼に向けて銃を向ける。尚も抵抗しようとしたが、ホセは諦めてマシンガンを置き、両手を上げた。
それを見たショーンの表情に少しだけ余裕が生まれた。
「取り敢えず、一緒に行こうや」
ホセは諦めの表情で頷いた。
――――――
極彩色の爆破は遠目から見たら美しく見える。上へと膨れ上がり、そしてうねる。
生物の如きその動きにチンピラ共は魅了され、そして心がアツくなった。
周りで一斉に咆哮の如き歓声が上がる。それにリコは少し驚いている。
ジャックは先程のハンカチを捨て、リコから借りた真っ白なハンカチを当てていた。
「傷ハもう大丈夫でス?」
ジャックはゆっくりと頷く。まだまだ心許ないが、血の出る量は少なくなった。
少しだけ息を吐くと、バットのグリップを肩に担ぎ、歩みを始めようとした。
瞬間広場に異変が訪れた。
クラブミュージックがより一層盛り上がり、彼等の雄叫びがより大きくなったのだ。
不審に思ったその時、二人の周りが揺れ動いた。初めはゆっくりと、そして何かを気に流れる様に動く。
それは正に円、円を描く様にチンピラは集団で歩き始めた。
――今、広場が一つの台風と化したのである。
彼等は急に来た人の波に呑み込まれそうになるも、なんとか踏みとどまろうとした。チンピラの肩や腰と激しくぶつかり、涎で服が濡れ、体制を崩しそうになる。
それでも凌ぐジャックは遠くに誰かいるのに気付いた。緑色のソフトモヒカン、そして黒のウルフカット、あの第二班だ。
「?」
どうやらリコも気付いたようで、疑問に思う表情で彼等を見ていた。
ジャックは奴等の強さを知ってる。真っ向から立ち向かえば最悪死ぬだろう。
逃げれないか後方を振り向く…………見慣れたオールバックの男が、ブリの男を引き連れているのが見える。
……逃げ道はないようだ。
前方を向くと、彼等の後方から銃やナイフにトンカチ等を持った奴等が、人混みを掻い潜って35名程湧いて出てきた。後方も同様だ。
……ジャックはゆっくりとバットを置き、銃を取り出す。
マガジンも変えており、予備の量も確認済みだ。
「あの人達ハ?」
「敵だ」
リコはジャックに彼等の事を聞きながらも、同様の作業を済ます。そして人の波に逆らう様に歩み始めた。
数歩後、ジャックはその辺のチンピラの胸倉を掴み、自らの前に持ってくる。
それを盾の様に構える中、先方の部隊が4人、人の波を縫って現れた。
彼等は一定の距離を取り、持っていた銃を一斉に撃つ。
弾はチンピラの盾が全て防ぎ、ジャックは臆せず前に進む。
尚も銃弾の雨は止まないが、彼が右前方の二人を撃ち抜く事でその勢いが弱まった。
尚も残りの二人は撃ち続けており、そろそろ盾が持たなくなってきた。
ジャックは左斜めにいる男を撃ち抜く。だが標準が逸れて、胸ではなく太もも辺りに着弾してしまう。男は足を抑え体制を崩してしまった。
それはそうと、直ぐ様盾の背を前方へ蹴飛ばす。盾はものの見事に男にぶつかり、前方の動きを封じた。
「クソッ゙」
左斜めにいた男が痛みを堪えながら、銃を構えた。ジャックはそこに走り込み、弾倉止めをまるで鈍器の様に彼の頭に何度も叩きつけた。
前方にいた男は盾の拘束を解き銃を向けようとしたが、ジャックにその場から撃たれて倒れる。
増援とばかりに、右から二人のライフル持ちが現れるが、そこはリコが冷静に引き金を弾く事で対処した。
ジャックは次の増援に備え弾倉を取り替え始めた。
銃の弾倉を落とし、腰にある予備を取ろうとする。
だが、そんな事させまいと波状攻撃とばかりに人混みの隙間から、四人の男がライフルを乱射した。
二人は近くのチンピラを遮蔽物にやり過ごす。周りでは色んな所が飛び散っていく訳で、彼等の遮蔽物も同様だ。
リコが壁から牽制する間にジャックは急いで取り替えていく。
尚も彼等はバカスカ撃とうとするが、人混みに後ろから押されて、強制的に距離を縮めてしまう。
これじゃあライフルは使いにくい。直ぐ様投げ捨てると、彼等はナイフやマチェーテを取り出し、周りを斬り伏せながら強引に距離を詰めに行った。
ジャックは遮蔽物から体をだすが、肝心の銃をナイフではたき落とされた。
そこから仕掛けようとする男へ、ジャックは肩のタックルを胸元に入れ、そのまま顎に頭突きをぶち込んだ。
「こなくそぉ……!」
男の唇から血が飛び散るが、彼の目はまだ生きている。
持っていたナイフを刺そうとするが、それより速くジャックの左拳が彼の鼻っ面を捉えていた。
鈍く音、断末魔、男は瞬時に三度のダメージを負い、体を大きく仰け反るがまだまだ終わらない。
ジャックは右手で彼の胸倉を掴み強引に引き寄せた。
そして左手で彼の腰辺りを掴むと、襲って来たマチェーテ持ちの前に横に掲げる。
さながらそれは盾を上に構える様だ。
「待――――」
掲げるのと同時に、彼のマチェーテは振り下ろされた。
マチェーテは彼の胴体に深々と吸い込まれる。直後血抹消を拭き上げながら、彼の骨が肉厚の刃を止めた。
その間にジャックはマチェーテ持ちの股ぐらを蹴り上げ、腹に二発重めの拳を打ち込む。
余りの重さに男はゲロを吐くが、そこから流れる様にで彼のアッパーで彼の顎を打ち抜いた。
残りの二人はリコに向かうが、数的不利が覆される程圧倒されていた。
一人が振り下ろしたダガーを独楽回しの様に左斜めに避け、後方の男へ右の中段を蹴る。
そして流れる様にダガー持ちの背部へカカトをぶち込み、連続した動きで後方の膝を蹴り込んだ。
勢いは止まらず、リコは前方の男の膝窩を蹴り込む。
彼の姿勢が崩れる途中で、リコは体制を入れ替えながら彼の後頭部に膝蹴りを入れた。
逆方向に曲がった足を苦しそうに庇う男。
何かが潰れる音と共に鼻と目から血を吹き出し倒れる男。
一瞬で二人倒したリコは、遅れてやって来た三人目の男へ駆けた。
そして彼が武器を振る余裕すら与えずに、胴体と顔面に5発程に肘と拳を入れ、トドメに上段を跳ね上がる様に蹴った。
これで三人、破竹の勢いで倒して行く彼は、本当に新米の警察官なのだろうか。
定かでは無いが、今は頼るしか無い。
勢力一斉投入、総勢21名、残りの五人は彼等の後方で人混みを避けながら、ライフル、そしてサブマシンガンを仲間毎撃つ気だ。
銃で撃とうとしても、肝心のピストルが人混みに揉まれて見当たらない。
「銃貸しまショウカ?」
「…………辞めておく」
ジャックはぐったりしている男から、マチェーテをひったくる。
その過程で彼のベルトに、手榴弾が数個括り付けらてるのに気付いた。
ジャックはその内の一つを取ると、前方の男達をゆっくりと見つめた。
そこからの行動は速かった。すぐ近くのチンピラをいつも通り盾にし、今度は彼のズボンにピンを外した手榴弾を入れると、思いっ切り彼の腹を蹴飛ばした。
チンピラは三人位の集団の方へ吸い込まれていき、気が付けば彼等のど真ん中に佇んでいた。
「何だこ――――」
轟音、血と内蔵が一角中に飛び散る。自爆人間程ではないが、程々の煙を上げる中、二人は敵陣へと飛び込みに行った。
突然の轟音に驚いた男の脳天へ、肉厚のマチェーテを振り下ろす。まず一人。
相手が落としたククリ刀は空中で拾い、マチェーテを抜くと、両方から挟み打ちをかけて来た男達へ、斜めに同時に振り降ろした。
これで三人。両隣から血が飛び散る中、ジャックはククリ刀を少し離れた所に投げつける。
その先にいた男は頭に"それ"が刺さったまま、サブマシンガンを虚空へ乱射した。四人目だ
彼はそれすら気にせず、マチェーテを一人目の腹へ突き刺し、躊躇なく強引に割いた。
中から色とりどりの内蔵が飛び出てくるが、それを納めるように、ポケットから出した手榴弾を埋め込む。
また前方の集団へ送りつけるのかと思いきや、今度は後ろへと投げつけた。
投げつけた先にいたのは、やっと到着した後方の集団達である。
しかもオールバックの目の前に落ちていく、だが彼は酷く落ち着いた様子だ。
彼は不意にナカツを口惜しそうに見つめ始めた。
「悲しいよ」
「ハイ?」
彼は何を言ってるのか分からないナカツの首根っこを掴むと、空中から来た人間爆弾へ投げつけた。
轟音が響き渡る。ナカツは辞世の言葉を吐くことすら許されず、空中で自らの体を飛び散らせたのだ。
他の集団が爆破に一瞬たじろぐ中、オールバックだけは悠然と周りを斬り伏せ進んでいく。狙いは唯一人、ジャックだ。
そんな彼に追いつかれまいと、ジャックは襲い掛かってきたナイフ持ちの攻撃を避け、彼の脳天を顎からぶっ刺しながら、前へ前へと駆ける。
これで五人目。
リコはリコで一人は撃ち殺せたが、波状攻撃とばかりに四人の男が一斉に襲い掛かり、銃を撃てる隙を与えられない。
一人が振り落としたゲバルト棒を、彼はなんとか左腕で防いだ。そして防ぐと同時に腹へ至近距離で引き金を引く。
腹に何個か穴を開け男は崩れ落ちる。だがそれでも波状攻撃は収まらず、続けて2人目が側面に回り込んだ。
彼はリコの腹辺りを狙い、ピッケルを横に振るう。
急いで彼に銃口を向けるが、運悪くピックが銃に当たり、ジャックと同様に人込みの中へ飛んでいった。
飛び道具を封じたとは言え、攻撃を防がれた男は慌てて、ピッケルをもう一度振ろうとするが、時すでに遅し。
リコの拳が彼の顔面と腹、そして胸を貫いていた。
ついでに彼の背部を狙った三人目も流れる様に股ぐらを蹴られ、何か玉が潰れる音を鳴らし二人目と共に崩れ落ちた。
「シイィッ!」
四人目のゴブリンの男はその辺のチンピラを土台に駆け上がる。
そして頭から飛び上がり、上空から湾曲した短剣を逆手に持ち振り下ろした。
完璧なまでに虚をついた攻撃――――だった筈がリコは彼を見上げながら、右手の武器を握り込んだ。
柄と刃丸ごと湾曲した、まるで三日月の様な黒光りの短刀。
インドネシア発祥の武器、カランビットナイフだ。
何処から取り出したのだろうか、リコはそれを逆手に持ち、刃でゴブリンの攻撃を受け流すと、直ぐ様彼の首元を掻っ切った。
落下の威力をも利用したその斬撃は凄まじく、ゴブリンは頸動脈は勢い良く血を吹き出し、地に落ちて行った。
一瞬で五人、流れる様な早業だ。だがジャックは彼の達人芸に一切目を向けず、前から来た三人を相手取る。
一人目は斧を振らせる前に一瞬で距離を詰め、重めのジャブで怯ませ、首元へマチェーテを突き刺す。
彼から奪った斧で二人目の攻撃を受け止め、マチェーテを抜き、男の胸へと横に振り抜く。
そこから後ろに回転し、その勢いを利用した中段の蹴りで男を前へ飛ばす。
三人目のオーガはこんな物屁でもないと、腕の一振りで弾き飛ばすが、その隙をつき投与されたマチェーテと斧が、二本とも彼の脳天にぶっ刺さった。
肉を割く音と共にオーガが、口から血を泡の様に吐き出し倒れる。
リコの分と、合わせてこれで十三人目。先に手榴弾やったやつを含めると十六人だ。このまま先に進むうとジャックが一歩踏み出した瞬間、後方から何かが振り下ろされた。
「……!」
間一髪避けて横に転がっていく。何処の誰だと見上げると、そこには見覚えのある人物がいた。
――オールバックの男である。
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