適正検査を受ける弟
「向こうで話を付けに行く。ここで待っていろ!分かったな!?」
教会に入って空気が悪いまま、父上がそう言って離れて行った。
感情の抑え方も下手か。しかも護衛の一人も置かないとか……まったく。
おかげで領民が遠巻きで見られている。
ま、焚きつけたの俺だけどさ。
「あ、あの!」
「ん?」
この娘は……。
「に、2年前もここに来てましたよね?」
「ああ、そうだが。それがなんだ?」
「あ、あの時のお礼を言いたくて……じゃなくて、申し上げたくて……。」
お礼?……それにこの娘の顔……。
ああー思い出した。
この子はあれだ。兄上をぶっ飛ばした娘だ。
デカくなったな。
周りを見る……ヨシ、父上はいないな。
「礼ならいいと言ったはずだけど?」
「それでもお礼を……と。」
「そうか。人として素晴らしいが、貴族に直接話しかけるのは感心しないな。幸い、俺で良かったものの、他の貴族だと非礼に当たるぞ。」
そこだけ注意だけさせないとな。
「貴族に礼をしたい時は必ずその貴族の部下に伝えること。そうすれば貴族の耳にも届く。いいね?」
絶賛その部下は俺の周りにはいないけどな。
「はい……申し訳ありません……。」
「でも、よく貴族に対しての言葉遣いを学んだな。よく頑張った。」
「っ……はい!えへへ」
今の時代的に丁寧な言葉遣いなんて平民には勉強する機会だけでも大変だってのに良く頑張ったもんだ。
「あの!改めてあの時のお礼を申し上げたいと存じます。ありがとうございました!あなた様のおかげで今まで生き永らえることが出来ました!」
生き永らえるって大げさな。
「どういたしまして。ほら、父上に見られたら大変だ。ここから離れた方がいい。」
そろそろ戻って来そうだしな。
「はい!…………失礼ながら貴族様の名をお聞きしてもいいでしょうか?」
「ルークだ。」
貴族じゃなくなりそうだから下の名前だけで名乗る。
「……ルーク様……私、アリアです!」
「アリアか。いい名だな。」
かわいい名前だと思う。
「はい!……えへへ……では失礼いたします!」
「ああ。」
そう返事した後、アリアはこの場から離れて行った。
ああいうのが癒しというのだろうか?
「……ルーク坊ちゃま。準備が整いました。ここに誰かいましたか?」
マイケルか。
「誰も。さっさと行くぞ。」
◇ ◇ ◇
「遅い!どこでほつき歩いていた!?」
「どこもなにも放って置かれたところだけど?それより準備整いましたか?父上。」
「無能の貴様を待ちあぐねている状態だ!さっさ行かぬか!」
さっさと行けと言われたのでさっさと行く。
「お願いします。」
「はい。では魔力検査から行きますね。」
っと、そうだった。
「あー、すみませんが先にスキルの方を調べてくれませんか?問題ないですよね?」
「先にスキルの方を……?」
検査担当の神父が父上に目を向ける……。
「なんでも良い!時間が勿体ないのだ!」
「はあ……では、スキルから。説明は必要でしょうか?」
「大丈夫です。お願いします。」
2年前に見たし、詳細は屋敷の書庫で記憶してるしな。
「ではその水晶に触れてください。こちらの水晶で出て来た結果を書き出しますので。」
言われた通りに水晶に触れる……なるほど、こういう感覚か。
ほんの少しなにか抜き取られた感じがする。
これが魔力かな?
「おかしい……上手く表示されませんね?もう一度、水晶に触れてください。」
「分かりました。」
後ろで「無能が…」とか言う父を無視して、もっと集中して、先ほどの要領でもう少し魔力を流しておく。
「あ、表示されました!えーと……。」
神父が装置を見て、写されたものを紙に書き出した。
「スキルは【自己修復(小)】、【料理(高)】と【異世界の知識】?これはどういうことでしょう?」
【自己修復】はゲームだとターン終了ごとにHPが回復するスキルか。(小)だと10%回復するはずだが、現実のこの世界だとどういう仕組みになるか分からねぇな。
【料理】はキャンプや宿で使用出来るスキルで食材アイテムを消費してパーティに様々なバフをかけられるスキルだ。(高)ってことはスキルマックス状態だから嬉しいな。
【異世界の知識】は…………俺が転生者だからだろうな。こんなスキル、ゲームにはなかったはずだし。
「ふん、使えるのは【料理】スキルだけか。武術スキルもないとは……無能の貴様にピッタリよな?【異世界の知識】とはなんなのか知らぬが、それも帰ってから利用方法考えればいいだけよ。」
向こうの知識をコイツに使われるのは嫌だな。
「あれ?スキル詳細読み取り君が……なぜ?私はなにもしてないのですが……えーと、誰か来てくれませんか?」
この装置そんな名前してるんだな。
中々良いセンスだ。
スキル詳細読み取り君が壊れたらしいので技術者らしき人が来たあと、俺達は移動させられた。
「お待たせしてすみませんでした。」
「大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。では続きを……その水晶に触れてください。」
水晶に触れる。
……………………。
思えば色々なことがあった。
いきなり赤ん坊になって、気が付けば異世界に居た。
それも俺が死ぬ前にプレイしたゲームの世界だった。
その世界の誰でもない人間に生まれ変わって、死ぬかもしれないというあやふやな未来を回避するために色々と考えた。
色々な人に関わり、色々なことも学んだ。
トリーシャ、セッテ、アルヴィン、ステファン。
騎士団にも気が合うヤツはいたし、メイド達にも仲いいヤツもいる。
それと同時に俺を嫌う人もいる。
後ろにいるノエル、母のラブレア、執事筆頭マイケル、その他のメイドとその他の騎士。
俺と関わって変わった人もいる。
この世界の悪役にして俺の兄。
アッシュ。
………………。
俺の今までの行動は……なにかに繋がったのだろうか?
俺の言葉は……なにかに届いたのだろうか?
わからない。
俺は……この2度目の人生はどういう終着点を辿ることになるか、俺にはわからない。
わからないけど。
こんな非人間な俺でもなにかがいつかに繋がるのなら……
俺がこの世界に生まれ落ちた意味になると思う。
前世で掴めなかった……
意味が。
周りの人がざわつく。
「まったく……。」
俺はそういうのが深い自覚はあるけど、ここまではっきりさせなくてもいいだろうに。
周りのざわつきがどんどん大きくなる。
「うそだ……な、なぜ人族が?よりにもよってこの時期に!?ワシの王になる夢が!!」
父上も慌てている。
俺は
「なんの捻りもねぇーな?」
俺の魔力属性は黒。
つまり闇だ。
黒く染まった水晶は……塵となって崩れ落ちて、風に飛ばされたかのように消滅した。
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