自由研究する兄弟

「あ゛ーづーい゛ー……暑くて溶けそう……動いてるから、余計暑いよぉ~」


「何度も何度も暑いと言うな。こっちも暑く感じる気になるわ。」


「しょうがないだろう……暑いんだから……」


 …………どーもー、るーくですー。

 俺と兄上は魔法の練習するべく移動中なんだが、書庫に戻りたいくらい暑い。

 クソ……夏最後の週なのになんで今頃になってクソ暑くなるのかなぁー

 気温管理オンオフ制になってない?異世界ちゃん?


「大体、なんでそんな涼しそうな顔をしてるのさ?暑くないのか?」


「あまり暑さを感じぬな。俺の魔法を指導してるミゲル氏からによると、火と水の属性所持者は天候による気温変化に耐性があるそうだ。」


 どっちかを持っていればあまり暑いとか寒いとか感じないのかな。 


「…………どうりで……嗚呼ー羨ましいなー」


「貴様はまだ6歳なのだから、魔力性質が固まっておらぬだけかもしれぬ。火か、水かが発現するよう女神達に祈れば応えてくれるかもしれぬぞ。」


 神頼みはなー……そういうの大抵叶わないことに終わるし………


「で?魔法の訓練を手伝うと貴様は先日言ったが……具体的に何をするつもりだ?この道は訓練所ではなく、別棟の炊事場に向かうのだが?」


「訓練自体はしないよ。ただ想像力をなんとかすると言っただろ?想像力というのは物事の理解があってこそ成り立つものなんだよ。」


「ふむ。それで炊事場になんの関係があるのだ?」


「兄上は火、風と光の3属性トリプル持ちだろ?光はわからんが、台所は火と風を使うから、それを観察するんだ。」


「観察?火をか?そんなことをして何になるのだ?」


「思うに兄上よ、火とは何なのか考えたことは?」


「ん?火は女神ルセとリアが始まりの7組に教えた神秘だ。文明の全ては火から始まったというセナフの書にも書いてある。」


 セナフ教だとそうなってるな。


「まぁ、そうだけど。そうじゃなくて、火そのものが何なのか考えたことない?」


「どういうことだ?」


「例えば、火がなんで燃えるのか、なんで燃え広がるのか。考えたことはない?」


「…………ないな。その答えは炊事場にあると?」


「大体はね。というわけで、はい!これ!あと、インクと羽ペン。」


「なんだこれは?」


「名付けてぇ―――


 ジャラララン!


 自由~研究ノ~ト~!」


「………………それでこのノートとやらに何を書けばいいのだ?」


 あれ?今の渾身の未来から来た猫ロボットのものまねはスルー?


「観察したものを書くんだよ。一週間、自由時間の時に炊事場に行って、火とは、風とは何かを考えて、それに記すんだ。」


「お前が答えを教えるというのはダメなのか?」


「それでも良いけどね。ただ、自分で気づいた方が楽しいんじゃない?外に出れないが……せっかくだし、夏っぽいことやれたらと思ってな。」


「これが夏にやることか?」


「まぁね。」


 日本という国ではだけど。


「お、着いたな。」


「ふむ……」


 ヨシ!入るか!


「たのもー!!!」


「おおー!ルーク坊ちゃま、アッシュ坊ちゃま!いらっしゃいませ。」


 俺らを笑顔で迎えたのはこの家の料理長ステファンだ。

 屋敷で俺が武術の才能が無くても変わらない接し方をする、数少ない人間だ。


「俺が来たぞー!」

「邪魔をする……」


「視察とのことでしたね、竈にさえ近づかなけらばご自由にして構いません。」


 危ないからね。

 

「はいはいー」

「分かった。」


 ステファンはそう言って、中断してしまった作業を再開した。


「皆、忙しそうだな。」

「なんとか夕食までに間に合わせたいからな。」


 今、この炊事場で作業してるのは7人。それぞれの担当を真剣に取り組んでいる。


「竈を見なきゃいけないからステファンの後ろに移動しよう。あ、ほら。あれを見てくれ。」


「…………あれは?あの手にしてるもので風を竈の火に送っているのか?」 


「正解、あれは鞴と言って、広げて中に入った空気を押し込んで中に入ってた空気を吹き出す。そうすることで火が燃え上がって火力が強くなる。」


「何故そんなことになるのだ?」


「それを考えるのは兄上だよ。というわけで、俺は帰るよ。一週間観察して、ノートにまとめたらまた俺に見せてくれ。」


 俺がいると兄上が自分の考えを出すことが出来なくなってしまうかもしれんし。 

 

「もう帰りになるのですか?ルーク坊ちゃま。」


「ああ、邪魔して悪かったな。皆頑張ってるのを見れて良かったよ。いつも美味い飯作ってくれてありがとうな!」


「っ………………はい。また何時でもいらしてください。」


「兄上を夕食まで頼んだよー」


「はい、お任せくださいませ。」


 俺はそう言ったあと、炊事場から離れた。


 いやーあっつかったなぁー…………


 

 

 ◇ ◇ ◇




【アッシュ視点】


 

「…………相変わらずですね。あの方は……」


「あやつはいつもここを訪れていたのか?」


「いえ、たまにだけですよ。ここへ来るときこうすれば美味くなるのではないか?と助言を貰うことがありますね。」


「あやつは料理をしたことなどないぞ?」


「はい、恐らく本で得た知識を私達に与えているのだと思います。その上で私達に自分の考えを出させるような言い方で優しく語りかけていますね。」


 自分の考えを……


「アッシュ坊ちゃま。」


 なんだ?炊事場の雰囲気が変わったぞ?


「お願いがございます。」


「あ、ああ。良いぞ、言ってみよ。」


 ステファンとやらが真剣な眼差しで俺を見る。

 他の調理師達も……一体なんだ?


「どうか、ルーク坊ちゃまを御守り下さい。」


「…………」


「あの方の……屋敷ではの噂を知っています。無論、ルーク坊ちゃま自身も聡明な方ですのでそのことをご存知でしょう。」


 勉学だけ上手い無能、痛みに弱い軟弱者。


 それが今のあやつの評価だ。


 …………昔、あやつを天才だと称えた者共が、今やそやつらがあやつを冷えた目で見る手のひら返し。


「そんな悪意の中で晒されても、それでもあの方は笑うのです。働いた者に「ありがとう」と。他の家ではそんな方は見ません。」


 ………………


「ですが、そんな優しさに応えられない私達が胸が痛むのです。戦う才能が無くてもいいという言葉を、貴族の子であるあの方には絶対に言えません。」


 貴族とは絶対的な光にならねばならぬ


 亡き祖父の言葉を思い出した。

 最初はそれを戦場にて証明されるものだと思っていた。

 だが、ルークと接してからそれだけではないと思い知らされた。

 今回のこれもまた同じ。


 だからこそ、問わねばならぬ。

 

「貴様らは何故、あやつを慕う?」


 ステファンは膝を曲げ、頭を深く下げる。


「…………私達の働きを認めたからです。」


「そうか。」



 ………………嗚呼、そうか。


 こやつらは俺と同じだったのだ。


 …………ならば。



「ステファンよ、面を上げよ。」


「…………」


「良く、俺にそれを申した。お陰で色々と考えることが出来た。」


「ありがとうございます。」


「出来ることをやってみる。それが今の俺の精一杯だ。」


「いえ……」


「だが、あやつの優しさに応えれてないとは訂正しろ。」


「…………?」


 あやつも言っていたであろう。


「いつも美味い飯をありがとう……と先ほどあやつは言ったぞ。そなたらはもう十分応えているのだ。」


「……はい……」


「胸を張れ。」


「ありが……とう……ございます……!」


 ………………


「ありがとう……ございます!!」


「ああ……ほら、仕事に戻れ。食事の味が落ちたなどとなれば、あやつはガッカリするぞ?」


「はい!皆さんも頑張りましょう!」


「「「「「「はい!」」」」」」


 そして彼らは先ほどより真剣に作業に取り組んでいた。 

 

 ルークよ。

 お前が俺にこの光景を見せたのだ。


 そして、俺も誓おう。


『貴族とは絶対的な光にならねばならぬ』 

 

 俺はいつか、お前に這うその悪意を――


 照らして晴らせる眩き光となろう。




 =============

 某ルダの伝説の新作でちょっと投稿ペースが落ちます。

 申し訳ありません。


 374☆、1158❤️、957作品フォローと




 48400PVありがとうございます!!


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