第17話 村長さんって何?
一体何に怒っているのだろう。そのままバサリと外に出ていったウルズさんを追って私とカナタは出入り口の布を手で押し上げた。
外に出ると、やっぱりさっきここに集まっていた人達がまたぐるりと取り囲むように並んでいた。
さっきと違うのは家の前に担架みたいなのが置かれていた事だろうか。
「何のマネだ」
ウルズさんの問いかけに担架を持っていた男が答える。
「もうお前のところの子もダメなんだろう。まだ温かいうちに神様に捧げにいこう。そして、他の子らの回復を祈願しなければ!」
「必要ない!!」
「つらいのはわかる。だが、もう薬を買うだけの金がないオレ達に残された手段は、神頼みしか――」
「うーっ!!」
頭を掻きながらウルズさんは唸っていた。
そこへ、あの尖った耳の男が姿を見せる。
「ウルズさん、気持ちはわかります。ですが、一人目はすでに神の元にお願いに行っているはずです。あなたの子どもも神の元に行けば、今度は……次の子達は助かるかもしれないんですよ!!」
「ヒナツ……。そうか、お前が呼び掛けたのか」
ヒナツと呼ばれた男はこくりと頷くと、ウルズさんに近付き肩を叩いた。
「さぁ、ミラを連れてきて下さい。お別れがすんでいないのなら、奥さんも一緒に」
「待ってろ……」
ウルズさんが戻ってくる。私達に気付くと、見せる事になるけど許してくれと呟いていった。
「おや、先ほどの不思議なお嬢さん」
ヒナツは私を見つけるとキュッと目を細めた。それがなんだかぞわりとして後ろに一歩後ずさる。するとカナタが一歩前に出て私をその視線から隠してくれた。まるで守ってくれてるみたい。
「イーシャはもう神様のとこに行ってお願いしてくれてる! だから、もう――!!」
「ですから、あなたの――」
カナタがヒナツに噛み付き始めたその時、後ろの布が開けられウルズさんが出てくる。その腕にしっかり目を開け笑顔を浮かべるミラを抱きかかえて。
「ミラ……?」
「なんだ、様子が――」
「元気そうじゃないか? 咳もしてないぞ」
回りを取り囲んでいた人達がざわざわと騒ぎ立てる。ミラが元気になった事がそんなに驚く事なのだろうか。
「う、嘘だ――。だって、あと数日持つかどうかとウルズさんが言っていた……じゃないか……」
「ミラは治った。皆も希望を持ってくれ!!」
何だろう。もしかして、もしかしてだけど他にもミラみたいな患者がいるの?
次の子達とか皆とか、何人もいるの!?
「わかったろ。これをしまってくれ。説明に行くから集会所にいつもの面子を集めておいてくれ」
「――っ、お前の家だけ助かったってまだまだまだまだ病の人がたくさんいるんだ」
「わかってる」
「金がないと言って嘘をついていたのか? 自分の家だけ助かるつもりだったのか」
「説明すると言っただろう。皆、助けたいなら言う事を聞いて欲しい」
ウルズさんの言葉を聞き、まわりの獣人達がヒナツをおさえどこかに連れて行く。
ヒナツはずっとずっとブツブツ言っていたのがなんだか怖かった。
「カナタ、ハルカちゃん。中に入ってくれ」
「うん」
「わかりました」
中に戻り、ウルズさんはミラを椅子に座らせる。スクさんとウルズさんも椅子に座ると私達にも座るように促した。
「それで、どっちだ」
「え?」
「えっと?」
「いや、状況から言ってハルカちゃんだな」
「そうね……」
これはもしかして、ミラを治したのがどっちか聞かれてる? なら、私です。どうしよう。連れて行かれちゃう? 逃げないと?
ぐるぐると私が考えているとウルズさんは優しい目で笑った。
「心配するな。恩人を裏切ったりするつもりはない」
「それでも信じられないなら、今すぐここから離れてもいいのよ。だけど、信じてくれるならわたし達の話を聞いて、それからあなたの話も聞かせてもらえるかな? ハルカちゃん」
私はこくりと頷く。だって他に行く場所なんてない。それに、私がいなくなると、この人達がさっきの人達に何かされるんじゃないかって心配だった。
せっかく病気が治ってこれから笑顔になるはずの人達がそんな事になったら嫌だった。
「知ってると思うが今、調合スキルや回復スキル持ちが生まれにくくなってる。回復魔法を受けるには大金と地位やコネが、ただの薬を得るだけでも大金がいる」
もふちゃんに聞いた話だ。
「この村に回復出来るヤツはもちろんいないし、調合スキルを持つ者もいない。他の村や街まで行って買ってこなきゃならない。それを一手に引き受けてこなしてくれてたのがヒナツだ。大金が必要だったがなんとか近くにある風狼族の村で安く薬を手に入れてくれていた」
「そうなんですね」
「アイツの持ってくる薬は効かなかったけどな」
カナタが悪態をつく。それを見てウルズさんはため息を一度吐き頭を掻きながら話を続けた。
「あぁ、だがいよいよ払える金が無くなり諦め始めた矢先だった。ハルカちゃんがきたのは――」
もう少し遅かったら、ミラのこの姿は見ることが出来なかったかもしれないんだ。
間に合って本当に良かったと思った。……私は駄目だったけど、こんな気持ちになる人を一人でも多く減らしたい。
「ヒナツとオレは次の村長の候補なんだ。村長っつても、まあ多少意見が通るとかそんなもんなんだけど。ヒナツは風狼族と雷狼族の子で最近仲が良くない風狼族との関係を取り持つ為に選ばれてるんだ」
村長さん? 何が関係するんだろう。
「この病気は生粋の雷狼族の子にだけ流行ってる。いまは子どもだけだがもしかしたら大人達もすでに――」
『なんだか難しいラム』
『難しい話モャ』
ライムとソラがあくびをする。そうだねと言いたいけど、ウルズさんの真剣な話っぷりを聞くと言い出せない。
「ウルズ、ハルカちゃんには難しいですよ。ほら、眉間にシワが」
「え、えぇ? すみません」
私は急いでおでこを指で伸ばす。
「いや、すまなかった。スク、オレに代わって説明してくれるか?」
「もう。そうね、ハルカちゃんあなたは今のを聞いて難しかったところはどこだった?」
「あ、えっと、回復が貴重だって事は知ってます。ただ、病気と村長の関係が……、何かあるのかなって?」
「関係ないと思いたい。だから、ハルカちゃんはそれは気にしないでいいわ。この村で、ミラと同じ症状の子がいるの。その中でミラだけが治った。他の子や他の親達はどう思う?」
「――なんでミラだけ?」
「……そうなるでしょうね。それを今から説明に行くのだけど、ハルカちゃんの事を説明して果たして大丈夫なのかどうか。高価な薬を見ず知らずの人間に使う子ども。それを聞きつけた大人達がどう動くかわからないの。だから――」
「ハルカは俺が守る」
「――カナタ。でもね?」
「ハルカは俺が守るから問題なんかない」
カナタは自信満々に言うがウルズさんとスクさんが同時に困った顔をする。
「ボクもハルカちゃんに恩返ししたい。まだお礼だってろくに言えてないのに!!」
ミラまでカナタに乗っかるものだから、二人はうぅんと唸りだしてしまった。
難しい事は私にはわからない。だけど、私の力で治る人達がいる。それだけは確かだ。
「私、……私が治せる人がいるなら、みんな治してあげたい! だって、それが――」
お医者さんになりたい。先生みたいに、皆の命を救ってあげるお医者さんになる。それが私の夢だから。
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