第10話 アルラウネって何?
『大丈夫モャ!!』
ソラはくるりと回り着地すると角をアルラウネに向け再度威嚇の体勢を取る。
『この前のと違う……。ケド、そこを荒らすのは許さナイ。昨日ワタシを傷つけた豚頭と同じ目にアワセテやる……ノ』
「あの、勝手にここに入ってごめんなさい! 私達この草が必要なんです。お願いします。少しでいいんでわけてもらえませんか!!」
危なくこの前のカナタと同じ事をしてしまうところだったんだ。自分の物を勝手に持っていかれたら嫌だよね。
しっかり頭を下ろし、お願いしてみるとアルラウネは蔓の動きを止めてくれた。
ホッとしていると、もふちゃんが目の前に飛んできて手をバタつかせてる。えっと、水泳の練習?
『ハルカ!! スキルのレベルアップを今すぐして下さい』
「え、あ、待って」
ステータス画面を開き、レベルが上がってる事を確認した。
『医療道具作成です。はやく!』
言われるまま、それを一ポイント振り分けると、医療道具作成スキルを獲得しましたと告げられ使用を促された。
「医療道具作成!!」
途端、口と鼻が何かに覆われ、目は透明な何かが隠す。これってマスクとメガネ?
『ハルカ、花粉モャ』
『吸っちゃ駄目ラム』
「え? え?」
ライムとソラが同時に苦しそうに小さくなる。
「ライム! ソラ!」
『ナンデ、お前動ける? 話までわかル。なんだ、オ前? まあ、いい。 小サイの二匹、ソイツがテキ。ここから追い出シテ!!』
ライムとソラの目が昨日のオークみたいに真っ赤に染まってる。
「ライム、ソラ!? 私だよ、ハルカだよ?」
『テキ……ラム』
『モャ……』
私に戦うスキルなんてない。治してあげる事しか出来ないし、二人を叩いたりなんてもっと出来ない。
じりじりと近寄ってくる二人に追い詰められる。丘の上の端、下に落ちたら色々痛そうな場所に立った。
『ハルカ、この位置では下の岩にぶつかり大怪我をする可能性があります』
「うえぇん、でも二人が……」
いよいよ、落ちそうなところまで来た時、私は思い出す。
「カナタ! 助けて、カナタぁぁぁ!」
すぐ行くから――。約束通り、カナタは風のように飛んできた。落ちかけていた私を抱きかかえ花畑の中央、アルラウネが見える場所まで舞い戻った。
「カ……、カナタぁ」
「ハルカは俺が守る。って、ハルカ。なんだその顔」
「え、あ、カナタこそ……」
カナタは鼻に葉っぱみたいなのを丸めて詰め込んでいた。風邪を引いたときにティッシュを丸めて突っ込んでるみたいなシュールな姿。
さっきまでめちゃくちゃかっこよくキラキラ輝いて見えてたのが一瞬で吹き出しちゃうくらいおかしく見える。ごめん、カナタ! 止められないっ!
プププと笑ってしまうと、カナタも一緒に笑ってくれた。マスクとメガネってそんなに変なのかな。
「そうだ、カナタ! 花粉は?」
「花粉?」
『ハルカ、花粉はすでに風に運ばれここには残存しておりません』
一安心するが、アルラウネはまだそこにいる。カナタの分も作らないとと構えると、アルラウネの叫び声が響いた。
『きゃ、きゃっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
甲高い声が耳をつんざく。
カナタも慌てて耳を倒していた。
「な、なんだぁ?」
小さな体で私を抱きかかえながらカナタはアルラウネを見る。そろそろ下におろしてくれないかな。私のほうが大きいから、絶対重いよねと考えてかなり恥ずかしい。
「カナタ、解毒草! アルラウネさんの花畑みたいなの」
「えぇ? そうなのか!? なら、別の場所のを」
アルラウネの蔓が伸びてくる。今度はカナタが叩かれる? そう思った私はせいいっぱい手を広げ彼が叩かれないようにした。けど、蔓は手前でぴたりと止まった。
『け、けモ……』
けも? アルラウネが顔を赤くしながらあわあわしていた。どうしたんだろう。
『ケモみみの――男のコ!! ホンモノぉぉぉぉーーーー!?』
彼女は全身を真っ赤にして、蔓の先まで赤くなって、目もぐるぐるしてる。そのまま、ぱたりと倒れてしまった。
「えっと……どうなってるのかな」
「さ、さぁ?」
「そうだ、ライムとソラ!」
地面におろしてもらって二人を見に行くとさっきの場所で二人はすやすやと眠っていた。
「よかった、無事で……」
『ハイ、ハルカ。操っていた者が気を失い同様の状態になっているようです。今のうちに解毒薬を作り二人に』
「ハルカ、俺はこっちを見張っとくから今のうちに草を持っていこう」
でも、この花畑はアルラウネさんので――。
考えていると、もふちゃんが耳もとで囁いた。
『ハルカ。なら、解毒魔法でささっと治してしまいましょう』
「え、出来るの?」
『ハイ、すでに残りポイントを振れば獲得出来るようになっています』
私は急いでステータス画面を開き、もふちゃんが言うように割り振った。
『解毒魔法獲得しました。ハルカ、回復魔法のように唱えて下さい』
「え、毒を消すおまじない? そんなのってないよ? うーん、えー? 消毒しましょう、シュッシュッシューってこれは違うかな?」
一瞬赤く光り、それは二人から離れ泡のようになって空に消える。
「え、今のでいいんだ? え? ほんとに?」
『ハイ、ハルカ。成功です』
「そっか、よかったぁ」
『言葉は特に何でも良いのです。思い浮かべるイメージが大切ですから』
「え、それじゃあ別に今のじゃなくても、ゲームみたいな呪文、例えばヒールやアンチドートなんかでもいいの?」
『ハイ、ハルカ。アナタがそれで認識出来るなら』
「そ、そうなんだ」
はやく教えて欲しかった。それならテレビの広告でやってた消毒薬のフレーズを口になんてしなかったのに。まあどうせこの先、人に使えない魔法なら、どう言ったって変わらないのか。
すやすや眠る二人を抱き上げ、カナタのもとに行く。
「何だよ、何か偉そうにしてたのに気持ちよさそうに寝てるな」
「むぅ、二人ともちゃんと守ってくれてたんだよ」
口を尖らせ抗議するとカナタは困ったように笑っていた。
「それで、草は? 鼻に草詰めてるのもそろそろ限界なんだけど」
「うん、持って帰りたいんだけど……」
「あ、そっか。ごめん。また人のもの勝手に持っていっちゃう事になるんだったな。よし、他の場所に――」
気がつけばカナタの後ろに蔓が伸びてきていた。アルラウネも起き上がってきている。
「カナタ! 後ろ!?」
「へ?」
カナタはくるりと後ろを向くけれど間に合わない距離だ。
「だめぇぇぇぇ!!」
『お、お友達にナッテ下さいっ!!』
ほぼ同時にアルラウネが声を発する。
「ぇぇぇぇぇえぇ!?」
お友達? お友達って?
わけが分からず首を捻っていると、カナタが聞いてきた。
「なぁ、こいつ? 何なんだ? ど、どうしたらいい?」
蔓はカナタの手前でふるふると震えていた。そうだった、カナタには魔物の声は聞こえないんだった。
「あの、えっとね、カナタにお友達になってもらいたいみたい」
「え? 俺?」
アルラウネはうんうんと頷いている。間違いないようだ。
「お友達になったら、解毒草わけてもらえるかなぁ?」
私がそう言った途端、カナタは蔓を握りしめた。それから、大きな声で叫んだ。
「よし、俺の友達になってくれ!!」
鼻に草が詰まってるせいか、くぐもった声だったがしっかりとアルラウネに届いたみたいで頬がよりいっそう赤くなりながら彼女は二度目の失神をした。
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