俺のカノジョは「夢」と「現実」の区別がつかない!~なにかとマウントをとってくるクールな年下幼馴染が、実は俺のことを大好きすぎた件~
ささき彼女!@受賞&コミカライズ決定✨
第1章:蝴蝶霞音は夢と現実の区別がつかない!
1-1 仕方なくお付き合いをしてあげましょう
「まったく――せんぱいはだめだめですね」
「こんな問題も解けないのですか? 一学年下の私にだってわかりますよ」
別に今に始まったことじゃない。彼女の俺に対する
高校二年生の俺――
「せんぱいは今まで授業で何を学ばれてきたのでしょう」
学内外に非公式のファンクラブをいくつも抱える蝴蝶
「はあ。せんぱいの将来が心配です」
そんなふうにジト目を向けられても、俺の場合は『やれやれ。また始まったか』と内心でため息をつくしかないのだった。
「せんぱい――私のお話、聞いていますか」
「ああ、聞いてるさ」
「ふうん……本当でしょうか」
ちなみに俺たちは今も〝
彼女の家にまでわざわざ来ているのは、もちろん理由があって――
俺たちふたりは霞音の【お姉さん】に家庭教師をしてもらっているのだった。
「ふたりとも、課題は順調かしら」
噂をすれば、リビングにつながるドアが開いた。
「あ、姉さん。私は指定の分は終わりました」
「俺は……すみません、もう少しかかりそうで」
やってきたのは
「あら、ユウくんはまだなのね」
俺のことを『ユウくん』と呼ぶ絵空さんは、周囲へ(俺に向かっては特に)
「焦らなくていいのよ。ゆっくりで大丈夫だから」
というわけで。
俺は定期的に
(ちなみに成績優秀な霞音は1年先の学習範囲を先取りしていて、家庭教師の内容は高2の俺に合わせている。くそう、なんだか負けた気分だぜ)
「はあ。年下の私の方が早く解けるなんて、みじめな気持ちにはなりませんか?」
「……お前の話を〝ちゃんと聞いていた〟からこそ遅くなったんだ」
「な。私のせいとでも言いたいのですか」
「聞き分けが早くて助かるぜ」
「むう……せんぱいが姉さんから学んだことを活かせていないだけです」
などと。
霞音といつもの
「うふふ。今日もふたりは仲が良いわね」
と絵空さんが目を細めて笑った。
「「どこがですか!」」
俺と霞音の声が合わさった。
「「……あ」」
互いに目を見合わせ、眉間にしわを寄せる。
「ふふ。そうね、ひとまず霞音ちゃんから先に問題の解説を始めましょうか」と絵空さんが提案した。
「いえ……それでは姉さんの二度手間になりますし。せんぱいを待つことにします」
「そう? 霞音ちゃんが言うなら――あ、だったらその間に、おやつの準備をしてくるわね」
と言って絵空さんはキッチンの方へと向かった。
「ふう。私が
こんなふうに。
霞音は俺に対してなにかと『強者の立場』からマウントを取ってくることが多い。
しかし絵空さんの家庭教師のおかげで(そして何より年下の霞音に負けたくないという思いから)学校の成績も上がっているのは事実なので、プラマイにしたらプラスだ。
「……せんぱい、今なにか失礼なことを考えませんでしたか」
「ぎく。気のせいだろ」
「あ。いま『ぎく』と言いましたね、私は聞き逃しませんでしたよ?」
「聞こえるように言ったんだ。術中にハマってくれてうれしいぜ」
ぷくう、と霞音は頬を膨らませ、またジト目を向けてきた。
「とにかく。はやく問題を解き進めてください。このままでは日が暮れてしまいます」
俺はふたたびノートにシャーペンを走らせる。
横目で霞音の様子をうかがうと、彼女とぱちりと目があった。
「……なんですか」
「いや、なんでもないさ」
というわけで。
学校一のクール美少女・
「はあ――やっぱり、せんぱいはだめだめです」
――そんな霞音が、事故にあった。
♡ ♡ ♡
「
俺は息を切らして、霞音が入院しているという病室へと駆け込んだ。
彼女はベッドの上でいくつもの
「……? せん、ぱい?」
目を覚まして俺を見つける。
「~~~っ……! ど、どうしてせんぱいがここにいるんですかっ」
しかし彼女はひどく驚いたような声を出し、俺を睨みつけてきた。
「なにって……絵空さんから聞いて、お見舞いに」
「いりません、帰ってください!」
つづけて霞音は唇を震わせながら、近くのテーブルにあったティッシュ箱やらなにやらを俺に投げつけてきた。
「お、おい……っ!」
「こちらを見ないでくださいっ」
ひととおり物を投げ終わると、霞音は布団を頭まで被ったまま出てこなくなってしまった。
「……ったく。心配して来てみれば」と口では言いつつも、俺はすこしだけ
「はやく出ていってください――せんぱいがいたら、治るものも治らなくなってしまいます」
「ああそうかよ。そりゃ悪かったな」
ため息をついてから病室を出ると、廊下に絵空さんが立っていた。
「あ、ユウくん……このあと、すこし時間いいかしら」
「? はい、大丈夫ですけど。思ったより霞音のお見舞いが早く終わったので」
俺の皮肉に、絵空さんはやんわりと唇の端をあげてから言った。
「霞音ちゃんのことで、相談があるの」
♡ ♡ ♡
「〝夢〟と〝現実〟の区別がつかなくなる、ですか……?」
「精密検査をしたらね、怪我自体はすぐ日常に戻れる軽いものだったのだけれど――頭をぶつけたせいで、一時的に
――
と絵空さんは言った。まだ治療法が見つかっていない希少な病気で、なんでも『睡眠中に見た〝夢〟の中の出来事が、あたかも〝現実〟であるかのように脳が錯覚してしまう
「お願いっていうのはね? 治るまでの間、その症状を
「え? 病気のことを本人に黙っている、ということですか?」
絵空さんはうなずいた。
「なんでもね? この病気にかかった人が症状を自覚すると、精神状態が不安定になって、そのまま夢と現実の境目がどんどん
絵空さんは胸の前で手を組み合わせてつづける。
「お願い、霞音ちゃんのために協力してくれないかしら……?」
「あ、いや……。そういうことならもちろん、協力はするんですが。――夢って〝色々なもの〟を見るじゃないですか。不条理な、それこそ非現実的なことも起きたり。黙っていても、いつかは違和感を覚えてバレるんじゃないですかね?」
しかし。
俺の心配をよそに。
「ううん――ユウくんさえ協力してくれたら大丈夫」
絵空さんははっきりと断言したのだった。
「だって、あの子のみる夢――
「……はい?」
♡ ♡ ♡
経過は良好で、
その次の登校日の朝。通学路。
「あ……せんぱい」
霞音の家の前を通ると、外で彼女が待っていた。
その表情はいつもより自信に満ち溢れているようにも見える。
「……よう。元気そうでよかった」
「遅いです」
「ん、どうしたんだ?」
「それはこちらのセリフです。忘れたのですか?」
「忘れたって……?」
霞音は大きく息を吐きながら言う。
「やっぱりせんぱいはだめだめですね。今日の朝に〝お返事〟をすると約束したではありませんか」
「返事? ……あ」
そこで俺は思い当たった。
今の霞音は、後遺症で
彼女が言っているのはきっと『自分の夢の中』での出来事だろう。
「はい、お返事です」
俺の預かり知らないところで、一体どんなことを彼女と約束したのか。
なんだか嫌な予感しかしなかったが。
「昨日、せんぱいは――」
しかし霞音は。
ひとつの
「この私に
「……は?」
俺は『は?』と言った。
「きっと昨夜は結果が気になり眠れなかったのですよね? ですからお返事をしてあげます」
そんなふうに。
口を開けば俺を罵ってばかりだった絶対零度の
「せんぱいが
勝ち誇ったように得意げにしながら。
しかしどこまでも〝喜びを抑えきれない〟様子で。
「あくまでも仕方なく――せんぱいと
頭上の毛をぴこぴこと揺らし。
むふう、と俺にマウント顔を向けてきたのだった。
「とくべつのとくべつですからね? ――せんぱい」
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素直じゃないマウント取りたがりなクーデレ後輩との『勘違い&疑似恋愛』が始まります!
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(今後の【毎日更新】の励みにさせていただきます――)
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