第21話 瑠璃の話

「ええ。そうだといいですね。」

 美和の話に、静かに姫子が相槌を打った。






 少しの間、沈黙の時が流れた。






「皆様、大切な人の思い出に浸っている時にすみません。


 巌さんの身に昨夜起きた真実を探求するためです。

 申し訳ありませんが、話題を昨夜の話に戻させていただきます。




 薫さん、あなたはお母様と同じように、お風呂から上がった後に誰かに声を掛けたのでしょうか?」


 姫子が薫に話しかけた。




「・・・あっ。


  いいえ・・・。




  私は、結局誰にも声は掛けませんでした。」


 薫は、最初何かを思い出したような顔をした。

 しかし、その事は何も言わずに小さな声で答えた。



 姫子は、今の薫の様子の変化を見逃さなかった。

 そして、その事を本人に確認するべきかを考えていた時だった。


 姫子と薫との会話に入って来た人がいた。



「薫さんの後にお風呂に入ったのって、多分私なんじゃないかな?」

 瑠璃が姫子に話しかけてきた。




「そうですか。


 瑠璃さん、なぜあなたはそう思ったのですか?」

 姫子が瑠璃に優しく聞き返した。




「う~ん、そんな風に言われるとなぁ・・・。


 自信はないよ。多分、なんとなくそうじゃないかなって話なんだけれどさ。


 だってお母さんや薫さんの足音って動きも静かだからほとんど聞こえないんだよね。だから、いつ上がって部屋に戻ったのかがはっきりとは分からないからさ。




 けれど、兄さん達二人の足音は、静かな夜なら何となくだけれど、たまに少しだけ聞こえた気がするんだよね。




 昨夜も、兄さんのどちらかが階段を登って来て、部屋に戻った音が聞こえた時があったんだよ。




 それでさっきの兄さん達の話を聞いていて思ったんだけどさ、その足音って、お父さんの怒った声がした少し後だったし、時間的にもそれがお父さんと悠馬兄さんの話が終わった時なんじゃないかなって思ったんだよね。



 だってさっき悠馬兄さんがその時にペットボトルを取りに下の冷蔵庫に行ったって話をしていたでしょ。




 それから少しして、お風呂に入りたくなって下に降りて行ったら、丁度誰も入っていなかったからそのまま入ったんだ。



 それで、自分が薫さんの次かなぁて考えたんだ。




 でね、最初はゆっくり入ろうかなぁなんて思っていたんだけれど、湯船に浸かって温まっていたらどんどん眠たくなってきたんだよね。


 だから昨夜は、お風呂から上がって、部屋に戻ったらすぐにそのまま寝たんだ。」


 瑠璃が姫子の質問に、考えながらゆっくりと答えていた。



「今のお話からすると、お風呂の後には、瑠璃さんはどなたにも声を掛けないで、ご自身の部屋に戻ってすぐに眠ったのですね。






 先程薫さんから、薫さんがお風呂に行く時に瑠璃さんと会ったという話がありましたね。


 それでは瑠璃さんは、薫さん以外のご家族の誰にも夕食後は会わなかったのでしょうか?」


姫子が改めてたずねた。




「・・・そうね。」


 瑠璃が短く答えた。

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