亜ぐ刻旅日:迥

のつなよ.exe

再始動ヘノ渡シ舟

「....ッ....師匠...?」

蒼い目を開けた黒髪の少年の質問に全く返事は無い。

....。

自身の額に手を当て、薄暗い部屋の白いベッドに横たわったまま、少しの間ぼーっと天井を見ていた。


ふいにゆっくり扉が開くと、鳥のようなものが飛び込んできた。痛む体に気を使って、瞳だけを下に向け其れを見る。白染めに紫の縁の外骨格を持つ龍....

そう、ファネだった。

笑っているような顔付きでルアの頭上を小旋回し、それからぽすっとベッドに不時着した。

「.......行き...ますか.....。」

1人の少年は顔を痛みで少ししかめながら、ゆうっくりと起き上がり、1歩1歩踏み締めて進んだ。

廊下の様子はまるで坑道の様で、等間隔に薄暗い暖色のランプが壁に取り付けられ、天井は鉄パイプが血管のように入り組み...

急にプシーと噴き出すその配管に驚きながら、その反動で腰を痛め乍ら......案内人のファネが舞う方へ歩いていった。

手すりに止まったファネに追いつくと、その周りが

ぐじゅう...

と肉に手をねじ容れた様な音を立て突然、やおらに上昇しだした。

「ひゃうっ....!?」

直径1.2mの狭い足場(ルアが華奢なのでそこまで目立たないが)から落ちないよう、がっしり手すりに捕まりそのまま連動して天井に開いた、同じく直径1.2m程の穴に潜って行く。

ごおう...ごおう...と耳からの情報とうねり倒した目の前のパイプを目に、小さいランプと手すりだけの暗い空間を登り上がり、再び視界が開けると...

「......ッまぶし......。」

太陽が浮かぶ大きな窓が着いた空間、窓には灘らかな丸みを帯びた蒼き光が広がる。

そして、そこかしこに生える...道中とは違って決して自然的ナチュラルでは無いカクカクした機械たち。

ひとつの大きな囲いの中にある、光る四角い板に無意識的に触れる。するとそれは波紋のようなエフェクトを出しそれに応える。

{認証}と文字が浮かぶと、青く....透き通った欠片が、ルアの周りを優雅に泳ぎ出した。未だに理解できず、説明も無く....しかし、それは余りにも流麗で、彼の瞳から雫が零れた。


涙を白い龍が拭う、かかかか...と音を出して舞う。

「....ありがとう....。」

黒髪の少年、ルアはそれでも溢れた雫を払うと、その光の無機質だが、結晶の様な美しさに生命いのちを感じ....光の欠片に問いかけた。

「君は....誰です?」

ぽひゅん、とその結晶は形を作り、小さな高音ノイズが周期的に響くその空間にしじまで語り出した。

薄さ0.00000005mm以下の光の長方形の板の上では、読む度に文字が増えては消えていく。

{時ニ、玖年前。我ハ産マレ、主ト、旅ニ出ル。}

「主は何処へ...?」

{霧ヲ進行、隠レシ者トシ、共ニ進ム}

「僕はどうなるんです...?」

{主、追跡者ト行キ、我、単独航行ヲ継続}

「ん....質問が多かったか....」

{....スミマセン]]

「..........???」

[[もうイいデすよね...疲レましTAよ,,このシャベりかTAデス。]]

ただバグったような文字列で丁寧語によって謝罪が成された。

の直後に、ありとあらゆる楽器の音を混ぜに混ぜ...それっぽく読み上げ、発音させた様な響きが...耳より奥のどこかで木霊こだます。

「き、君は.....?」

[[ワタシは、、{ディヒテ・ネーベル}タダさすらいの飛空戦艦。ココロかラノ歓げイをPresent㌨デス]]

なんだかはしゃいでいるかのように、次々と言葉が浮かび上がる。キョトンとして、頭が真っ白だった。しかし思い出した。

「し、師匠はッ!?」

[[........そのしつもんはまだコタエルワケニハイケマセンン....㌨デス]]

「...........。」

拳をぎゅうっと握り締め視線を落とす。

[[アァ.....ゴメンナサイゴメンナサイ.......[コタエルワケニハイケマセンン]事情が有りますデス]]

「............。」

悪意が無いことを文字列で感じ...再び、今度は違う意思を込めて拳を握り締め...

「僕....行きます。艦を降ります。」

[[...........]]


[[.....Good]]


[[全方位異常無シ低空軌道ニヨリ衝突ニ注意セヨ]]

ふぁああん!ふぁああん!ふぁああん!

余り不快感の無いサイレンが艦橋ブリッジを染め、

「.......!?」

グッと重力が軽くなり、身体がふわっとする感覚が襲う。するとファネがこちらを覗く様に飛んだ後、移動を開始した。

其れを誘導と見たルアは急いでついて行く。

不思議なエレベーターを抜け、今度は下へ下へと進んでいく。金属製の階段をカンカン言わせながら降り、そこには扉があった。近づくと.....

ふしゅう...と空気が抜ける音を発して扉が開く。

そこには高速で移動する緑の大地が遠く遠く...遥か下へ見えた。低空とは何だったのか?思う事はあるが.....

「まぁ...なんだか.....ありがとう。」

ふぉぉぉぉぉん.....!!!

優しい汽笛が蒼空そらを揺らす...

その入口に置かれた大きなリュックには今までの旅で使っていた品々と、その大地へと降り立つための羽が詰め込まれている...。

「これって....うん行くよ、ファネ」

するっと1匹の龍がリュックに潜り入るのを確認すると、力強く飛び降りた。

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