第10話 いつもとは違う窓際ポジション
「人狼陣営の勝利!」
「来たァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!お前騙すの上手かったわ」
「完っ璧にはめられたわ…」
校外ホームルーム当日、大洗町にあるバーベキュー場にバスで向かうなか、後部座席の人たちは人狼を楽しんでいる。
成り行きでしれっと参加して市民の役職を貰い、そして早々に殺されたオレは、1番後ろの右の席で窓の外に広がる太平洋を眺めていた。
「ここでも窓際1番後ろかぁ…」
教室と同じようなポジションになってしまったが、バスの場合は勝ち組である。後ろの席といえば、陽キャが席巻して賑やかなものだ。そこにオレは上手く潜り込んで人狼ゲームにも混ざれた。
「碇ぃ、市民はつまらなかったよなぁ。そして…プッ、初夜で…ククッ」
隣に座る田川がオレの哀れさを笑う。
「うるせえなぁ、まぁでも見てるだけでも楽しかったよ」
「見てたって、雅也くんずっと海見てたじゃん黄昏ながら」
「いや、ちょっ、別に黄昏てはないわ」
前に座る岸本からも急にいじられたため、返答に一瞬困った。
席の背もたれの上から顔をひょっこり出して彼女は笑う。
――高校初のイベントのスタートは、いい感じだ。
バーベキュー場に着くと、好きにグループ組んでいいぞ〜と担任の近藤先生がクラスに呼びかけた。
海のよく見える見晴らしのいいバーベキュー場だ。なかなかいい場所。屋根付きで風通しもよく、日差しも気にならず、少し寒くも感じるくらいである。
「碇はバーベキューの時グループ一緒な!」
と前々から誘ってくれていた田川のおかげで、オレは余り物になることなくスムーズにグループに混ざれた。
本当にこーゆう時彼は頼りになる。
昨日田川と一緒にバスケをやりに来た二宮大成、笹倉翔真を合わせ男子4人と、岸本南、菅野瑠夏、根本玲奈の女子3人の計7人グループ。
二宮はサッカー部のキーパーをやっている好青年。笑った時の真っ白な歯が好印象のヤツだ。笹倉は野球部で1年からスタメン入り確実と言われるほどの投手で、スポーツ万能。昨日のバスケでも初心者とは思えないプレーの連発だった。菅野は笑い声が少しおじさんクサイと呼ばれている子だ。ツボが浅く、そして大笑いする様子はクラスでも初期から目立って面白がられている。根本は少し気怠げそうな顔だが、目鼻立ちは整っていてクラスで三本指に入るほど頭がいい。授業で聞かれた時は全て答えている。
「碇よろしくなっ」
「碇くん初めて話すよね、よろしくね〜」
「よろしく〜」
グループのみんながオレに挨拶、よろしくねと軽くこちらも頭を下げる。
「とりあえず班の顔合わせは終わったし、魚介調達行くかぁ!」
田川がオレたち男子に声をかける。
バーベキュー場でも食材はコースとして注文できるが、魚介は自分達で買ってみたいという男子の希望で、バーベキューの下準備は女子、魚介調達が男子の役割となった。肉はコースのものを注文する。
再びバスに乗り込んだ後、少し離れた魚市場に到着。北関東では1番大きな魚市場であり、様々な魚が大量に建物3棟いっぱいに並べられている。
各グループの男子、特にオレが魚介の目利きを始めた。潮や魚の匂いに、港に来たと感じる。
ここ那珂湊魚市場には、親と月に2回ほどは来て魚を買うため、ある程度魚や貝のモノの善し悪しが分かってきていた。
「やっぱり魚介買いに来たんだもんなぁ、マグロ食いたいよなぁ、あとホタテ!牡蠣もいいな」
笹倉が大量に並べられたマグロを吟味しながら言う。
「サクになってるの買って切り分けなきゃいけないし…てかバーベキューでしょ。刺身食ってどうする。とりまホタテに牡蠣ね」
「オレはエビと…碇、なんか焼き魚系でいいのある?」
田川はニヤつきながら、カゴで置かれた車海老を見ながらオレに尋ねる。エビのチョイスは賛成だが車海老はもちろん却下する。
「買うのは安めの赤エビだからな、まぁ焼き魚なら…サワラとかにしとくか…うわ、このキンメ…モノがいい」
買えないが、どうしてもモノのいい魚には目が行ってしまう。そしてここは広くてたくさんの魚が置かれているため余計に進まない。他の男子に急かされながら、予め聞いていた女子の希望を含め買うものは揃えた。
会場に戻ると、炭の準備が終わり、コースの肉がテーブルに置かれ、女子たちが待っていた。パチパチと火の音が聞こえ、炭の香りがうっすらとしていた。
各班の男子たちが買ってきた魚介をテーブルに広げる。一際大きな歓声が上がったのはオレの班。
「え!なんか全部美味しそうじゃん!ツヤツヤだよこれとか。」
「誰選んだのこれ?うわ、このホタテ大きい!あ、ホッキ貝にハマグリ!私食べたかったんだ!」
女子たちが喜んでいるなか、ドヤ顔のオレを男子3人達が改めて紹介。
「ここの碇雅也くんが全て選んでくれました〜」
「さっすが、雅也くん。これはバーベキュー大成功間違いなしだね!」
グっと、親指を立てて手をこちらに突き出す岸本を見て、10年以上頻繁に港に通ったオレの功績を自分自身で称えた。
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