第4話 神な部活 発見

――女子高巡りジョグ、これは…最高だ。


部活の仮入部期間が始まった。俺は陸上部の練習に顔を出している。

中学ではバスケ部に所属していて、体力には自信があったからだ。

元はバスケ部に入るつもりだったが、昨日見に行ったバスケ部の練習で、ボール2つを器用に操ってドリブルをする練習を見た。


―――あ〜、うん。


オレの舞台じゃないことを悟った。諦めが早いとは思うが、ハンドリング(ドリブルなどボールを操る能力)はダメなのだ。


ちなみにこの陸上部、集合場所は広いグラウンドの端っこ。他の運動部に追いやられたようなポジションだ。

時々練習を侵略してくるサッカーボールや野球ボールを作り笑いで返してあげなくてはいけない。


良いところと言えば、集合場所にある薄いピンク色に染まった桜の大木が満開になっていたことだ。

5本も並んでいて、お花見できそう。


「ペース速かったら言ってね〜」

仮入部早々オレは何故か男8人で春の花が咲く川沿いを走らされている。

先輩2人に1年生6人。先輩は優しく声かけをしている。

中学の時は3kmを10分切るほどのタイムで走れたし、駅伝のAチームメンバーにも選ばれた。とはいえ、半年以上走ってもいない人にとってはただの苦行だ。


道の脇に並ぶ桜の木から吹いてきた花びらが口の中に3枚ほど入った。

走っていて粘り気が強くなった唾液と、少し酸味のある花びらが口で混ざり気持ち悪い。しかし、野球選手がよくやるような、唾をペッと吐く様子が苦手だ。しょうがないので飲み込む。


軽快に走る先輩のペースがとてつもなく速く感じる。


ハアッ!ハアッ!と大袈裟に息を荒くしてペースを下げてやりたいところだが、全員平気な顔して走っている。さすがに出来ない。すると先輩から、


「碇、くん?だっけ、ちょっとキツイかな?」


先輩さんまさかオレのこれからの愚行見越してます?


「え?オレの心読めるんですか?」

「あ…いや、なんか悶々とした顔してるから」

「い、いえ!ちょっと考え事を」

こう言うしかない。


「そっか、やっぱり初回からこんな走るだけじゃ辛いよね〜、やる気出すのに特別コース行こっか!」


待ってくれ、体育系の【特別】なんて鬼畜コースに決まってる。普通でいいです普通で!


いつの間にか、川沿いや湖沿いの桜並木の道から市街地に入っていた。

街の中走ってるオレ、なんかカッコイイ。テレビで見たことのある、正月三箇日の駅伝の人ってカッコイイことしてるんだな。

百貨店や中くらいのビルの並ぶ大通りを8人で駆け抜けてゆく。


市街地の中心部から少し逸れた。


気のせいかもしれないが、視界に女子が増えた気がする。


「ここが小成女子高だよ〜」

あ〜。同級生何人か行ってたな。ブレザー可愛いなぁ。


「ここが常葉女子高だよ〜」

ふーん。あ、あの子可愛い。


「ここが三ノ丸二高だよ〜」

おぉ!グラウンドに居るのみんな女子…眼福………。なんだろ、こんなとこばっか回ってないか?


どうしてだか知らないが体力がどんどん回復してる気がする。


「どう?これが三ノ丸一高陸部伝統女子高巡りコース!疲れてるはずが体力回復して、距離も積めるから最高のジョグなんだよ!」


別の先輩も、

「こうやって時々このコース走ってる姿見せつけることで、女子高の生徒と付き合った人たちたくさんいるんだよね〜」


――先輩…大好き。


確かに下校中の女子高生徒から、わぁ〜はやーい!碇くんカッコイイなぁ、なんて声が聞こえた気がする。

あ、名前知られてないのに聞こえるはずないわ。


そして、わざわざ女子高生の脇を通る時に先輩が率先してスピードを上げてイキるあたり、余計愛着が湧く。


―――やはり男はみんなバカだ。


三ノ丸一高のお隣にある女子高、三ノ丸三高のある坂を駆け上がって一高に帰還。

グラウンド前の坂まで来ると、全体を見下ろせた。

夕焼けの時間も過ぎ、グラウンドのナイター照明が灯され、部活に励む生徒たちの姿が濃く浮かび上がって見えた。


走った距離は10km以上。元々走るはずのコース7kmより明らかに特別コースの方が距離は長い。それでも、一高に戻った時は1つも疲れを感じなかった。


翌日、女子高コースでジョギングやってれば彼女ができるという先輩の発言を信じて陸上部に入ることを決意し、入部届けを貰いに行った。


―――オレも男だ、バカである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る