第20話-酒の香りと手がかりの気配
重い木製の扉を開くと、酒の匂いと威勢の良い笑い声に出迎えられる。
昼間も酒類を提供していたが、夜は客層も異なるのだろう。店内は大人の社交場と化していた。
「お昼とだいぶ雰囲気違いますね……。ヨゼさん、どうしますか?」
「軽く聞き込みをしてみようか。福田さんがここで喧嘩したということは、彼を知る人物がいるかもしれない」
そう言い、ヨゼはカウンター席に着くと昼間喧嘩を諫めていた
「警察ですが。少々お話よろしいでしょうか」
「ん? ああ、昼間に来てた警官さんか。なんのようだい」
「覚えていてくださったようで恐縮です。あの時、店内で派手な喧嘩があったでしょう。その時先に手を上げた人物……フーゴさんについて知っていることがあれば、教えていただけませんか」
そう言うと、
「フーゴは腐っても店の常連なんでね。あいつが不利になるようなことはしたくねぇんだ」
「いえ。検挙するための調査ではありません。ただ、彼の近辺について少々気になる点がありまして」
「……そりゃ、フーゴの嫁さんの失踪と関係があるんで?」
ヨゼの長いまつ毛がぴくりと動く。その返しは予想していなかった。
動揺する祈吏を横に、ヨゼは毅然とした態度で頷く。
「ええ。そうです。できればご本人だけでなく、近隣の方からの印象も伺いたく」
その時、ドォン!とビールジョッキを勢いよく卓に叩きつける音が響いた。
「あいつの嫁さんは夜警とデキて駆け落ちしたんだよ!」
カウンターの横で飲んでいた男がそう叫んだ。
顔は赤らんでいるが酷く酔っている様子はなく、下卑た笑みでヨゼを睨む。
(あれ、この人。お昼にフーゴさんに殴られてた人だ)
「おい、ジョン。これ以上騒ぎを起こせば出禁にするって言っただろう」
「別に喧嘩しちゃいねーだろうが!あいつはなあ、夜警に嫁さん寝取られて逃げられたんだよ!」
「ほう。そうですか。その他に貴方が知っていることはありますか?」
ヨゼの今までの言動から『フーゴの情報は高く売れる』と足元を見たのか、ジョンと呼ばれた男は
「ただで教えるわけにはいかねぇなあ。ん、警官さんよ」
「ジョン。いい加減にしろ!揉め事起こしてこっちがしょっ引かれたらどうすんだ」
横で祈吏は冷や汗を浮かべてハラハラと立ち尽くした。
(ヨゼさんだから何か策はあると思うんだけど、自分はどうしたらいいんだろう……)
そんな中――ワッ、と店の中心で歓声が上がった。
カウンター席にいたヨゼたちは、何事かとその方向へ振り返る。
「ああ、丁度いい。
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