第16話-虹色の瞳の警官


「はい、大丈夫です。けど、あの……たぶんヨゼさん、ですよね」

「やっぱり、祈吏くんは恐ろしく察しがいいね」


帽子を上げ、そう微笑む表情はヨゼによく似ていて。

金髪の緩やかな癖っ毛、白い肌。骨格は男性そのものだが、特徴的な虹色の瞳はヨゼと同じものを持っている。


そんな2人の周囲はパレードを観に来た人々で溢れかえっており、何がどうしたのか話し込むには些かそぐわなかった。


「……ここは賑やかだから、少し歩こうか」


――街道沿いから離れ、パレードを眺める民衆を横目に、改めてヨゼと祈吏は対面した。

「祈吏くん、夢前世の中はいかがかな」

「なんだか、現実とほぼ区別がつかないレベルです。でも、どうしてヨゼさんは現実とそんなに見た目が違うんですか?」


警官の黒い制服に外套、目深に被った帽子。そして何よりもそれらを身にまとうヨゼは青年の姿をしている。


「夢前世の中ではその世にふさわしい姿になる。己の魂が共鳴してね」

「なるほど……だから前世がない自分は、姿が変わらないんですね」


ヨゼは容姿も声も異なるが、祈吏の姿は髪の長さから何もかも変わらない。

夢の中ならどうせならもっと身長が高くなってみたかった、と思いながらヨゼの姿をちらりと見る。


「そう。だから『前世がある』と厄介なのさ」

「魂に刻み込まれた前世の記憶が蘇り――夢前世の中で現実の自分を忘れてしまう」

「だから前世がない祈吏くんは、いま正気でいられるんだよ」


ヨゼは祈吏を真っすぐ見て微笑む。

そういえば、夢前世の中でヨゼは目を開いているが、視力があるのだろうか。

だがそれは聞くまでもなく、立ち振る舞いから目が見えているのは明らかだった。


「祈吏くん、この時代のドレスとても似合っているよ」

「え!?あ、ありがとうございます。 ……その、やっぱり目見えてるんですね」

「夢の中だからね。 だけど現実でも、君の透明な魂は感じていたから。初めて会った気はしないな」


そう言い、ヨゼは周囲を見渡した。


「福田さんの前世はどうやら19世紀末の中央ヨーロッパ……プラハのようだね。時空もほぼ同じくらいだ」

「そして、今日は国王陛下の生誕祭らしい。警備ががちがちで、ここまで抜けてくるのが大変だったよ」

「警備、ですか。そういえばヨゼさん。その制服って警察のものですよね?」


祈吏はこの時代では至って一般的な服装なのに、何故ヨゼは『役割がある』服装なのか。

それは年齢や視力だけではなく、疑問に感じたうちのひとつだった。


「僕は特別でね。夢前世の登場人物になれるのさ」

「登場人物……つまり、その世界で戸籍を持ってるってことですか?」

「あっはっは!簡単に言えばそう。だけど祈吏くんはこの世界に戸籍はないよ」

「そ、そうなんですね。でも確かにこの世界で役割を持ったとしても、上手く立ち回れる自信がないので、ちょっと安心しました」

「何も気を張ることはないよ。困ったことがあれば僕を頼ってね」


(でも、ここまで現実的だと感覚もちゃんとあるのかな。ちょっとほっぺ抓ってみよう)


「さて、それじゃあ福田さんを探そうか――……って、何してるの、祈吏くん」


「さっき男性とぶつかった時、痛かったからもしかしたらと思ったのですが。やっぱり痛いですね……」

「感覚もリアルにあるからね」

「もしかして、五感全部リアルに感じるタイプの夢ですか?」

「そうだよ。寝ている身体には影響はないけど、入る前に言ったが死ぬようなことだけは――ちょっと、どこ行くんだい!?」


祈吏はヨゼの手を引き、きょろきょろしながらずんずん人込みを進んでいく。

その様子は今までとは打って変わって軽やかで、頼りになる背中だった。


「ひとまず、腹ごしらえしましょう!!」

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