2話 出会い

 倒れこんで来た少女を咄嗟に抱き留めそっと地面に身体を横たえた。

ここは特に異常種が出る事も滅多にない平和な森の筈なのに目の前には助けを求めて倒れている人がいて、ぼくはいつも通りの日常をいつも通りにして、今日も一日が終わったと疲れたら布団に入り寝るだけだった筈なのに今日は厄日なのかもしれない……と、そう思いつつ倒れた少女の様態を確認する。

唇の色を見る限り血液内の酸素が足りないのだろうか?

呼吸は浅く不規則であり現状見える範囲でも危険な事が分かる、取り合えず今できる事は本人が意識を失わないように声掛けしつつ対応を考える事だろうか……


「大丈夫ですか?ここが何処か分かりますか?」


 声をかけつつローブの袖口から診察用の眼鏡を取り出して顔にかけると少女の身体を診察する。

これは治癒術に扱う道具の一つでこれを付けることで患者の体内の状態が分かるようになる特殊な鑑定魔法が付与された魔導具の一つであり、勿論通常の鑑定も出来る優れた道具ではあるけれど誰が作ったのかは今は語らず割愛しようと思う。

見る限りでは体内に異常はないので何らかの毒が体に入っているわけでは無いのが分かるので取り合えずは安心できる。

けれどこの症状は何なのだろうか、この呼吸の不規則さ何かがあるのかもしれない、だけどぼくの今の手持ちにある道具ではこれ以上調べる事は出来ない以上、何とかこの少女を家まで運ぶしかないのだけれど患者を無理に動かすわけにもいかない。

取り合えず本人の意識を取り戻すのがこの場合が先決か、応急処置になるけれど治癒術で肺の動きを制御して体内に充分な酸素が入るように処置をしないと……そう思い必要な処置の準備に取り掛かろうとした時だった。

少女が息を深く吐いた後、呼吸が徐々に落ち着いていく、そして勢いよくぼくの手を掴み起き上がり……


「人の気配がする?…人だっ!人がいる!」


 先程の症状一体なんだったのか?意味がわからないあんなに苦しそうにしていたのに急にこんなにも元気に起き上がりぼくの手をぶんぶんと上下に振ってくる。


「な、なんで?さっきあんなに苦しそうだったのに?、とっとりあえず落ち着いてください!」

「うるせぇこちとら、気付いたら山で迷って食うものもねぇせぇで、飯も食えてねぇし腹減ってんだ!何か食わせろ!」


 何だこの人本当になんなんだ?

でもまぁ……元気なのは良い事なんだろうけどもこれはどうすればいいんだろうか。

食べ物と言っても手持ちには無いし、どうすれないいのかな……今は元気そうだけれどこれが一時的な興奮から来る症状で感覚が麻痺している場合だったらこの人が落ち付いた後再び倒れてしまうかもしれないしそうなってしまった場合を考えると取り合えず家に連れていってしっかりと診察する必要があるだろう。

その為にまずは家に連れて行ってご飯を食べさせてあげることを約束した方がよさげだと思うので提案する事にする。


「落ち着いてください!わかりました、ぼくの家が近くにあるのでご飯を食べさせてあげますから!だから手を離してください!」


 腕が痛くなって来て思わず声を荒らげてしまったけれど、ぼくの声が届いたのか激しく振られて手がやっと止まる。


「………おっ?飯食わせてくれんのか?お前いい奴じゃん!付いていくからさっさとつれていけよ!どっちいけばいい?あっちか?あっちからお前の匂いがするからあっちだよな!」


 ご飯と聞いた瞬間に目を大きく開くとぼくに鼻を近づかせて匂いを嗅いだと思うと、顔を勢いよくぼくが通ってきた道に向けて走り出そうとする。

この人は犬か何かなのだろうか……?

取り合えず止めないと……場所はあってるけど止めないとぼくの身が危ない、ただでさえ腕が痛いのにこのままだと勢いよく引きずられる気がする。


「え?ちょっとまって!確かにそっちの方向だけどって止まってください!お願いですからちゃんと話を聞いて!」

「うるせぇっ!善は急げって言葉があんの知らねぇのかよてめぇはよっ!俺は腹減ってんだから待たせんな!さっさといくぞ!」

「あっ、痛いから引っ張らないで!ちゃんと案内するから!」


 そう彼女はまくしたてるとぼくの手を掴んだまま引きずるように走りだして行った。

本当に何なんだろうこの人は……、突然立ち上がったと思ったら人の話を聞かないしお腹が空いたと騒いで一方的に突っ走って行く、ぼくは平穏で落ち着いた生活が好きなのに、いつもの日常がこの謎の少女に森で出会ってから崩れてしまった。


……ただ言える事は、この出会いのおかげで今迄止まっていたぼくの時間は動き出した。

……でもこの出会い方のおかげでぼくからしたら、この少女の印象は最悪だったという事だろうね。

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