第36話 動き出す悪意
滅び山からさらに北に進むと、猛毒の沼地という場所に行き着く。
ゴブリンロード……狡猾な小鬼カークルが支配している土地で、腐った植物と奇怪な生物が生息する緑がかった濁った水が広がる。空気中には毒素が漂い、長くいることは命を危険にさらす。沼の底には、時折奇妙な光を放つ植物が見えるが、それに触れることは決してできない。ここでは、カークルが従えるゴブリンたちが陰湿に動き回り、来訪者を狙って罠を仕掛けている。
そして、さらにそこから北に進むと串刺しの森という場所に行き着く。
オークロード……獰猛なる猛獣ルグナスが支配している土地で、恐怖に満ちた巨大な木々が立ち並び、薄暗い森の中には生け贄のように吊るされた獣の骨が見える。不可解な現象が頻繁に起こり、訪れた者は姿を消すことが多い。ルグナスの支配下にあるこの森では、オークたちが集団を成し、血に飢えた狩りを行っている。森の奥には、彼らの巣穴が隠れており、暗闇の中で彼らが待ち構えている。
そして、その上空に魔王バルバロイが住む魔王城がそんざいしている。魔王城は、魔力に満ちた暗黒の高塔として、墜落した星のかけらを利用して建てられたと言われている。城の壁は黒い石でできており、周囲には魔法のバリアが張られている。城の内部は狭く、大きなスライドドアや罠が仕掛けられており、訪れる者は警戒をしなければならない。
「行けカラス共よ!兆しじゃ!全魔族共に伝えよ!魔王様復活の時は近いぞ!ゲヒャゲヒャゲヒャ!」
ボロボロのフード付きの黒いローブを着こんだ1つ目の化物がそう叫ぶと、魔王城から大量のカラスが解き放たれる。
それからしばらくすると、全身を黒いマントで覆い、杖を携えたゴブリン……カークルが魔法陣から現れる。
「わしが一番乗りか。やれやれ。」
次にドクロのアクセサリーを首に巻き、巨大な大斧を背負い黒い鎧を装備したオーク……ルグナスが魔法陣から現れる。
「何の用だフリーゲン!つまらぬことで呼び出したのなら、その首、へし折ってやるぞ!」
「狂乱の吸血鬼……マリーが見当たらぬようだが?」
「マリー、ですって?」
それは音もなく、フリーゲンの後ろに現れた。
「マ、マリー!?……いつも言っておるであろう!気配を消してわしの背後に立つなと!」
「ふふふ。エキドナの弟子の分際で、よくほざいたわねフリーゲン!たかだか数百年生きた分際でこの私と肩を並べられると思っているのかしら?」
マリーは長い銀髪を揺らしながら、フリーゲンの肩にその手をそっと置いた。見れば彼女の表情には親しみが感じられ、その触れ方も優雅である。しかし、その手の中には不気味な遊び心が隠されていた。
「ぐっ!?ぐおっ!?肩がちぎれ!?……マ、マリー殿!お戯れが過ぎますぞ!?」
フリーゲンは痛みと戸惑いで目を大きく見開いた。だが、マリーはその驚きに無関心のように、笑みを浮かべ続けていた。
その時、どこからともなく殺意と悪意に満ちた声が部屋に響く。
『やめよ……マリー。』
「これはこれは……あなた様の声を聞くのは何百年ぶりでございましょうか魔王バルバロイ様。」
そう言ってマリーはフリーゲンの肩から手を放す。
「ぐっ!?……ハァ!ハァ!」
『時は来た。我が肉体の鼓動を感じたぞ!』
その声は空気を震わせ、冷たい風が一瞬周囲を包み込む。マリーやルグナスは、何も見えない空間に向かって圧倒的な存在感を感じ取った。まるで、彼らの背後に巨大な影が潜んでいるかのようであった。
「それはまことでございますか?」
カークルが声を上げ、興味と期待を込めた表情を浮かべる。彼の言葉には、魔王の復活への期待がにじんでいた。
「第二次聖魔大戦以来……ですかな?」
ルグナスが不安げに続ける。
『そうだ。あの忌々しい戦いがなければ、我の肉体はあの水晶玉に封印されることもなかった!』
バルバロイの声には、怒りと復讐心が宿っていた。
『アダムとイヴめ!奴らは我が不死身の肉体と魂を引き剥がし、我をこのような存在にしてしまったのだ!』
彼の言葉は耳を撫でるように響き、他の者たちは言葉を失った。冷たい風が再び吹き抜け、周囲の魔法陣がゆらりと光を放つ。一瞬の静寂の後、彼らはこの存在がもたらす恐ろしさを、肌で感じ取るのであった。
「心中お察し致します我が主よ。して、我らは何をすればよろしいでしょうか。なんなりとお申し付けください。」
「ぬぅ……」
ルグナスはカークルの媚びた口調に苛立ちを隠せないでいた。
(魔王様に媚びへつらうことしか出来ぬ無能めが!いや、バルバロイ様もバルバロイ様だ。俺を……俺たちを舐めている!誰のお陰で魔王軍が支えられていると思っている!?そう……俺たちだ!俺たちオークが前線で血を流して戦っているからこそ、今の現状を維持出来ているのだ!感謝が足りぬのではないか!?今一度わからせる必要がある!こいつらに……魔王に!)
『視野をもっと広げねばならぬ。一刻も早く我が肉体を封印せし水晶を見つけるのだ!我が復活した暁にはミカエルを倒し、この世界を我が手で支配するのだ!このユートピアを闇で覆い尽くしてくれる!吉報を待つぞ?我がしもべたちよ!』
そう言ってバルバロイの気配は消えた。
マリーは神妙な顔でふぅっと小さいため息を吐くとフリーゲンに聞く。
「で?ある程度の目星はついているのよね?まさか、何もわからなかったとは言わないわよね、フリーゲン?」
「い、いえ!それは……」
「わからぬというのか!?」
「この間抜け!何のために我々を呼んだのだ!?」
「で、ですから!バルバロイ様が言ってらっしゃったでしょう!?視野をもっと広げろと!そのためにあなた方を呼んだのです!今すぐスターター砦を襲撃しましょう!そうすれば、私たちの立場が強化され、魔王様の復活に向けて大きな一歩を踏み出すことができる!敵の動きも把握しやすくなるし、戦略の幅も広がるはずじゃ!私を信じてくれ皆の衆!」
「……呆れてものがいえん!俺は帰る!」
「私も失礼させてもらう。実にくだらん。」
「お、お待ちくだされルグナス殿!カークル殿!」
ルグナスとカークルが魔法陣の中へ消えていった。
「なら、私も失礼させてもらうわね。あとは貴女の好きになさい。」
「マリー殿!あなたもか!我々は一枚岩にならねばならぬのですぞ!?」
「フフフ……認めて欲しければ結果をだしなさい。エキドナすらも凌駕する結果をね。すべてはそこからよフリーゲン!あなたはまだ師を越えてはいない。」
そう言って、マリーはどこからともなく現れた蝙蝠たちと共に去って行った。
「ぐ、ぐぬぬぅ!どいつもこいつも馬鹿にしおって!誰がモンスターを……ゾンビやグール共を作ってやってると思っておる!?お前たちを守ってやっているのは私の軍団なのだぞ!?ふざけおって!……よかろう!ならば結果を出してやろうではないか!誰もが認める結果をな!私を舐めたことを後悔させてやるぞ!私はエキドナを越える新たな四魔将……死霊魔術師フリーゲンなり!」
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