第39話:ドラゴンになったけど…

「ムーナ!? なんでここに!?」

「つかまれ!!」

「え、わぁ!?」


 急降下している私に空を飛んでいるムーナが近づき全力でキャッチ。

 どうしてムーナが!?

 腕の中で困惑する私に、やれやれといった表情を浮かべるムーナ。


「な、何で元気なの?」

「あの姉妹がエリクサーを持っていてな、そのおかげで完全回復したという訳じゃ」

「エ、エリクサー!? 国宝レベルの回復アイテムだよ!?」


 エリクサーとは体力だけでなく魔力も即時回復させるチートアイテム。

 国に一つあるか無いかと言われている貴重な物で、普段は国庫に保管されている筈なのに……どうやって手に入れた?


「まあ元気になったのは事実!! やるぞショコラ!!」

「う、うん!!」


 ややスッキリしない気持ちで私達は目の前のドラゴンに向き直る。

 ちなみに後で聞いた話だが……


『エリクサーですか? パーシバルの国庫から盗みました!!』

『偉い人達みんな殺されてるので、全部アクトのせいに出来ますし!!』


 姉妹ちゃん達がこっそり盗み出したらしい。あの時はファインプレーだったけどやってる事やばいね。


「はっ!! 二人に増えた所で私に勝てるとでも!? ヘルフレイム!!」


 口から吐き出された闇の炎が、私達に襲いかかる。

 だが流石はムーナ。攻撃を難なくかわすと、自身の右腕に魔力を込めて反撃の体制を取る。


「ヘルフレイムのお返しじゃ!!」

「ぐぅううう!?」


 右腕から放出された闇の炎がドラゴンの身体を覆い尽くす。

 炎に襲われたドラゴンはもがき苦しむも、羽をバタつかせて身体に取り付いた炎をなんとか払った。


「そんなにわか仕込みのまがい物で、本家本元に叶うと思ったか!! この阿呆め!!」

「ちぃ……!! だが魔法だけだと思うなぁ!!」


 魔法ではなく今度は近接戦闘に持ち込んでくる。

 急接近したドラゴンが私の身体以上にある爪をギラリと光らせ、そのまま私達の方へと振り下ろした。


「はぁ!!」

「なっ!? ド、ドラゴンの攻撃すら受け止めるか!?」

「怪力聖女舐めたらダメだよっ!!」

「わわ!!」


 だけど私には通じない。

 盾を構えて防御の姿勢を取ると、ドラゴンの爪をあっさりと受け止めてしまう。


「ホーリーメイス!!」

「グギャア!!」


 今度はわたしのお返し。

 聖魔法を込めたメイスでドラゴンの頭を思いっきり叩きつけた。


「ぐ、ぐぅ……!!」

「身体がでかいから攻撃が当てやすくていいねぇ」

「このまま一気にケリをつけるぞ!!」

「うんっ!!」


 先程は人間サイズで素早かったから攻撃が当てづらかった。

 しかし、今はとんでもなくデカいドラゴン……的としてはあまりにもデカすぎた。


「テンペストォ!!」

「グアアアア!!」

「ホーリーインパクト!!」

「グボォ!!」

「ダークネススラッシュ!!」 

「ギャバア!!」

「セイントブロー!!」

「グビアアアアアア!!」


 持てる全ての技でドラゴンをボッコボコにしていく。

 能力が上がっているとはいえ私達の火力でゴリ押せるし、むしろいっぱい当たる分こちらが有利だったりする。

 当たれば最強なんだ、私達は。


「はぁ……はぁ……おのれええええ!!」

「チェーンロッド!!」

「がっ!? く、口が!!」

「地面に落ちろおおおおおお!!」

「うわああああああああああ!!」


 更に有利な状況へ追い込むべく、ドラゴンの口にチェーンをひっかけ、地面に向けてぶん回す。

 ドラゴンの巨体が赤子のように動き回り、やがて急激に落下していった。


「な、何故だ!! 我々に付けば幹部も夢ではないというのに!!」

「そんなの決まってるでしょ……」


 地面に降り立った後、すぅっと息を吐いて思いの言葉を叫ぶ。


「ムーナが隣にいない世界なんて、ぜっっっったい嫌だから!!」


 少しの間とはいえムーナを私から引き剥がすなんて、

 許さない!!


「ショコラ……お主」

「メイスよ……もっと大きくなれ!!」

「な、何を!!」


 杖先のメイスに魔力を込めると、徐々にサイズが大きくなっていく。

 やがてメイスがドラゴンと同じサイズになると、私はそれを思いっきり振り下ろした。


「くらえええええええ!!」

「させるかあああああ!!」


 ドラゴンもただではやられない。

 すかさず巨大火球を繰り出し、巨大メイスにぶつけて対抗してきたのだ。


「ぐっ!? か、火球が!!」

「ふはははは!! これがドラゴンの力だぁ!!」


 火球は更に巨大化していき、メイスを押し返していく。対して私はこれが精一杯、このままじゃ押し込まれる!! 


 やっと自信を持って戦えるようになったのに……


「全く、お主は相変わらず……」


 苦悶の表情を浮かべる私に、ムーナがふっと微笑みながら前に立つ。


「ムーナ?」

「そういう大胆な所……結構好きじゃよ」


 両手を掲げ、漆黒の魔力を集中させる。

 漆黒の魔力はやがて巨大な黒炎へと成長し、ムーナが振り下ろすとその黒炎は巨大火球へと突っ込んでいった。


「デスフレイム!!」

 

 ドス黒い炎が巨大火球に激突し、徐々に力を奪い去っていく。

 火球の力が奪われた事でメイスの力が勝り始め、ドラゴンの方へと近づいた。

 

「はああああああああっ!!」

「あああああああああ!!」


 弱っていく火球をメイスが押し始め、激しい轟音と共に叩き潰した。


 ドガシャアアアアアアアン!!


「はぁ……はぁ……」

「ば、かな……」


 メイスに押しつぶされたドラゴンは人間の姿に戻り、地ををはいつくばっている。

 あれだけ余裕を見せていたエージェントが今ではボロボロ、酷い有様だ。


「ここで終わるわけには……まだ、逃げればっ!?」

「逃がしませんよ……?」

「ステラ!!」


 逃げようとした所をステラのトラップが捕まえた。ツタが全身に絡みつき、もがけばもがくほど絡まって動けなくなる。


「がっ……ち、力が……!!」

「それは魔力を吸うツタ。もうあなたは身動き一つとれませんよ……ということで」


 ステラと一緒に現れたエメラル。

 そしてムーナも一緒にエージェントへ近づき

 

「「「殴らせろ」」」

 

 ボカボカボカボカボカァ!!


 三人は思う存分ボコボコにした。

 恨みいっぱいに込められた攻撃は何度も行われ、エージェントが完全に気絶するまで続くのだった。


 自業自得だ、ばーか。

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