第28話:リコットの強さとは

「さっきは良い攻撃じゃったぞ」

「はは、ありがと……!!」


 アクト戦闘員に囲まれる。

 電撃のようなものを剣からビリビリと放出させ、私達の方へと突き立てる彼ら。


「おっと!!」 

「ふっ!!」

 

 そして同時に剣を振ってきたので、私達はかわしたり盾で防いだりしていたのだが……


「あばばばば!?」


 剣が盾に触れた瞬間、全身に電流が流れビリビリとした痛みが私を襲った。


「ヒ、ヒール……」

「相手は電気じゃぞ!? 鉄の盾で防いでどうする!!」

「これ鉄だったんだ……完全に油断してたぁ……」


 すぐにヒールをかけて体勢を立て直す。

 リコットの言った通り彼らは厄介だし魔法だってそれなりの威力がある。


「もしかして全員同じ魔法?」

「量産型とか言っておったからな……力の代償に同じような能力になったのかもしれぬ」


 だが、皆同じような動きだしオーラもどこか似ている。数というのは恐ろしいもので物量で押し切れる場面があるのもまた事実。

 なので……


「まずは周りのヤツらから!!」

「じゃな!!」


 リコットに集中出来るようさっさと倒してしまおう!!


「はぁ!! ぜぁ!!」

「ぐっ!!」

「がはっ……!!」


 拳を奮って戦闘員を一人一人ぶっ飛ばす。確かに動きはしっかりしているし、戦い慣れている感じもある。

 ただこっちは下層のモンスターやダンジョンのヌシと戦い続けたんだ。

 オマケに多人数戦なら城で暴れた時に慣れているし!!


「うわああああああ!?」

「ほれほれ!! 張合いがないのう!!」


 私の後ろでムーナが戦闘員を燃やし尽くす。

 

「こ、こいつら強いぞ!!」

「バケモノか!?」

「へぇ……」


 恐れおののく戦闘員と暴れ回る私達をじっくり観察するリコット。

 はいはい、自分は高みの見物ですか。

 さっさと片付けるからそこでゆっくりしてて!!


「「せやあああああああっ!!」」


 気づけば戦闘員のほとんどが倒れ、残されたのは勇者リコットだけとなった。


「やるねぇ。ま、大多数は他の連中の確保に向かっているし仕方ない」

「あ、そうだったんだ」

「まあステラとエメラルなら大丈夫じゃろう。あやつら相当強いし」

「だね」


 トラップと高速戦闘で無双する姿が容易に想像出来てしまう。

 あの二人なら問題なさそうだね。


「お仲間さんの心配をしてて良いのかい? カオスウェーブ!!」

「っ!! ムーナ!! 私の後ろに!!」


 魔力の大波が私達へと押し寄せる。

 それを見て私は身を縮ませて大盾を構え、大波になるべく当たらないよう防御を行った。


「ふんっ!!」

 

 波が辺りの地面や建物を破壊し尽くす。

 唯一の安全地帯は私の盾の後ろだけ。


「はぁ……ってやばぁ!?」


 波が収まった時、私達のいた地面だけが妙に浮き上がっており、辺りが更地と化していた。


「ふふふ、これが新たな力だよっ!!」

「くっ!!」


 いつの間にかリコットに距離を詰められており、すかさず剣で突いてくる。

 それを杖で叩き落とすように防ぎ、お返しに蹴りを入れたのだが


「はっ!!」


 蹴りは宙を舞っただけでリコットに当たる事はなかった。

 クルクルと機敏な動きで飛び回り、私から再び距離を取るリコット。


「ヘルフレイム!!」


 動いている隙を見てムーナの魔法が放たれる。


「甘いねぇ!!」

「なっ……!!」


 だがその攻撃もリコットには届かない。

 例の剣がムーナの炎を真っ二つに叩き割ったのだ。


「ほーら、お返しだよ!!」


 振り下ろした剣を勢いよく上げ、再び斬撃波を私達の方へと飛ばす。


「え!? なんか増えたんだけど!?」


 しかも斬撃波が途中で3つに増えて襲いかかってきた。


「うわっ!?」

「ぐぅ!!」


 突然の攻撃にまともな防御も取れずモロに食らってしまい、後ろに吹き飛ばされる。


「か、回復……」


 とりあえずお互いにヒールで立て直す。

 ただ面倒だ。次から次へと多彩な攻撃をされるせいで、対処がかなり困難になっている。まるで複数人の手練と同時に戦っているようだ。


「あの剣、なかなか厄介じゃな……」

「というか剣が本体かもね……」

「ムカつく事を言うじゃないか……その口黙らせてあげるよ!!」


 再び私達の方へと迫り来るリコット。


「……」


 リコットは万能タイプだ。

 攻撃、防御、身のこなし、魔法……なんでもこなせる。

 勇者のギフトを授かっただけあって、汎用性では彼女に勝るものはそうそういないだろう。

 

「ほらっ!!」

 

 再び盾で剣を受け止める。

 だけどね、汎用性の塊っていうのは言い方を変えれば……器用貧乏って言うんだよ?


「同じ手は……っ!!」

「なっ!? 盾を!?」

 

 剣を防いだ後、すかさず盾をリコットの方へと投げた。

 この盾はかなり重い……らしい。

 私を抱えて飛べるムーナでも少し支えるのがやっとな程だ。

 

「ぐぅ!? なんて重さだい……!?」


 そんな盾が直撃したらどうなる?

 リコットは盾の重さに耐えきれなくなり、押しつぶされる形で地面に倒れた。


「隙ありっ!! ホーリーメイス!!」


 倒れる所を確認し、すぐさま彼女に接近して聖魔法を込めた重いメイスの一撃を振り下ろした。


「がっ……ご、は……」 


 盾の重さと共に響く、強い衝撃。

 あまりの威力にリコットは口から胃液を外にぶちまけた。


「お、のれ……!!」


 衝撃によって盾が動いた事でリコットに自由が与えられた。

 恐らくさっきと同じように距離を取り、何かしらの作戦を練る時間を稼ぐつもりだろう。


「逃がさないよっ!!」

「がっ……また!!」


 だがそんな事はさせない。

 再び距離を取らせない為に杖からチェーンを伸ばし拘束する。

 

「今度は外さんぞ……ヘルフレイム!!」

「がああああああ!!」


 動けない所を闇の業火がリコットを包み込んだ。

 炎がリコットの身体を焼き、あちこちにやけどを作る。


「うまくいったね」

「あぁ、二人相手には流石の勇者も太刀打ち出来んようじゃな」

「はぁ……はぁ……」


 状況はこちらが優勢。

 休む隙すら与えない攻撃の連続に流石のリコットも肩で息をするくらい疲労している。


「な……めるなぁ!!」

「「っ!?」」


 だがそんな状況にムカついたのか、リコットが注射器を取り出すと自らの首筋に謎の液体を注入した。


「今何をしたの!?」

「はは……普段から暴れると面倒だからね……けど流石に頭にきたよ」

「まさか前の盗賊のように……!!」

「はは……あんた達なら全力でも死なないって信じてるよっ……!!」


 そんな理不尽なお願いされてもねぇ!?

 やがてリコットの身体はどんどん肥大化していき、最終的にあの盗賊と同じような禍々しい姿へと変貌した。


「ウオアアアアアアアア!!」


 咆哮が周囲に響く。

 このピリピリした感じ……さっきのリコットとは全く違う!!


「フー……いいねぇ……」

「意識が……ある?」

「多少はね……ただ」


 剣を突き立てると、禍々しい魔力が刃へと集まる。

 やがて刃は黒く染まり、それ見たリコットがニヤリと笑うと


「あんた達を痛めつけたくて仕方ないよ」

「「っ!!」」


 目にも止まらぬ早さで私達へと近づき、横切りで腹を血に染めた。


「がっ……!!」

「ぐ、ううう……!!」

「どうだい? これがアクトの技術だ、素晴らしいだろう?」


 リコットが迫る瞬間、少しだけ身体をそらせたおかげで致命傷は避ける事ができた。

 だが重症には変わらず、私達は腹を抑えて痛みに苦しんでいた。


「ヒール……」

「助かる……」


 回復は出来る。だが傷が大きければ大きいほど治すのに時間がかかってしまう。

 ヒールによる半ゾンビ戦法も魔力と時間の問題なのだ。


「かなりやばいね……」

「じゃな……」


 リコットに本気で殺される。

 生け捕りなんて雰囲気を感じない彼女に少しだけ恐れを感じ、私達は緩みかけていた緊張を改めて引き締め直した。

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