第26話:誰が国王を殺したのか

「と、とりあえず物騒な話だし一回外に出ようか」

「あ、そうですね……」

「じゃな。ごちそうさま」


 会計を済ませた後、私達は近くの路地裏の方へと移動し、話の続きを始めた。


「で、国王が暗殺されたってどういう状況?」

「一体何を見たんじゃ?」

「えと……昨日、私達が情報収集の為にパーシバルを訪れた際、城そのものが破壊されていて」

「辺りには兵士の死体の山、そして国王の首が高く上げられ晒されていました」

「なんて悪趣味な……」

「これは何かあるな、と思い私達はこっそり城の中へと入った訳です」

「城の中……え? 入ったの!?」

「「情報屋ですから」」

「こっそりとはいえ大分危なっかしいのう……」


 情報にかける情熱が凄まじい。

 いや、生活がかかってるから当たり前と言えば当たり前だけどね?

 ただ、捕まっていた過去があるので心配しただけだ。


「中では兵士に変わって、蜘蛛の巣がデザインされたマスクを被る黒ずくめの集団がウロウロしてました」

「蜘蛛の巣?」

「はい。恐らく組織の下っ端達かと。時々会話でアクトがどうのこうのーって言ってましたし」

「ガバガバすぎる……」


 大賢者スライムですら名前しか把握できなかった情報をこうもあっさりと……アクトさん油断し過ぎでは?

 なんて余裕を持って話を聞いていた時、


「で、それらをかいくぐって私達が見たのは……」

「黒いコートに身を包んだ女性と、勇者リコットが話している姿でした……」

「え……」


 私にとっては国王の暗殺以上に衝撃的な事実を告げられた。


「嘘……でしょ」


 リコットの名前を聞いた瞬間、私の心はドクンと嫌な跳ね方をした。

 嫌な汗がバッと吹き出し、思わず手を強く握りしめてしまう。


「リコット……本当にリコットなの?」

「えぇ、以前からパーシバルでは有名なお方なので顔は何度も見ています。間違いはないかと……」

「ってお姉様、もしかして勇者リコットとお知り合いなのですか?」

「知り合いも何も、少し前までリコットと一緒にダンジョンに潜ってたから……」

「「え!?」」


 私の告げた事実に驚く二人。

 そういえば私が元勇者パーティだと知っているのはムーナだけだ。

 伝えなかったというより、伝えるタイミングがなかっただけだが。


「ただ扱いは散々だったけどね。こき使われた挙句、ダンジョンの下層に突き落とされたんだから」

「あ、そういえば勇者パーティで一人亡くなった方がいるとウワサで……」

「それがお姉様?」

「多分、ね」

「「な、なるほど……」」


 リコットめ、やはり事故として私の事を処理したんだな。

 相変わらず私の事が嫌いで嫌いで仕方ないみたいだ。


「それでお主がわらわが封印されている所に来て……」

「拳で解呪したワケだね」

「ああー!! そこでお二人は出会ったんですね!!」

「運命感じます!!」

「そ、そう?」


 運命、なのかなぁ?

 確かに出会いは偶然だったけど、そこまでロマンチックなものではない。

 封印を解いた瞬間、事故とはいえ思いっきりムーナを殴り飛ばしたし。


「で、本題!! リコットが何で国王暗殺に関わってるんだろ? あんなのでも一応勇者としての使命は果たしてたハズだけど……」

「それがここ一週間で随分地位を落としたらしくて」

「城からも追い出され、冒険者カードも剥奪されてスラム生活を送っていたとか……」

「えぇ……」

「何故そこまで落ちたのじゃ……」

「依頼の達成率があまりにも低かったのと」

「素行不良すぎたのが原因ですね、最後なんてギルドマスターに殴りかかってたらしいですし」

「やっ……ばぁ……」


 ざまぁみろバーカとは思うけどさ。あんなんでも実力はそれなりにある方だと思ってたから、この落ちぶれっぷりには驚きだよ。

 

「で、落ちる所まで落ちた所でアクトにスカウトされた感じ?」

「恐らくは」

「ただ、妙なオーラを身にまとってたんですよねー」

「ふむ?」

「禍々しいというか、闇に溢れていたといいますか」

「あ!! 一週間くらい前に弓で打たれた盗賊みたいな感じでした!!」

「なるほど……恐らくその勇者とやらも同じ状態で間違いないじゃろう」


 あー……何となく想像出来てしまう。

 あのプライドの高いリコットの事だ。なりふり構わず力に溺れてしまったのだろう。


「ただ謎の女性の方は詳細があまり……」

「というか近づきすぎると気づかれそうで、急いで撤退したんですよね……」

「なるほど……二人ともありがとうね」

「「いえいえ!! お姉様のお役に立てたのなら!!」」


 とりあえずかなりの情報を入手できた。

 昨日起きた出来事、という事は近日中に近隣諸国にも影響が及ぶはず。

 警戒を怠らなければ。


「では、私達は城に情報を伝えに行くので!!」

「ガッポガポ……じゃなくてお役にたってきまーす!!」

「いってらっしゃーい」


 欲望を漏らしつつ、姉妹ちゃん達は急ぎ足で城へと向かった。


「……リコット、か」


 蘇る苦い思い出。

 パーティにいた時は彼女に全く頭が上がらなかった。立場も実力も何もかも劣っていると思っていたから。

 彼女と再び対面した時、私は上手く立ち回れるだろうか……

 不安で身体が震え、乱れた呼吸が徐々に増えていく。


「大丈夫じゃ、何とかなる」

「ムーナ……」

「勇者がどの程度の実力かは知らんが、お主も相当なもの、安心せい」

「ありがとう……」


 ムーナの言葉で少しだけ心が安らぐ。


「そうじゃな……カフェでは伝え損ねていたが」

「?」

「お主は自信を持て、多少はマシになったが、まだまだじゃ」

「ははは……そうだね」


 いつぞやの下層で言われた事だ。 

 私もだいぶ自信がついた方だと思っていたんだけどなー……かつての仲間に恐れを感じている辺りまだまだなのかもしれない。


「ねぇ……ムーナ」

「なんじゃ?」

「優しく……抱きしめさせて……」

「……わかった」


 照れながらもムーナは両腕を広げ、その懐に私は飛び込む。

 そして互いの腰に手を回した後、優しく抱きしめ合った。


「……落ち着いたか?」

「……うん、大分」

「そうか……ならよかった」


 ほんの少しの間ではあったが、私はムーナの温もりを感じていた。

 ただ、その温かさが私の不安を取り除き、互いの身体を離した時にはいつも通りの余裕を取り戻せた。


 大丈夫……近くにムーナがいてくれる。

 例えリコットと敵対したとしても、私は私のやれる事をするだけだ。


~~~


「これでいいのかい?」

「はい、完璧です」

「あ……が……」


 高貴な衣装に身を包んだ男が、首を掴まれ息苦しそうにしている。

 その様子をあざ笑いながら、卑劣な行為を続ける女性が二人いた。

 勇者リコットとエージェントと名乗る謎の存在だ。


「これで全員……案外チョロいもんだねぇ」

「ですが敵はパーシバルだけではありません。次の目標はデモニストですから」

「デモニスト? 魔族の国に何があるんだい?」

「魔王が二人、聖女と聖騎士がそれぞれ一人……偵察隊が確認しました」

「聖女、ねぇ……そいつらを殺せばいいのかい?」

「いえ、生け捕りでお願いします。彼女たちの才能は生かすべきなので」

「ふん、わかったよ……」


 少しめんどくさそうにその場を去る勇者リコット。


「ふふふ……これは思ってた以上に上手く行きそうですね……」

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