第19話:盗賊団を捕まえよう

「とりあえずこの辺かな?」

「モンスターを従わせて力を示すとは、なかなか良い脅し方を考えたではないか」

「えへへ、でしょー?」


 依頼を受け取った後、私達は近くの森にやって来た。

 屈強な盗賊団を生け捕りにするにはどうすればよいか? それは圧倒的な力を見せつける事で自分達の惨めさを認めさせる事。

 なので分かりやすい一例として強そうなモンスターを捕獲し、一緒に盗賊団のアジトへ引きずり出そうというワケ。


「しかし強いとはいえ中々おらんのう……」

「だねぇ……」


 一目で強い!! と思わせるようなモンスターに遭遇できない。

 やっぱり脅しに使うならデカいヤツに限る。だけど周りにいるのはせいぜい人型レベルの大きさだからなあ……ん?


 ゴゴゴゴ……


「地面が……」

「揺れてるのう?」


 私達の近くの地面が揺れ、ドガン! という割れた音と共に土煙が舞った時だった。


「グモオオオオオ!!」

「「あっ」」


 デモニストに来る途中に出会ったアイツと再会した。


〜〜〜


「オウオウオウッ!! 俺ら盗賊団デュバルに喧嘩売ろうってヤツはお前ら……ってなんだぁ!?」


 盗賊団のアジトがある集落に攻め入り、頭だと思わしきゴテゴテの目つきの悪い男が名乗りを上げた時だった。

 威勢よく飛び出したものの、目の前の光景を見ると目を丸くして立ち尽くしてしまう。


「デッドリーモグラ!? なんでアイツが!?」

「おいっ!! 上になんか乗ってるぞ!!」

「グモォ……」


 何故かビクビクしながら私達を乗せてのっしのっしと歩くデッドリーモグラ。

 脅しの材料はこいつにした。

 最初は私達を見るやいなや退散しようとしたが、あの手この手でボコボコにし、無理やり従わせる事に成功したのだ。


「よいか? あやつらみたいに横暴で残虐なイメージを植え付けられるよう振る舞え」

「出来るかなあ……そんなのやった事ないし」

「大丈夫じゃ、お主は自信を持てば良い」


 威圧の方法は色々教えて貰ったけどさぁ。

 私ってそういうキャラじゃないし……ええい、ノリと勢いでやるしかない!!


「愚かな盗賊団よ!! 悪い事は言わない、今すぐ投降しろ!!」

「この状況が目に入らぬか!! 貴様らがわらわ達に敵う可能性は微塵も存在せん!!」


 二人で声を張り上げ、盗賊団を威圧する。

 その姿に盗賊団達はざわめきだし、若干引き気味の体勢を取っている。

 これは案外いけるのでは? と余裕を持ったのも束の間。


「うろたえるんじゃねぇ!! 俺らデュバルの意地をみせねぇでどうするぅ!!」

「「「うおおおおおおお!!」」」

 

 そう上手くはいかないよねっ!!

 頭の掛け声で盗賊団の戦意が一気に上がり、各々武器を取り始めた。

 くうう……こうなったらプラン2だ!!

 これで上手くいかなかったら諦めよう!!


「おい、跪け」

「グモッ!?」

「何でそんなに動くのが遅いの? ねぇ?」

「グ、グモォ……」


 私がドスを聞かせて命令するとデッドリーモグラは大人しく従う。

 言う事は聞いたけど飴はあげない。ひたすら鞭を与え続けて、誰が強くてご主人様なのかを周りにはっきりと知らしめる。


「あ、あのデッドリーモグラが……」

「やっぱやべえんじゃ……」


 再びたじろぐ盗賊団。

 しかし、先程とは違い勇気のある者も中にはいた。


「い、いけぇスカイファルコン!!」


 盗賊団の一人が召喚獣を呼び出すと、鳥型のモンスターが私に向かって一直線に突撃した。

 なるほど、自分の手は汚さず召喚獣で実力を試そうという訳か。


「ピエッ!?」

「えいっ」


 だが、相手が悪い。

 私はスカイファルコンをわしづかみにすると力の限りグシャッと潰す。

 瞬間、肉体が弾け飛び、私に大量の血を浴びせた。


「「「……」」」


 説明も出来ないレベルで悲惨な光景を生み出し、場の空気が凍り付く。盗賊団は勿論だが、何故かムーナも半笑いで私の事を見ている。


「どうする? まだやる?」

「こ、降伏します……」


 ただ盗賊団達の戦意を削ぐには十分だったようで、彼らは大人しく私達の言う事に従ってくれた。


〜〜〜


「さーて、大人しく縄に捕まってね」

「はい……」


 盗賊団達を縄に縛りあげていく。

 全員青ざめた表情で私を見てたけど、そんなに怖かったのかな?


「お主……あんなえぐい事が出来たのじゃな……」

「え、ムーナも?」

「いや……なんでもない」


 ムーナも彼ら程ではないが、若干引いている。

 所々引っかかるけど……当初の目的は達成できたし良しとしよう。


「あ……」

「ん?」


 盗賊達の対処をしていると、建物の影から震え続ける二人の女性が現れた。

 きっと盗賊団に望まぬ事を強要されていたのだろう。心に負った傷というのは回復魔法でも癒す事は難しい。

 少しでも安心して貰う為に、彼女達に近づき頬にそっと手を添えると……


「「ありがとうございます!! お姉様っ!!」」

「っ!?」


 想像より遥かに元気で、しかも私には似つかわしくない言葉で返事をした。

 

「お、お姉様って……もしかして私の事?」

「勿論です!! 勇敢で凛々しいお姿にこれ以上相応しい言葉はありません!!」

「あの盗賊団に一歩も引かず、恐れすら感じさせない強さを示したお姉様を称えさせてください!!」

「は、はぁ……」


 瞳を輝かせ、尊敬の眼差しを私に向ける二人。

 これは……予想外の展開だ。

 

 生まれてから男女共に一度もモテた事がない私。

 回復魔法を使えば当たり前だと罵られ、拳を振るえば野蛮だと遠ざけられた。

 思いがけない春の訪れに、私は困惑せざるを得なかった。


「是非お礼をさせてください!!」

「私達、姉妹がオススメする料理店がありますので!!」

「えーと……この盗賊達を引き渡してからでもいい?」

「「勿論ですっ!!」」


 だけど、悪い気分じゃない。

 村を出てから好意というものを余り味わっていなかった私にとって、彼女達の存在は自己肯定感をかなり高めてくれる。

 しかも二人ともかなり可愛いし……!!

 可愛い子に囲まれて幸せになるのに男女は関係ない。そう実感した私は思わず口角を上げてしまい……


「……随分楽しそうじゃのう?」

「え!?」


 何故かめちゃくちゃ不機嫌なムーナから、殺気を込めた鋭い視線を向けられていた。


「可愛いおなご二人からちやほやされて、さぞ幸せじゃろうなぁ……!!」

「えと、何で怒ってるの……」

「別に怒ってなどおらん!!」

「えぇ……」


 絶対怒ってるじゃん。

 うーん……理由が分からない。

 盗賊達だってちゃんと捕獲しているし、こなすべき仕事はしている。

 姉妹ちゃん達との触れ合いもそこまで長くしていた訳じゃないのに……あ


「もしかして嫉妬してる?」

「っ!!」


 図星だ。今、身体をビクッとさせた。

 そっかぁ、ムーナが嫉妬かぁ。

 会って間もないのに、私を姉妹ちゃん達に取られて拗ねちゃうんだ。

 ムーナって結構かわいい所あるじゃん。


「もぉ、心配しなくてもムーナの元から離れないからさぁー……ね?」


 ただ余りからかい過ぎると本当に機嫌を損ねてしまう。

 なのでムーナに近づき、かるーく抱きしめたのだが……


「……など」

「ん?」

「嫉妬など、しておらんわぁ!!」

「うわぁ!?」


 突然魔力を爆発させ、近くの空き家に向かってヤケクソ気味に魔法を放つムーナ。

 右手から放たれた業火は家を包み、一瞬で灰にさせてしまった。


「さっさと行くぞ!! わらわはもう知らん!!」

「えー!! ちょっと待ってー!!」

「あっ、お姉様!!」

「私達も行きますー!!」


 足音が響くレベルでアジトから離れるムーナを慌てて追いかける。

 勿論、盗賊達も引き連れて。

 あちゃぁ、これは相当だなぁ……今晩は意地でもムーナといて仲直りしよ……


「こっそり逃げようと思ったけど……やめよ」

「何なんだよあいつら……怖すぎる」


 ただ、ムーナの魔法で盗賊達が更におじけづいたのは、思わぬ副産物だったけど。

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