第16話:愛しい人

「こっちですよー!!」

「あ、うん……」


 ステラに連れられるがまま、街中を歩く。

 知り合いの彼女に会うってこんなに緊張するものだったんだ。まるでお見合いを間近にした母親のような気持ち……


「しかし、ステラに彼女が出来るとは……」

「やっぱり意外?」

「一生ボクの世話だけしてほしいーとか言うヤツじゃぞ?」

「あぁー……」


 ダメ人間の理想は高すぎる。

 自堕落で甘やかされたいステラに出来た彼女。一体どんな人なんだろう……


「あっ!! エメさーん!!」

「ん? おぉステちゃんやーん!!」


 ステラの姿を見た途端、駆け寄って抱きしめるポニーテールの女性。

 この人がステラの彼女?

 なんというか結構サバサバしてそうな明るい人。甘やかし系かと思ったけど意外だった。


「あ、こちら元上司とそのお仲間さんです!!」

「ムーナじゃ。500年前に魔王をしておった」

「ショコラです。その魔王を解放しました」

「おお、なんや結構濃いお仲間さんやな……ウチはエメラルっていうねん!! よろしく!!」


 凄くいい人って感じがする!!

 パーティに一人いたら嬉しいムードメーカー的な存在。

 こういう人が前のパーティにいてくれたら色々かばってくれたのだろうか……


「えーと、エメラルとステラは……」

「はい……えへへ」

「ちょ、もう言ったんか……恥ずかしいから、あんま広めんといてーやぁ……」

「とか言いつつ、嬉しそうじゃないですかぁ♡」

「そりゃあ、ステちゃんに会えたんやしぃ♡」


 すごい。すっごいバカップルだ。

 見てるだけで吐き気がするレベルで甘い。なんか周りにハート見えそうだもん、ていうか一瞬見えた気がする。

 

「あ……わわ……ひゃあ……」

「あれ? ムーナこういうの苦手?」

「苦手な訳!! な、ない……ない……!!」


 顔を真っ赤にして、うぅ……と顔を俯かせるムーナ。

 苦手なんだろうなぁと思いつつ顔を手で隠し、指の隙間からチラッチラって二人を見てた。ムッツリじゃん。

 

「と、とりあえず飲む話を……」

「ああ!! そ、そうですね!! どうですかエメさん?」

「んー? ウチは仕事終わったとこやし全然えーよ。お二人さんは?」

「私は大丈夫」

「わ、わらわもじゃ……」

「よーし!! では行きましょう!!」


〜〜〜


「かんぱーい!!」


 カーンッとグラスの音が気持ちよく響き渡る。ここはどこかの店。

 お酒はもちろん食事のバリエーションも豊富らしく、食べる前からワクワクしている。


「で、ステラとエメラルはどこで出会ったの?」

「うふっ、いきなりそこかいな……まあええけど」

「えっとですねぇ。エメさんが仕事をしてた偶然出会って……」

「そうそう。ウチが聖騎士として魔素の浄化のお仕事をしてたら、なんやちっこい魔族がおるなぁって……」

「ほぉ、エメラルは聖騎士か」

「せやでー、結構意外に思われるけど……ほれ」

「わぁ……本物の聖剣だ」


 エメラルがアイテムボックスから取り出した細長の剣。聖属性の魔力を感じるから間違いない。


「んで、ステちゃんと話してたら結構気があって」

「はい。それで……私から告白を……」

「おおー……いいねぇ」

「せ、青春しておるのう……」

「ま、まあな……ウチもステちゃんの事……好きやったし」


 三人とも照れちゃって、可愛いなぁ。

 

「えー二人はどこまでいったのー?」

「ショコラよ? それは聞きすぎではないか?」

「あ、えーと……お互いの心と身体を……その……」

「わー!? 馬鹿正直に言わんでええねん!!」

「な、ななななな何をしてるんじゃお主ぃ!?」


 あ、最後まで行ってる感じね。

 その熱さは朝から夜までずっとということ。

 ……カップルって凄い。


「えーでもショコラさんとムーナさんも付き合ってるんじゃ?」

「え?」

「おい、何故そうなる」

「だって大賢者スライムから魔力供給を……」

「ぶっ!?」

「な、何故それを!?」


 え!? あれステラも知ってたの!?

 確かに大賢者スライムは知ってたけど、まさかステラにまで伝わるとは……

 私としても結構恥ずかしい思い出だから忘れたいのにぃ!!


「魔力供給? あー……お二人さん結構大胆やな……」

「いや、そのね!? あんまりにもムーナが苦しそうだったから……つい」

「そ、そそそそうじゃ!! ショコラはわらわを思って助けを……!!」

「でもお二人とも顔が赤いですよ?」

「「キスしたら誰でもそうなる!!」」


 ぜぇぜぇと言いながら断固抗議を行う。

 恋愛話になるとやけにステラが強い気がするなぁ。ムーナもさっきから気力がごっそり削られたような顔をしているし。

 

「えー? そんなに恥ずかしがりますかねぇ? エメさーん?」

「んー? どういうことやー?」

「んっ……」

「「え!?」」

 

 ステラが唐突にエメラルを呼んだかと思えば、振り向いた顔に近づいて互いの唇を重ね合わせた。


「わ、わぁ……」

「あわわわわ……」


 唇が重なり合う音が聞こえる。

 み、見世物でも見てるのかな?

 そこまで深いキスでは無いのに、お互いのとろんとした表情がやけに色っぽく見えてしまう。


「ぷはっ……どうですか? ボクはそこまで恥ずかしくないですけど……」

「んっ……こーらっ!! 外ではあかんって言うたやろー!?」

「えー、でも物陰とかでいつもコッソリしてますしー……」

「それはそうやけど!! ここはお店やで!!」

「はーい、ごめんなさーい」


 なんて淫乱なんだ……

 こんな人目のあるところでキスをするなんて大胆すぎる!!

 ステラの意外な一面を見てしまった……


「ステラって……」

「ああ……まさかあそこまで振り回すとはのう……」

「ムーナは知ってたの? ステラが結構大胆な事」

「し、知らん……何も知らん……」


 ……何か知ってるな。

 目を逸らしたし、頬も赤らんでいるし。

 これまでのムーナの反応から察するに何かエッチな一面でもあったのだろう。

 ただ追求した所で知らん知らん!! と騒いで誤魔化すと思うので、今は黙っておく。


「さて!! お料理も来たので食べましょうー!!」

「ステちゃんは凄いなあ……切り替えが早すぎる」

「んー? なんの事ですかー?」 

「いや……もういい」


 ああ、普段からこうなんだろうな……

 エメラルも苦労してそうだ。


「おー……唐揚げだ。美味しそう〜」

「これは何じゃ?」

「それはサラマンダーの竜田揚げですねー……癖も少なくて

美味しいですよ」

「おおー!! デーモンスネークのスープや!! これめっちゃ美味いんよなあ……」

「エメさんそれ好きですよねー。ボクは少し苦手です……」

 

 一悶着あったが、私達は並べられていく料理にすぐ夢中になり、本来の目的である飲み会が始まる。

 ちなみに料理はどれも美味しかった。

 この辺の料理店に詳しいエメラルのオススメという事もあり、かなり満足のいく内容。

 また機会があれば来たいな〜!!


〜〜〜


「んー!! いっぱい食べたねー!!」

「ああ……デモニストの料理がここまで進化しておるとは……流石じゃ」


 飲み会の後、私達はエメラルに紹介された宿屋に泊まる事になった。

 二人一つの部屋で何故かダブルベッドだったけど。


「いい国だね……」

「ああ……わらわは幸せじゃ」

「楽しい?」

「勿論」

「ふふっ」


 ムーナが楽しそうならよかった。

 色々問題は起きたけど……それ含めて満足ならよし、かな?


「ステちゃん……」

「エメさん……」

「「ん?」」


 壁の近くにいたからか、はたまた薄いからか。隣の部屋からステラとエメラルの声が聞こえる。


「ちょっと聞いてみよ」

「ばっ……よくないじゃろ」

「いいってー面白そうじゃん」

「……確かに」


 なんだかんだでノリノリなムーナと共に壁に耳を当てる。


「「っ!?」」


 が、次に聞こえたのは、何かがきしむ音や激しい水音。そしてやけに甲高い二人の声。

 もしかして……


「エ、エッチな事だ……」

「な、なななな何をしとるんじゃあ……!!」


 まさか隣で発情しているなんて!!

 大胆なのは知ってたけど、ここまで行くとは……

 盗み聞きとはいえ、こちらの身にもなって欲しいなぁ!?


「「……」」


 で、問題は私達。

 隣ではやらしい音がして、こちらも少しもんもんとしてしまって。


((ヤバい……あの時のキスを思い出しちゃった……!!))


 しかもそれが原因でムーナとキスをした時の事が蘇った。

 お互い顔を背けて、頬を赤く染めている状態。

 つまり、めっちゃ気まずい。

 どうやら穏やかな夜は送れなさそうだ……もぉ、二人とも何してんのさぁ!!

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