第17話 ハンター
栄養がないのが見て取れる黄土色の地面が広々と開けた場所で、まばらに散らばった200強のモンスターの群れのいくつもの箇所。あっちこっちのモンスターが血飛沫を撒き散らし、爆発が空気を揺らす。
そんな群れの端では、レンヤが笑顔で動き回りながら両手で握るブレードでモンスターを次々と一刀のもとに切り倒し、モンスターの屍を生産する。
その少し離れたところを装甲と2丁の軽機関銃を備えた6輪のゴツい大型車が30キロ程で走っていた。
大型車の右横では、押し倒すように開けられた窓から風香は、低倍率光学サイトを載せたアサルトライフルの銃口を僅かにだしながらトリガーを引いて空薬莢を連続で飛ばす。
ルーフにはセミオートの対物ライフルをバイポットを介して置いて構えるアイナがテンポ早くトリガーを引いて爆音の発砲音を響かせ、マズルブレーキから勢いよく燃焼ガスをまき散らす。
風香は窓から銃口をはみ出しているこれは、少し知識があるものが見れば間違っていると言うだろう。一般的に壁を介して銃撃する場合、窓枠から銃口を出すと場所バレしてしまうことや接近されたときに掴まれてしまうため駄目な行為だが、車という限られたスペースで撃つさいは動きにくく窮屈になってしまうため、間違いではない。
大きく重く揺らす音と、連続して反響するような軽めの音。
この鳴り響く2つの音は銃声で、大型車には他の銃声はなく、アイナの横の端にある2丁の軽機関銃は稼働していない。
3人の実力をそれぞれが確認するという目的のためだ。
先でサユリが軽機関銃を動かしていたのは、モンスターの勢いを抑えるためと、耐久力が情報通りか確かめるためである。
実際に先の銃撃で、軽機関銃の弾丸3,4発でモンスターを倒せる程度の耐久性と判断できていた。
同じ弾薬を使う風香のライフルも、同じく3,4発撃ち込めればいいのである。
もちろん頭部や首、生命石がある左胸なら1,2発で倒れるため、あくまで目安だ。アイナの対物ライフルの場合は1発で十分すぎるため問題ない。
ちなみに風香が使用する弾薬の口径は6.8×51ミリと、現代では軍からハンターまで広く使われる一般的なもので、アイナの対物ライフルは12.7×99ミリとこちらも50口径では一般的な弾薬である。
「ヒット! 次は1時に300ほど。爆発物を飛ばすのが20体ほど」
「りょ。……確認。指? 爪? 飛ばしてるの?」
「それです。レンヤくんからもまだ遠いですが邪魔になるので早めにうやりましょう」
「ん、了解」
風香は車からアサルトライフルの引き金を引いて3,4発撃ち込みながら見渡して、得た情報をアイナに伝え、アイナは言われたモンスターを優先してテンポよく引き金を引いていく。
モンスターの中にはこういった遠距離攻撃ができるものなどがいて、弱いからと油断はできない。そういった、レンヤの動きの邪魔になるモンスターや遠距離攻撃が可能な個体、賢い個体など、優先すべきモンスターを車のルーフでマークスマン的立ち位置で撃つアイナに風香は知らせていた。
アイナにも他のハンター同様か、むしろより優れた感知能力を持ち、先にサユリに言われ感知したときのように認識できる。
だが、あくまでアイナの感知は俯瞰的にモンスターの存在を認識できるものであって、直接視認したときよりも得られる情報は劣ってしまうのだ。
なので、相手の能力などの細かい情報を知るためにはモンスターの一体一体を感知と一緒に識別する必要がある。
さらにゲームと違って、スコープなどの倍率のあるサイトを覗いて撃ってばマズルジャンプで視界が大きく揺れてしまい、当たったかどうかの判断が非常に難しい。
ましてアイナが撃つ対物ライフルは反動もおきい分、その揺れも当然大きくなりさらに分かりづらく、反動による体のズレや振動も相まってしまうため、一般人にはわからない大変さがあるのだ。
だから、風香がスポッターのようなことをやってくれるのはアイナにとって狙撃に集中するためでもありがたかった。
車右横側面から垂直に横を向いたときの方向を12時として時間で方向を表す方法とメートルで、大雑把に距離と時間を伝える。
必要最低限でアイナの邪魔をしないように、レンヤの位置と状況も気にしながら行うそれは、今日初めて合わせているように見えないほどがっちりと合わせていて、風香のハンターとしての技量が高いことがわかる。
アイナもだが、そもそも30キロほどの速度であっちこっちに曲がる走る車から安定して銃撃できているのが異常で、流石人外能力を得た一端以上のハンターと言える。
それは、まだ1時間も経たないうちに200強だったモンスターの数が残り100を切っていることからもわかる。
「すごいわね。想像以上だわ」
「ですね。なのでやることがありません」
「俯瞰的な視点と的確な判断能力があるし、アサルトライフルはレンヤよりも圧倒的にうまいわよね」
「……まぁ、兄さんはフルオート系は嫌いですから」
「反動が嫌いだからだったからだっけ?」
「はい。視線や体がぶるぶると震える感覚が嫌いみたいです」
「意外と神経質なのね」
「戦いだけですよ。普段は鈍感ですから」
「聞こえてるぞ?」
「おっと、兄さん。戦いに集中してください」
ヒナコとサユリが手元の電子デバイスに表示されるの索敵情報に注意しながら話す。
サユリは助手席に座るヒナコの後の情報機器が集まる席に座っていて、2人は距離が近いが銃声が鳴り響く中なので普段よりも声を張って話す。
その会話は、たまたまかわざとなのか、2人をよく知る風香以外の3人はわざとと思っているが、その会話は2人が冠るイヤーマフのマイクが拾っていて全員に漏れていた。
当然、モンスターの群れの中でブレードを振り回しているレンヤにも聞こえている。
レンヤもアイナも話しかけられた程度で気を散らしてモンスターにやられるような軟さはないため、サユリらの会話程度、問題はない。
「ん。……いつもより、っ勢いがない」
「え? あんな、に、倒しているのに?」
数が減ったことでさらに大きく余裕が出てきたアイナと風香も、撃つ手を維持したまま話に混ざる。
「いや、いつもよりも楽だから張り合いがなくてな」
「まぁ、今回は安全マージを大きくとった相手ですからね。でも油断は駄目ですよ」
「わかって、る!」
銃声が鳴り響く銃弾が鳴り響く中。素早く、鋭く振られたブレードがモンスターの頭を飛ばす。
見た感じはともかく、一番忙しいのは、地形に気を付けながら、重い大型車のハンドルを握るタクミかもしれないとサユリとヒナコは思った。
風香は冷静に引き金を引きながらも、内心に驚きを押し込んでいた。
モンスターが大量に押し寄せてきている中での間合いの運び、最低限の振りで切り倒す技術、大量に迫る攻撃をかすらせることなく対処する見切りと防御技術。それらを大型車にいるアイナと自分の攻撃の邪魔にならないように気にかけながら立ち振る舞って、数を相手にするなら有利であるはずの銃を使う風香と、スポッターとしての役割をこなしながらとはいえトリガーを引き続ける自分と、倒した数がほぼ同じなのだ。
しかも粗悪品とは言わないが、量産品のあんなブレードで、だ。
それだけではない。アイナにも風香は驚いている。
あんな大口径の対物ライフルを連続で撃ち続けるだけで意味がわからないのに、正確にモンスターの頭や胸といったバイタルゾーンにほぼ全て当てているのだ。自分が指したモンスターは当然で、その間にも近くのモンスターを撃ち続けて、だ。
車に接近してくる、近距離のモンスターを撃つ自分とは違い、アイナは100メートル程と近い相手から400メートル程離れた相手を撃っているのだ。
FPSゲームとは違い、距離が100メートルもずれればスコープのレティクルと弾道に大きなズレが生まれる。それを感覚だけで瞬時に補正させながら次々とヒットさせていくアイナも、風香にとって十分おかしかった。
(2人とも想像以上だ! すごい!)
冷静に撃ちながらも自分より年下の2人が、大人たちに負けない実力をもっている。
それを見て、内心では驚き興奮し、どこか嬉しいような、そして少し悔しいような、いつもより心臓が激しく動いていることを自覚しながら、風香は銃を撃ち続ける。
無意識に感じていた孤独感が溶けていくのを感じながら、忘れていた憧れと強くなりたいという単純な思いが蘇る。2人においていかれないように、追いつくためにと、作業的に撃っていた腕に血が巡る。
いつの間にか風香の口元には、気持ちのいい笑みが浮かんでいた。
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