第17話17
(このままだと俺は、国王からもこの国自体を追放されちまう。まっ、追放されたらされたで違う国でなんとでもして暮らすけどよ。でも、追放されないに越した事は無い)
コウはそう思った後、王子に帰るよう説得しようと口を開けかけた。
しかし、それをアキ王子が遮った。
「コウ。でも安心してくれ!母上は賛成して下さったから、今、母上が父上を説得して下さってる。父上は母上に弱いからね。すぐに必ずお許しが出ると思うんだ。だから、父上に命令され私を捕まえようとしてる治安兵がそこら辺を走り回ってるけど、あまり気にしないでくれ」
(あまり気にすんな?気にするわ!ダメだ。もしかして、アキ王子、俺よりバカじゃないのか?)
コウは、ガクッと肩を落としたが、何とかアキ王子に諦めてもらうしかない。
しかし、今この王子にコウが何を言っても引き下がらなさそうだ。
コウは、それなら王子に少しコウと実際旅をさせてみて、王子の方から根を上げて逃げ出すのを待ってみる作戦に移る事にした。
「アキ様……俺もいざ旅に出たらこのハイリゲンへの旅は思った以上に金銭的に厳しいです…」
コウは、あらたまった態度で、真剣にアキ王子の目を見て言った。
しかし、これは嘘でない。
コウの旅費は本当に少なかったし、景気の良い城壁都市ほど物価も高い。そして、今の宿探しに苦慮してるような予期せぬ問題も突発的に発生する。
「アキ様はきっと大金を持ってこられたから大丈夫とおっしゃるかと思いますが、俺とこれから一緒にいると言う事は、これからハイリゲンの領地と民を守る為にも質素倹約の暮らしをしていただかなければならない事もあります
し……アキ様が御自分の金銭を使わずに俺と倹約旅が出来るかどうか、やはり何日か拝見させて頂いてから結婚するか決めさせて下さい」
コウは、護衛やコックなどを旅の途中でスカウトして雇わなければならなかった。
少ない予算の中から王子の衣食泊まで出すのはかなりの痛手だが、王子はすぐ降参して城に帰ると確信していた。
王子はほんの一瞬だが、真顔でコウを見詰めた。
コウは、流石に王子も約束が違うとキレたかと、これはチャンスだと思ったが、王子はすぐに微笑んで言った。
「分かった。分かったけど……コウは、本当に……実直で優しいね」
「は?」
コウはキョトンとした。そしてどこが実直で優しいと言うのだろうか?と、やはりアキ王子はイカレてると心の奥で溜め息を着いた。
仕方無くコウは、同じく再び頭からフードを被ったアキ王子と共に早速宿探しに戻る。
だが、さっきまであれだけ祭りの群衆の中を沢山の治安兵がアキ王子を探してウロついていたのに、急にその姿が無くなった。
(もしかして、本当に国王陛下のお許しが出たんじゃ……いや、俺と結婚だぞ。陛下がお許しになる訳がない…)
コウは、横目でチラッとアキ王子を見た。
「うん?どうかした?コウ!」
アキ王子はすこぶる機嫌が良さそうだ。
「いえ……何でも…」
コウは、溜め息を我慢して前を向いた。
そして、5件目の宿も満室だと絶対に断られるとコウは思った。
なんなら今回は、断られた方がいいとも思う。
それならいきなり王族の使う大きい天幕も無い中野宿して、王子に旅の厳しさを分かってもらえ、コウの事も諦めてもらえるだろう。
だが、5件目の宿に着き、2人がフードを下ろし宿泊出来るか確かめると…
「あらぁ~!なんて美しい金髪に背が高くてキレイな御方なの~!今宿に泊まってる私の友人を私の家に泊める事にして今すぐ部屋を空けて掃除しますから!どうぞそちらにお泊り下さい!あっ、それまで、そちらでおくつろぎになって。すぐに紅茶をお持ちしますから」
宿の主人らしき中年のふくよかな女性は、宿のカウンター内からニコニコと愛想良く目の前のアキ王子に言って前方のソファを指さした。
「ありがとう。マダム」
アキ王子も、ニッコリと上品に女主人に笑いかけた。
(ゲっ!なーにが、マダムだよ……俺は絶対にそんな事言えねぇわ…)
コウは表情は無にしていたが、その2人の様子を横目で複雑な心境で見ていた。そして更に心底思った。
(女ってやっぱ、マジ背の高い男好きだよな…)
コウのアルファのプライドが背の低さで傷つくのはいつもの事だが、今は横に背の高いオメガの王子がいるから尚更だった。
しかし、そんな事も言ってられない。
コウ達が宿泊出来るのは良いとしても、問題は、本当にバカ高い料金だった。
やはりここは値切るか、それとも野宿するかコウは思案していると、そこにまさか、王子が深刻そうにしてコウを見て言った。
「でもコウどうしよう?こんなにマダムが親切にしてくれてるが……ちょっと普段より料金が高いから予算が……少し予算が足りないんじゃ?もう少し、もう少し安くなったら泊まれるのになぁ…」
コウが何を言っても常に前向きなアキ王子だけに、そのアキ王子の酷く落ち込んだような表情や言い方が、コウには妙に芝居がかって見えた。
それに、もっと変な事がある。
(なんで大国の王子のあんたが普通に値切ってんだよ!なんで庶民の宿の料金が高いとか高くないとかそんな事知ってんだよ!)
コウは、王子の目をガン見した。
すると女主人がすかさず返した。
「あらっ!そうなの?なら大丈夫。今はどこの宿も祭りで料金が上がってるけど、今回ウチは特別に通常価格にしときますから!どうぞ泊まってくださいな!」
話しは決まり、女主人は機嫌良さ気に、早速使用人に部屋の掃除を伝えにカウンターのある部屋を出た。
コウは自分が置いていかれたまま話しが勝手に進み呆然としていたが、王子がそんなコウの右手をギュッと握ってニッコリとして言った。
「言っただろ?私はコウの役に立てるって」
コウはその一言で、さっきのアキ王子の落ち込みがやはり芝居だと知った。
そしてコウは、コウの描いたシナリオが早々に崩れてる感じに内心慌てながら、何か得体の知れないモノを見るような目付きで、ニコニコしているアキ王子を見詰めた。
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