第8話 疑問を抱きつつ、その門を叩く。
護衛任務を引き受けるべく、窓口で申請すると一週間の外出許可書が渡された。これで、講義の欠席も認められる。
依頼の詳細を聞くため、神殿に向かうよう言われ、私たちはその門を叩いた。
*
静かな応接室で待たされている間、パークスが首を傾げて私を呼んだ。
「なぁ、アリシア。些細なことかもしれないけど」
「ここまで来て、怖じ気づいたの?」
「そうじゃなくて……司祭にも戦うことが出来る人もいるのに、わざわざ外に依頼を出したのは何でかなって思ってさ」
「それは、私も気になっているわ。それに、護衛でCランクっていうのも珍しいし」
「そうなの?」
私の言葉にミシェルは小首を傾げ、大きな青い瞳をぱちくりと瞬いた。
まさかとは思うけど、何も疑問を抱かずに引き受けようと思ったのかしら。
「そうよ。基本的にCランクまでは、命にかかわる危険がないと判断されたものなの」
「だから、俺たち下級生は引き受けられるのがCランクまでなんだ」
「えっ、Cランクまでなの!?」
「基本的にはそうよ。学園の外で引き受けて、それを報告するなら、自己責任で高ランクを受けることも可能だけどね」
「魔術師だけで受けるのは、難しいと思うけど」
「そうね。少なくとも、剣士や闘士を仲間にいれないと無理よね」
「だから、皆、学園の依頼しか受けないんだね」
ふむふむと頷いたミシェルは、出されていたお茶を静かに飲むと、ほうっと息を吐いた。
「入学してすぐに、先生が説明してくれたでしょ」
「そうだった?」
「そうよ。低学年に推奨するのはDランクだって」
「Cランクは高得点になるけど、怪我を負う覚悟で挑むようにって脅してたよね」
「私、この任務ってダミーなんじゃないかって思ってるの」
「ダミーって何?」
カップを受け皿に戻したミシェルは、また首を傾げた。その仕草が可愛いから許したくなるけど、彼女はこの依頼をどうして引き受けようと思ったのか、疑問と一緒に不安を感じてしまった。
だって、もしかしたら怪我を負うような大変な依頼かもしれないのに、全く緊張感が見えないんだもの。
「依頼の中には、学生の判断力を視るために高ランクのものを紛れ込ませることがあるらしいのよ」
「それ、俺も噂で聞いたことあるよ」
「実は先生が見張っていて、いざって言う時には助けに入るって話よね」
「そうなったら大幅減点間違いなしだろうな」
気の抜けた笑いを零したパークスがお茶の入ったカップを持つと、ドアが開いた。
現れたのは司祭服に身を包む長身の男だった。
「お待たせしました。魔術学園の皆さんですね。マーヴィンと申します」
席を立って挨拶を交わすと、マーヴィン司祭は空いている席に腰を下ろしながら、私達にも座るよう促した。
「早速ですが、依頼の説明に入らせて頂きます」
「その前に、質問をよろしいですか?」
私がそう尋ねると、マーヴィン司祭は笑顔を浮かべてどうぞと応えた。
この場で問い詰め、もしもダミーだと分かるなら断ることも検討しないと。だって、命を懸ける必要なんてないじゃない。
一度深く息を吸った私は、マーヴィン司祭をまっすぐ見つめた。
「司祭の方々は、私たち魔術師とは違う系統の魔法をお使いになりますよね。それに、騎士の皆さまと同じように戦える方もいらっしゃいます。こちらでも護衛に着く用意が可能ではないでしょうか?」
「そうですね。よほど危険な場所に赴くのでしたら、我らで護衛をするのが正しき行いでしょう。ですが、少々事情があり、魔術師
「……どういう事、ですか?」
「今回は、とあるご令嬢をリーヴにある神殿まで護衛していただきたいのです」
護衛対象は貴族令嬢と分かり、私は思わず反応していた。
もしかして、ここで恩を売れば一つの繋がりを持つきっかけになるんじゃないかしら。例え依頼を通した間柄と言っても、顔を見せ合うわけだし。
ダミーと分かれば断るべき。
そう思いながら、私の心は安全と夢を両天秤にかけて揺れ動いていた。
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