18 クラウスと私
「いいえ、別に裏切られてはいません。ジェイクは私をとても大切にしてくれています」
そう……私ではなく、この身体の本当の持ち主であるミレーユを。
「なら、何故この国に来ることにしたのだ?」
「それは、大公が私とジェイクの婚姻を反対していたからです。私のような者はお気に召さなかったのでしょうね。それに私はさんざん母国から姫という立場にありながら戦争に駆り出され、利用されてきました。もう、うんざりなのです。自分の国に復讐しようと決めました。そこで大公の手引で、この国へ来たのです」
クラウスはじっと私の話を聞いている。……こんな作り話を、果たしてクラウスは信じるだろうか?
すると……
「ハハハハハ! なるほど……随分と面白い話だ!」
突然クラウスが笑った。
「だから、自分の父を殺したのか? ミレーユ姫」
その言葉にビクリと反応してしまった。やはり、この国にも私が国王を殺害したというデマが流れてきているのだろう。
「……それは私ではありません。完全な濡れ衣です。私があの場にいったときには既に父は殺されていました。たまたま床に落ちていた剣を拾い上げたとき、衛兵たちが駆けつけてきて……私が犯人に仕立て上げられてしまったのです」
「それを信じろというのか? 誰も姫の話を信じなかったのだろう?」
ワイングラスを回しながら尋ねてくるクラウス。
「ええ。そうですね。でも……私ではありませんから」
あくまで断片的に残るミレーユの記憶を頼りに話をしているので、はっきりと答えられない。
「だが、そんなことはどうでも良い。何しろ、あの『戦場の魔女』と呼ばれる姫が戦から身を引き……国王は殺され、今あの国は戦争の士気が完全に下がってしまった。おかげで苦戦してい戦況が良い方向に変わってきたのだよ。姫には本当に感謝している」
クラウスがワイングラスをテーブルの上に置いた。
「……いえ、感謝されるほどのものではありません」
「いや、謙遜することは無い。我が国はミレーユ姫を歓迎しよう。ここでは誰もが姫を『戦場の魔女』とは呼ばないだろう。むしろ……」
突然クラウスは立ち上がり、こちらに近づいてくる。警戒した私は椅子から立ち上がった途端、クラウスに手首を強く握りしめられた。
「姫は若く美しい……私が可愛がってやろう。側室にしてやろうじゃないか」
言うなり、私はクラウスに引きずられるように部屋の奥に連れて行かれるとベッドが置かれている。
やはりそうだったのだ。クラウスは……はじめからそのつもりで私を呼び出したのだ。
すると突然クラウスが私を激しくベッドに突き飛ばした。
「きゃあ!」
勢い余ってベッドの上に倒れこむと、すかさずクラウスが覆いかぶさってきた。
その顔は薄暗い中でも分かるほど……欲にまみれた表情だった――
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