6 思いがけない言葉
ジェイクの強い口調に押され、私は断ることが出来なかった。黙って頷くと、彼はエドモントに声を掛けた。
「すまないが、ふたりきりで話をしたいので席を外してもらえないか?」
その言葉に、一種エドモントは私をチラリと見たが頷いた。
「……分かった。我々は隣の部屋にいる。話が済んだら声を掛けてくれ。行くぞ、ラルフ」
エドモントはラルフの肩をたたき、ふたりは奥の通路へ消えていった。彼らの姿が見えなくなると、ジェイクは私を振り向いた。
「……どういうことだ? ユリアナ」
「どういうことって……?」
彼のじっと見つめる視線が耐え難かった。
「とぼけるな? 俺が聞きたいことは分かっているだろう? ユリアナ、君は本当は記憶なんか無くしてはいないんじゃないか? 一体何者なんだ?」
「ジェイクさん……」
自分が何者か? そんなのはこちらが聞きたいくらいだ。
「何故黙ってるんだ? そんなに俺が信用できないのか? それともやましいことでもあるのか?」
じっと見つめてくるジェイク。
「そ、それは……」
思わず視線をそらせてしまった。ジェイクは命の恩人。本当のことを話すべきなのだろうが、信じてもらえるかどうかも分からない。それどころか話したところで頭のおかしい人間だと思われてしまうかもしれない。
「……分かった、もういい……」
ジェイクは私から顔を背けると出口へ向かって歩き出す。
さよなら……ジェイク。
そう、これでいいのだ。私は私の命と家族の命を奪った者を探し出し、報復すると決めたのだから。善良なジェイクを巻き込むわけにはいかない。いずれ全てが終わったらジェイクに感謝の気持をこめて何かお礼を……
少しずつ、遠くなっていくジェイクの背中をじっと私は見つめていた。
それなのに……
「待ってください!」
気づけば彼を引き止める言葉が口をついてでていた。
「え?」
私の言葉に振り向くジェイク。
嘘? 何故?
私はジェイクを引き止めるつもりは全く無かったのに。それなのに自分の気持とは真逆の言葉が口をついてでてしまうなんて。
それはまるで自分の意思に反しているかのように……
「ユリアナ……」
ジェイクは立ち止まって私をじっと見つめている。
いいえ、私はあなたに一切の事情を話すつもりはないわ。だから、もう行ってちょうだい。
そう、言おうと思っていたのに、またしても私の口からは信じられない言葉が口をついてでてくる。まるでこの身体の本来の持ち主に操られているかのような感覚だ。
「行かないでください、ジェイクさん。私にはあなたの協力が必要なのです!」
「……本気で言ってるのか? ユリアナ。ならどういうことなのか……説明してくれるのか?」
「はい、私の知っている事実を全てお話します」
そこでふいに私の言葉は自由を取り戻したことを察した。
仕方がない……
私は覚悟を決めて、ジェイクに事情を説明することにした――
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