14 条件
「どうしても、『ウィスタリア』地区へ行くと言うのかい?」
ジェイクは私を見つめたまま、問いかけてくる。
「そうです」
頷く私にジェイクがため息をついた。
「決心は硬いという訳だね?」
「はい。ジェイクさん、今迄大変お世話になりました。このご恩は、何らかの形でいつか必ずお返しします」
するとジェイクが眉をしかめた。
「ユリアナ……一体君は何を言っているんだい?」
「無謀だと思うのは当然かもしれませんが、どうしても行かなければならないのです。でも止めないで下さい。もう決心したことですから」
『ウィスタリア』へ行けば、十年前何があったのか手掛かりが掴めるかもしれない。どうして今のような状況になってしまったのかも……。
「君の決意は硬いのだろう?だったらもう、止めないよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
私は笑顔でお礼を述べた次の瞬間、ジェイクが耳を疑う発言をする。
「ただし、その代わり僕も一緒に行くのが条件だ」
「え⁉ な、何を言っているのですか⁉ 先程、 『ウィスタリア』へ行くのは危険だとジェイクさん自身が言っていたじゃないですか。それなのに私についてくるというのですか⁉」
「危険だからこそ、ついていくんだよ。大体、あの地区まで行くのにどうやって行こうと思っていたんだい?」
「え……それは歩いて……」
「無理だね」
即答するジェイク。
「確かに『ウィスタリア』は遠いかもしれませんが十時間も歩けば辿り着けると思うのですけど」
すると彼は呆れたようにため息をついた。
「本気でそんなことを言っているのか?今戦争中なのは説明しただろう?ならず者の兵士達だって沢山いる。女性の一人旅なんて、獣の群れの中に獲物を投げ込むようなものだ。捕らえられて慰み者にされて……奴隷のような扱いを受ける可能性だってあるんだぞ?」
その言葉に背筋がゾッとした。十年前高潔な騎士たちが大勢いたと言うのに……?
「大体、それ以前にそんな靴で十時間も歩けると思っているのか?恐らく君の足では十時間どころか丸一日歩き続けても辿り着けはしないだろう。その前に兵士達に襲われるか、獣に襲われるかで命を落とす危険のほうが高い」
「そ、それは……」
大袈裟に聞こえるけれども、あながちジェイクの言葉は間違いないだろう。今の私は武器を持ってもいないし、それ以前に剣を振ることすら恐らく不可能だ。たかだか水桶一つ、重くて運ぶことが出来ないのだから。
本当に……なんて無力な身体に私の魂が宿ってしまったのだろう。
思わずうつむくと、ジェイクが声を掛けてきた。
「ごめん、ユリアナ。言い過ぎたかもしれない。だけどそれだけ君のことが心配だからなんだ」
「いいえ。ジェイクさんの言葉も分かります。ですが、私はもうこれ以上ジェイクさんにご迷惑をお掛けする訳には参りません」
「ここを出て、一人で『ウィスタリア』地区へ向かう方が俺にとっては余程迷惑なんだけど?」
その言葉に驚いた。
「で、ですが……何故、ここまで私に良くしてくれるのですか?」
「それはね、俺が君の命を救ったからさ。だから君が危険に晒されるのを見過ごすわけにはいかないんだよ」
そしてジェイクは笑みを浮かべた――
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