10 体力の無い身体

 翌朝――


 夜明けと共に目が覚めた。窓から外を眺めれば山間から太陽が眩しい光を放ちながらその姿をのぞかせている。


 そっとジェイクの様子を伺えば、彼はまだ眠っているのか寝息が聞こえている。

ジェイクを起こさないようにベッドから抜け出ると、小屋の扉を開けて外に出た。


「清々しい天気だわ……」


 そしてこの身体で目覚めて初めて見る外の景色を眺めた。荒れ果てた大地に点々と立ち並ぶ、バラックのような家屋。まるで急ごしらえで用意したかのような家屋は造りがとてももろく見えた。


「そう言えば、昨年この集落が襲われたと言っていたわね」


 ジェイクは集落の半分以上が焼き尽くされてしまったと話していた。それに今は戦争中で何もかもが不足している。その上、いつどこでまた戦火に巻き込まれるか分からない。


「だからこんな小屋のような場所に住んでいるのね……」


 もう一度改めて周囲を見渡すと、少し先に川が流れている様子が見えた。


「川……私はあの川の上流から流されてきたのかもしれないわ……」


 けれど、近場に川が流れているのは有り難い。何かジェイクの役に立てることをしなければ。

 集落の家々を見る限り、井戸は無い。川が近いので恐らく大きな水瓶か何かに川から汲んできた水をためているのだろう。


「そうね、川の水でも汲んでこようかしら」


 私は早速、小屋の中に戻ると水桶と天秤棒を見つけた。


「これで汲んでくればいいわね」


 こう見えても体力には自身がある。女だてらに剣を握って戦場で戦ってきたのだから。


 音を立てないように水桶と天秤棒を手に取ると、私は川へ向かった――



 ザァザァと流れる川に水桶を沈めて水を満たして川から引き上げようとしたものの重くて汲み上げることが出来ない。


「お、重いわ……」


 何とか水桶を引き上げたものの、桶の中には半分の水しか満たされていない。


「そ、そんな……」


 これではもう一方の桶にも水を入れて運ぶことなんて出来そうにない。


「どうしてなの?以前の私ならこれくらいなんてことは無かったのに……」


 そのときになって、肝心なことを思い出した。そうだった、この身体は自分の身体では無かったのだ。


 改めて自分の腕を見ると、白く……か細い。以前の私の手は剣を奮っていたが故に分厚く、硬い手の平で健康的だった。けれど今は似ても似つかない。指は細くカサついている。


「そう言えば……私がジェイクに助けられていたときに着ていた服はまるで囚人服か、奴隷が着る服のようだったわね……」


 この身体の持ち主は自分の置かれた環境下から逃げ出した末、川に落ちてしまったのだろうか?


「それにしても何て体力の無い身体なのかしら。これでは水を運ぶことができないわ……」


 川辺に座り込み、肩で息をしていると背後から突然名前を呼ばれた。


「ユリアナ!」


 驚いて振り向くと、息を切らせて私を見下ろしているジェイクの姿があった――

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