8 十年前の事件

「謀反の罪……?い、一体どういうことですか……?」


 全身から血の気が引き、心臓が激しく脈打つ。


「ひょっとして、ユリアナはこの国の者では無かったのかい?ベルンハルト家は知っているのに……?まさか、敵国のスパイなのか?」


 ジェイクの目が疑わし気な眼差しに変る。


「い、いえ。そうではないのです!じ、実は……私、記憶があやふやなのです……。自分が何故川に落ちたのかも……覚えていなくて……」


 まさかこの世界が私の知る十年後の世界で、しかもこの身体は自分のものでは無いなどと話せるはずが無かった。


「そうだったのか……?そう言えば鏡を見た時に悲鳴を上げていたけど……あれはどういことだい?」


「そ、その顔も……本当にこれが自分なのかと認識出来なかったものですから……」


「成程、だったら納得がいくな」


 私の話を信じてくれたのか、ジェイクが頷く。


「それでは続きを教えて頂けませんか?本当に……謀反の罪で全員処刑されてしまったのですか……?」


「そうだよ。今から10年前の話だよ。当時の俺はまだ子供だったけど、あの時のことは忘れたくても忘れられない。何しろあの日を境にこの世界はおかしくなっていったからね」


「ジェイクさんの……知っている限りのことを教えて下さい……」


 我ながら、妙に冷静に尋ねていると思う。

 でもそれは恐らく私の感覚がすっかり麻痺しているせいだ。家族が全員処刑されてしまったと言う話を聞かされても、実感がわいてこないのだから。

 

「いいよ。教えてあげよう。十年前、ベルンハルト家にはこの国の第二王子と婚約していた公女がいた。けれど、ある日行方不明になってしまったらしい。ベルンハルト家は血眼になって公女を探したらしいけど、結局見つからなかったそうだ」


「そ、そうだったのですか……?」


 家族には内緒で家を出た。王子の指示通りに……だから行方がつかめなかったのかもしれない。


「そして、ベルンハルト家は公女の行方不明と第二王子が何か関係していると思ったようだ。そこで王家に赴き…‥関係が破綻してしまった。ベルンハルト家は王家への忠誠心を捨て、反乱を起こした」


「は、反乱を……?」


「そうだよ。最初はベルンハルト家が優位に立っていたのだけれど、いつの間にか冷戦状態だった『タリス王国』と手を結んでいた。二つの国の兵力にベルンハルト家は当然敵うはずも無く、反乱は失敗し……」


「そ、それで……一族は全員……処刑されてしまったのですか……?」


「そうだよ。ベルンハルト家は全員根絶やしにしなければならないと言って……まだ幼い子供もいたのに、可愛そうなことに全員処刑されてしまったんだ」


「そ、そんな……!」


 耐え難い事実だった。父も母も……2人の兄。そしてまだ幼かった弟に妹……全員が処刑されてしまったなんて……!


「大丈夫かい?ユリアナ。余程ショックだったみたいだね。顔色が真っ青だ」


「そ、そうです……ね……確かにショックな話です……」


 それだけ答えるのがやっとだった。

 ショックなのに、まだどこかで信じられない自分がいる。


 私はどうしても現実味を感じられずにいたのだった――

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