まに太の恐竜

夏野

第1話 通学路

「はぁぁ」

 今日も郁ちゃんに飛び蹴りされると思うと憂鬱だ。

朝の通学途中で、間仁まに太くんは小学生らしからぬ深い溜息をついた。


 まに太くんは、有隣堂小学校へ通う5年生。新学期のクラス替えで、仲良しの岡崎弘子ちゃんとまた同じクラスになれて嬉しいけれど、乱暴者の渡邉郁ちゃんとも一緒になったのは残念だった。


「間仁くん、おはよう。どうしたの? 浮かない顔だね」

「出来芝くん、おはよう」

 出来芝健太郎くんは、この春に広島から来た転校生。頭も良くてスポーツも万能で、1年間に3万冊も本を読むのだと先生に紹介されていた。早速、先生に学級委員長に指名された秀才だ。


(いくら学級委員長でも女の子にいじめられているなんて、恥ずかしくて言えないよ)

まに太くんは無言でうつむいた。


「なにか悩みがあるのなら、これを読むといいよ」

 出来芝くんは鞄の中から『日本百名山』というタイトルの本を取り出した。

「山に行くと自分がちっぽけな存在だって実感して、悩みなんか吹き飛ぶよ。なんで人は山に登ると思う? そこに山があるからだよ」

「はあ」

 まに太くんは、分かったような分からなかったような返事をした。結局なんだかよく分からなかった。


 校舎から朝のチャイムの音が聞こえてきた。

「やばい、遅刻だ」

「急ごう」


 二人は駆け足で学校の門をくぐった。

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