40. 裁判
「シルフィーナ、おはよう」
「おはようございます、アルバート様」
普段通りの朝を迎えて、笑顔で挨拶を交わす私達。
あんな事があったのに、侍女さん達もいつもと変わらずに接してくれているから、嫌な記憶が蘇ってしまうことは無かった。
でも、ガークレオン様――いえ、もうクリムソン家から勘当されたのだから、ただのガークレオンね。
彼の裁判がこれから行われることになっていて、私も裁判の経過を見届けることになった。
でも、王家の方々が配慮してくれて、私は鎧兜で顔を隠した状態で参加出来ることになった。
騎士団に紛れることになるから、裁判の間はずっと立っていることになる。
けれども、長時間立ったままでいることを苦に思うほど私はか弱くないから、この配慮受け入れることに決めたのよね……。
ちなみに、裁判に参加するときの私は「救出作戦に参加して、シルフィーナから状況を聞いた騎士」ということになるから、演技は忘れないようにしないといけない。
発言する機会は、裁判の最中で事実と異なる出来事が事実にされてしまいそうな時だけ。
だから、今の私はそれほど緊張していない。
「今日も綺麗だよ」
「ありがとうございます」
そんな言葉を交わしながら、朝食に向かう。
食堂に着いてから少しすると、ふわふわのパンと薄黄色のクリームスープ、それにサラダが運ばれてきた。
ちなみに、この場所には全ての毒に反応する魔道具が置かれているから、毒味はされていない。
その魔道具は少しの量でも反応するのだけど、お酒にも反応してしまうらしい。
だからお酒の類はここでは呑めないのだそう。
「「いただきます」」
食前の挨拶をしてから、食事を始める私達。
国王夫妻と私とアルバート様以外に、第二王子殿下と第三王子殿下、それに二人の王女様も同じ時間に食事をとるから、いつも賑やかだ。
最初は不安だったけれど、王族の方々は私のことを受け入れて下さているから、ここでのお話は毎日の楽しみにしている。
でも、この心地よい時間も永遠ではないから、食事を終えた私は裁判に参加するための準備をすることになった。
☆
「これより、罪人ガークレオンの裁判を始める」
あれから一時間ほどが過ぎ、目と口の辺りにだけ穴が開いている兜をかぶり、鎧に身を包んだ私はアルバート様の近くで護衛を装って裁判に参加していた。
視界は狭いけれど、これならガークレオンと目が合うこともない。
だから、恨み言を言われることも無いはず。
「ガークレオン。お前には精霊の愛し子を攫い、危害を加えようとした罪がかけられている。
何か相違はあるか?」
「すべて事実です」
「はい。シルフィーナ様には申し訳なく思っています」
どこかの誰かと違って、身分を失ったことを自覚している様子のガークレオン。申し訳ないという気持ちも偽りではない様子だった。
でも、彼から敬語で呼ばれるのは慣れないわ……。
「罪を認めるのだな?」
「はい」
それに、何も抵抗することなく罪を受け入れている様子には違和感すら感じてしまう。
罪を潔く認めれば、罰が軽くなるという噂は存在しているけれど、陛下が罪を軽くするとは思えなかった。
「この件に関わった者で異議のある者はいるか?」
陛下がそう口にしても、手を挙げる人はいなかった。
私にも反論することは無かったから、そのまま静かに次の言葉を待った。
「では、王家で調べたことに相違は無かったこととする。
これより、ガークレオンの刑罰を言い渡す」
それから少し間を置いて、陛下は淡々と刑罰を告げた。
「罪人ガークレオンは十年間の鉱山送り、及び王都からの永久追放とする。万が一王都に立ち入った時は、処刑も辞さない。よいか?」
鉱山送りの刑は処刑よりも軽い罰に見えるかもしれないけれど、中身は処刑と同じくらい厳しいもの。
過酷な環境で無理矢理働かされて、死にそうになっても誰も助けてくれない。
この刑に処されたら、七割の人は生きて帰れないというのだから、その過酷さが窺える。
でも、ガークレオンが取り乱す事はなかった。
「はい。陛下のお心のままに」
俯きながら答える彼の表情は見えないけれど、ポタポタと零れ落ちた透明な雫が床に跡を残していた。
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