5. 思い出と同じ
気付かれないように、アルバート様の頭に乗せてみようと思って彼の方を向いて、花冠を持った手を伸ばす。
けれども途中で気付かれてしまって、目が合った。
「プレゼント、です」
咄嗟のことだったから、それだけを言って花冠を乗せる私。
すると、彼もまた花冠を作っていて、そっと頭に乗せられた。
「僕からもお返しするね」
「ありがとうございます。昔に戻ったみたいですね」
仮面ではない本心からの笑顔を浮かべて、そんな言葉を返す。
すると彼も笑顔を浮かべて、こんなことを口にした。
「そうだね。なんでか分からないけど、君といると安心するよ」
「奇遇ですわね。私も貴方といる時は、心地よく感じていますわ」
言っていて恥ずかしくなってしまったけれど、今度は顔を背けたりはしなかった。
心地良い時間。でも、永遠ではない。
思っていたよりも時間が経っていて、侍女がパーティーの準備をするようにと告げてきたから、今日はここでお開きになった。
今着ているのは、庭園で汚れても大丈夫な簡素なドレスだから、このままパーティーに向かうことは出来ない。
だからアルバート様とは一旦別れて、王宮内に与えられた部屋に戻った。
「おかえりなさいませ、お嬢様。時間がありませんから、急ぎますよ」
「遅くなってしまって申し訳ないわ……」
以前は私の専属だった侍女のミモザにそう返して、姿見の前に立つ私。
屋敷では侍女の手を借りられないことが多くなってしまって、簡素なドレスなら一人でも着られるようになった。
でも、ミモザがしてくれた時のように短い時間では出来なくて、こんな風に綺麗にもならなかった。
今もだけれど、ここに来て初めて手を借りた時、侍女の大切さをひしひしと感じた。
再会した日のうちに義母による解雇を止められなかったことをミモザに謝ったのだけれど、私が無理してないか心配されてしまったのよね。
「こんな感じでよろしいですか?」
「ええ、ありがとう」
くるりと回って背中側も問題が無いか確認してから、お礼を言って部屋を出た。
約束していた通りに部屋の前で待っていたアルバート様は、私に気付くと笑顔を向けてくれた。
「お待たせしました」
「すごく綺麗だ。さっきとは少し印象は変わったが、どちらもすごく良い」
「アルバート様も、素敵ですわ」
私を褒めてくださる彼もまた、キラキラと輝いているように見える。
それはパーティーが始まってからも変わらなくて、アルバート様が眩しくて私が霞んでしまったように錯覚してしまうほど。
少し悔しいけれど、今日は彼が主役だからこれで良いのよね……。
「シルフィーナ、久し振りだから足を踏んでしまうかもしれないけど、一曲付き合ってもらえないかな?」
「はい、喜んで」
私が笑顔で口にすると、彼は会場の真ん中の方までエスコートしてくれた。
タイミングよく曲が変わり、ステップを踏む私達。
でも、その最初のところでアルバート様に爪先を踏まれてしまった。
「ごめん」
「大丈夫ですわ。続けましょう?」
「痛くはなかった?」
「ええ、靴が守ってくれたみたいです」
気を取り直して、私がリードしていく。
途中からは感覚を取り戻したのか、私がアルバート様にリードされる形になっていた。
それでも、久々に彼と踊れてすごく楽しかった。
幸いにも最初の失態は誰にも見られていなかったみたいで、曲が終わる頃には周りから拍手を贈られた。
「踊っているの、私達だけでしたのね」
「難しい曲だったから仕方ないよ。少し疲れたから、一旦休んでも良いかな?」
「ええ。私も疲れてしまったので助かりますわ」
お互いに手をとって壁際に移動する私達。
それからはお話をしながらパーティーを楽しむことができた。
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