第11話 疑問

 蝉の鳴き声がうるさいくらいに頭の中に響く。

 

 外は圧倒的猛暑。

 しかし、室内はクーラーのおかげで快適な室温になっていて、人類の発明は偉大だなぁと実感していた。


「ちょっとそこのコーラ取って」


「うぃ」


「ん、さんきゅ」


 相も変わらず俺と沢城は夏休みでも部屋でゴロゴロしていた。

 ……いや、せざる負えない。なぜなら俺の生息範囲はこの部屋の中だけだからだ。


「そういやこの漫画の劇場版が今日公開だったな」


「え、そうなの⁈ それは知らなかったわ……」


「沢城めっちゃ好きなんだし、見に行ったらどうだ?」


「そうね……」


 じろりと俺を見て、いやと首を横に振る。


「暑いしいいわ。それに日差しが強いから日焼けしちゃうわ」


「そうか」


「……何残念そうにしてるのよ。もしかして、私に部屋から出て行って欲しいの?」


「いや、そういうわけじゃないけど」


「じゃあ何よ」


「それは……」


 夏休みが始まって一週間半、思っていたことがある。

 沢城と俺は夏休み中かなりの頻度で会っているのだが、沢城は俺の家でいつもの週末と変わらないことをしている。


 せっかくの高二の夏休みだ。

 きっと沢城も青春っぽいことをしたいに決まっている。


 でも俺が引きこもりだから、気を遣ってるんじゃないかと思っているのだ。

 

 だとしたらすごく嫌というか、沢城の夏休みを無駄にするのは申し訳ないというかなんというか……まぁ、そういう感じなのだ。


「はっきりしなさいよ」


「え、ええと……沢城は外で遊びたくないのか? 例えば海とか」


「嫌よそんなの。だって暑いじゃない」


「まぁそうだけど」


「……やっぱり私に出て行って欲しいんでしょ?」


「違うって! というかむしろいて欲しいというか……」


「え?」


「……あ」


 まずい。つい口が滑ってしまった。

 らしくないことをしたなと後悔していると、ぷるぷると震える沢城が俺を鋭く睨んできた。


「……そ、そういうこと言うんじゃないわよ」


 しかし、いつもの圧力はなくむしろ可愛かった。


「お、おう。……悪い」


「も、もうぅ」


 気まずさが部屋に充満する。

 それを誤魔化すように読みかけの漫画を開いた。


 沢城も同じようにして数十分。

 没頭していたらいつの間にかそんな空気はなくなっていた。


「それで、夏休みは予定とかないのか?」


「特にないわね。まぁ友達と遊ぶのが何個か」


「なるほど」


 さすが人気者の沢城だ。

 きっと引く手あまたなのだろう。


「五十嵐は?」


「……お前皮肉もいいとこだぞ」


「普通に聞いただけよ」


「……別に、何もないけど」


「だと思ったわ」


「ひどいな⁈」


 今日もツンツンが冴えわたっている。

 まるで毎晩ツンを研いでいるかのようにいつも完璧ですネ!


「全く……」


 それにしても、とふと思う。

 

 沢城はどうして不登校である俺に何も聞いてこないのだろう。

 普通ならもっと「どうして不登校になったのか?」とか「学校行かないか?」とか言うものだ。


 でも、沢城は普通の奴みたいに接してくれる。

 

 そういえば沢城が俺に毎週プリントを届けに来てくれる理由だってそうだ。

 確かに沢城はいい奴だから誰もやりたがらないことを買って出てくれたという可能性もある。


 だが、それだけではないような気がしていたのだ。


「なぁ、沢城」


「ん?」


 ポッキーを咥えながら漫画を読む沢城に唐突に聞く。



「なんで沢城は、不登校の俺に何も言わないんだ?」



 

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