第25話 説明……ですよね。


 なんで? どうして?


 私の偽装した化粧は、特殊な製法で作った色粉を使っているから、汗や水に濡れても簡単に落ちたりしない。

 専用の薬液を使って落とさないと落ちないのに。


 だけど……今の私の姿は、湯船に浸かって念入りに化粧を落としたみたいに、綺麗に落ちている。

 手も足も全てが……偽装する前の姿になっている。


 一体いつから? 



 ———あっ! そうだ。



 虹彩花をとりに行った時に、泉に入ったんだった。

 あの時は必死だったから……。


 ……だけど、そんな事で簡単にとれたりする偽装化粧じゃないんだけどな。

 でもそれしか考えられない。


 だから飛龍様も紫苑様も『翠蘭か?』って私の事を不思議そうに見てたんだ!


 私のおバカ! なんでその時に気づかないの。


 おっと、過去を悔しがっている暇はないんだった。

 目の前の窮地をどう切り抜けたらいいの!?


 なんて説明しよう。


 ……………


 ……………


 ……………だめだ! まったく何も思い浮かばない。


「翠蘭? 話してくれぬのか?」


 一人考え込んでいたら、飛龍様が再び質問してきた。

 ずっと返事を返さないのは失礼だ。もう思ったまま言うしかない。


「ええと……そのう、私の髪の色は目立つので、村で暮らしていた時も特殊な色粉で染めて過ごしていました。だからこれはそのう……習慣というか」


 何を言っているのか、自分でもよく分からない。


「習慣のう……せっかくの美しい髪をわざわざ汚すなど、我には分からぬ」


 そう言いながらも飛龍様は私の髪を人束とり優しく触れる。


「肌まで黒く見せていたとは……翠蘭の化粧の技術は素晴らしいですね」


 紫苑様が私の顔をまじまじと覗き込むように見てくる。あまり見ないでください。緊張します。


「飛龍様や皆様を騙したことになりますよね。すみません、処罰なら受けます」

「何を言っておるのだ? 皆の病気を治してくれたのだ。褒美ならわかるが罰など……ったく」


 飛龍様は少し呆れたようにそう言うと、私の頭をクシャリと撫でた。


「ここでは騒がしい。一旦、部屋に戻ろうぞ」


 椅子から立ち上がると、私の手を引き立たせてくれた……っと思ったら。


「ひゃっ!? あのっ!?」


 なんと飛龍様は私を抱き上げた。これはお姫様抱っこというものでは……。


「疲れて足も動けんであろ? だから運んでやる」

「いやあっ、だだっ、ダイジョウブデス。歩けるますよ!」

「ククッ。何を言っておるのだ。無理して歩く必要はない」

「そのっ……でもっ」

「いいから黙って抱かれておれ。部屋に着いたら詳しく聞かせてもらうからのう」


 飛龍様はそういうけれど。

 みんなが注目して見てるし、何よりこんな事されたことがないので、どうしたってドキドキして落ち着かない。

 早く部屋に着いてと願うしかなかった。



 ★★★



「やっと静かになったのう」

「……そうですね」

「ふむ? どうしたのだ? 顔が赤いのう……疲れておるのか?」


 飛龍様が心配そうに私の顔を見るんだけれど。

 それは貴方のせいですよ! とはもちろん言えないので「大丈夫です」と答える。


 飛龍様に抱っこされたまま、つがい審査をした広い部屋に戻ってきた。

 この広い部屋には、奥にある飛龍様が寝ていた寝室とは別に二つ部屋があり、その内の一つの部屋に案内された。

 その部屋の中は、高そうな調度品が並べられ、絵画なども飾られている。

 物に触って壊さないように、少し緊張しながら椅子に座った。


 椅子に座って落ち着いていると、一つの大きな絵画が目に飛び込んできた。


「えっ……」


 絵画に書かれていたのは、龍人族の男性と赤い髪色の女性……私? そんな訳ないけれど、似ている。


「気づいたか? その絵を翠蘭に見せたくてこの部屋に連れてきた」

「この人たちは……」

「先代の龍王とその番だ」


 龍王様と

 赤い髪の女性が番……


「少し昔話をしようかのう。聞いてくれるか?」

「はい。もちろんです」


 飛龍様はゆっくりと話し出した。


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